「今月も月商100万円を達成!」
帳簿上の売上を見て、そんな喜びに浸るのも束の間、月末に銀行口座の残高を見て愕然とする…。「あれ、なぜか手元にお金が残らないどころか、むしろ減っている…?」
あなたも今、そんな**「売上はあるのに、現金がない」**という、得体の知れない不安に駆られていませんか?
もしそうだとしたら、危険なサインかもしれません。その経営、最悪の場合「黒字倒産」への道を歩み始めている可能性があります。
ご安心ください。この記事では、単なる「月商」と「月利」の言葉の違いを解説するだけではありません。あなたのその不安の正体を突き止め、売上の”幻”に惑わされることなく、手元にしっかりと「現金」が残る経営体質へと生まれ変わるための全知識を、誰にでも分かるように解説します。
この記事を読み終える頃、あなたはもう「月商」という数字に一喜一憂することはありません。自社の本当の「儲け」と「体力」を正確に把握し、自信を持って事業を成長させるための、確かな羅針盤を手にしているはずです。
1. 「月商100万円」なのに、なぜ手元にお金が残らないのか?
ECサイトの管理画面や会計ソフトに表示される「月商100万円」という文字。
独立したばかりの事業主やフリーランスにとって、それは努力が実を結んだ証であり、大きな達成感と喜びを感じる瞬間でしょう。
しかし、その喜びも束の間。給与の支払いや仕入れ代金の引き落としが迫る月末、銀行口座の残高を見て、あなたはこう思いませんでしたか?
「売上は100万円のはずなのに、なぜか現金がほとんど増えていない…いや、むしろ先月より減っているかもしれない…」
もし少しでも心当たりがあるなら、それはあなたのビジネスが、多くの事業主が陥る**“落とし穴”**にハマっている危険なサインです。
1-1. 全ての事業主が陥る「売上はあるのに、現金がない」という罠
ご安心ください。その現象は、決してあなただけが経験しているわけではありません。
「売上は順調に伸びているのに、なぜか資金繰りはいつもカツカツで、税金の支払いに怯える」
これは、事業規模の大小を問わず、驚くほど多くの経営者が抱える共通の悩みです。
この「売上高」という一見華やかな数字だけを追い求めてしまうことこそが、「売上はあるのに、現金がない」という罠の入り口なのです。
この罠の恐ろしいところは、放置すると、帳簿上は利益が出ている(黒字である)にもかかわらず、支払いに必要な現金が底をつき倒産に至る**「黒字倒産」**という最悪の事態を招きかねない点にあります。
1-2. 結論:あなたが経営で見るべきは「月商」ではなく「利益」と「現金」
では、どうすればこの危険な罠から抜け出せるのでしょうか。
結論から申し上げます。あなたが今日から意識すべき指標は「月商」ではありません。たった2つ、**「利益」と「現金(キャッシュ)」**です。
- 月商(売上高): 事業の**「規模」**を示す数字。いくら高くても、それだけでは儲かっているとは言えません。
- 利益(儲け): 事業の**「実力・体力」**を示す数字。売上から経費を差し引いて、本当に手元に残るお金の源泉です。
- 現金(キャッシュ): 事業の**「血液」**そのもの。これがなくなれば、どんなに利益が出ていても事業は止まってしまいます。
この3つの関係性を正しく理解することこそ、お金の不安から解放されるための第一歩なのです。
1-3. この記事を読めば、自社の本当の儲けと経営状態が5分で分かります
「会計の知識なんてないし、難しそう…」と思われるかもしれません。
大丈夫です。この記事では、専門用語を極力使わず、具体的な数字や身近な例え話を交えながら、誰にでも直感的に理解できるよう解説していきます。
この記事を最後まで読めば、
- 「月商」と「利益」の決的な違い
- あなたのビジネスの「本当の儲け」を出すための簡単な計算方法
- 利益が出ているのに現金が減る、恐ろしいカラクリ
これらが明確に理解でき、ご自身の事業の経営状態を正しく診断する力が身についているはずです。
さあ、売上の幻から目を覚まし、本当の意味で「儲かる事業」を育てるための知識を身につけましょう。
2. 月商(げっしょう)とは?- 事業の「規模」を示す指標
まず、全ての基本となる「月商」という言葉から正確に理解していきましょう。
多くの人が月商の数字の大きさだけで一喜一憂してしまいますが、それは車のスピードメーターを眺めているようなもの。どれくらいの勢いで進んでいるか(事業の規模)は分かりますが、目的地までたどり着けるか(儲かっているか)は分かりません。
月商は、あくまであなたの事業の活動量や規模感を測るための指標だと覚えておいてください。
2-1. 月商の正しい定義:1ヶ月間の「売上高の総額」
月商とは、**「1ヶ月間(例えば7月1日から7月31日まで)に、事業活動を通じて得られた売上の合計金額」**のことです。
会計の正式な用語では「売上高(うりあげだか)」と言い、月商はこの売上高を月単位で集計したもの、と考えると分かりやすいでしょう。
重要なのは、これが経費などを一切差し引く前の、純粋に入ってきたお金の総額であるという点です。
2-2. 【具体例】ECサイトの場合、月商に含まれるもの(商品代金、送料など)
言葉だけでは分かりにくいので、あなたが運営するECサイト(ネットショップ)を例に考えてみましょう。ある月に、以下の取引があったとします。
- Tシャツ(商品A):1枚 5,000円
- トートバッグ(商品B):1個 3,000円
- お客様からいただいた送料:合計 800円
この場合、この月のあなたの月商は、これらをすべて合計した金額になります。
計算式: 5,000円(Tシャツ) + 3,000円(バッグ) + 800円(送料) = 8,800円
ポイントは、お客様から配送料として受け取ったお金も、事業の売上に含まれるという点です。(※逆に、あなたが配送業者に支払う送料は、後で計算する「経費」になります。)
2-3. 注意点:消費税の扱いや、フリマアプリ(メルカリ等)の手数料が引かれる前の金額であること
初心者が月商を計算する上で、特に間違いやすい2つの注意点があります。ここを間違えると、経営判断を誤る原因になるため、しっかり押さえておきましょう。
注意点①:消費税の扱い
あなたが課税事業者である場合、お客様から消費税を預かっています。経営状態を正しく把握するためには、この消費税を含めずに考える**「税抜経理」**が基本です。
例えば、お客様に11,000円(税込)で商品を販売した場合、
- 月商(売上高)として計上すべき金額:10,000円
- 預かっている消費税:1,000円
となります。なぜなら、この1,000円は最終的に国に納めるお金であり、あなたの儲けではないからです。
注意点②:各種手数料が「引かれる前」の金額
Amazonや楽天、メルカリ、BASEといったプラットフォームを利用している場合、売上から販売手数料や決済手数料が天引きされて、あなたの口座に入金されます。
月商は、この手数料が引かれる前の「お客様が支払った総額」で計算します。
例えば、メルカリで10,000円の商品が売れたとします。
- 販売手数料10%:1,000円
- あなたの口座への入金額:9,000円
この場合、あなたの月商は10,000円です。9,000円ではありません。
なぜなら、手数料の1,000円は、事業を運営するための「経費(支払手数料)」だからです。売上と経費を正しく分けることで、初めて「このプラットフォームを使うのに、どれくらい費用がかかっているのか」を正確に把握できるのです。
3. 月利(げつり)と利益(りえき)の違い – 事業の「儲け」を示す最重要指標
月商が事業の「規模」を示す指標であるのに対し、あなたの事業が本当にうまくいっているかを判断するための指標が「利益」です。ここを理解することが、お金の不安から解放されるための最重要ステップとなります。
3-1. 注意:「月利」は本来金融用語。ビジネスでは「月間利益」と捉えるのが一般的
まず一つ、重要な言葉の整理をさせてください。
「月利(げつり)」という言葉は、実はビジネスの利益を指す正式な会計用語ではありません。本来は、金融の世界でローンやキャッシングの利息などを月単位で示す**「利率」**を意味する言葉です。
しかし、一般的に「月商と月利の違い」と検索される場合、この「月利」は**「月間の利益」**という意味で使われていることがほとんどです。
本記事でも、読者の皆様の意図を汲み、これ以降は**「利益(月間利益)」**という言葉に統一して、その種類と重要性について解説していきます。
3-2. 利益は1種類じゃない!経営者が絶対に知るべき3つの利益
「利益」と一言で言っても、実はいくつかの種類があります。
健康診断で「血圧」「コレステロール値」「血糖値」など様々な数値を見るように、会社の経営状態も、複数の「利益」を見ることで、どこに強みがあり、どこに問題があるのかを正確に把握できます。
難しく考える必要はありません。まずは、経営者として最低限知っておくべき、以下の3つの利益を順番に押さえていきましょう。
3-2-1. 粗利益(あらりえき):商品やサービスの根本的な儲け
別名:売上総利益(うりあげそうりえき)
粗利益とは、月商(売上高)から、商品の仕入れや製造にかかった直接的な費用(売上原価)を差し引いた利益のことです。
簡単に言えば、**「商品そのものにどれくらいの儲けが乗っているか」**を示す数字です。
例えば、800円で仕入れたTシャツを3,000円で販売した場合、粗利益は2,200円です。この粗利益が、全ての経費を支払うための源泉となります。もしここの時点でマイナスであれば、どんなにたくさん売っても赤字が膨らむだけ、ということになります。
3-2-2. 営業利益(えいぎょうりえき):本業での稼ぐ力(最も重要視される利益)
営業利益とは、粗利益から、商品を販売・管理するためにかかった費用(販管費)を差し引いた利益のことです。
販管費には、店舗の家賃、従業員の給料、広告宣伝費、水道光熱費、ECサイトの販売手数料などが含まれます。
つまり営業利益は、**「あなたが本業のビジネスで、最終的にどれだけ稼げたか」**を示す、極めて重要な数字です。金融機関や投資家が企業の評価をするときに最も注目するのが、この営業利益です。ここがプラスであれば、あなたのビジネスモデルは健全に機能していると言えるでしょう。
3-2-3. 純利益(じゅんりえき):会社に最終的に残る本当の儲け
別名:最終利益、当期純利益
純利益とは、営業利益に、本業以外で得た収益(例:補助金など)を足し、本業以外でかかった費用(例:借入金の利息など)や、法人税・事業税などの税金を全て差し引いた、最終的な利益のことです。
文字通り、全ての事業活動を通して、最終的に会社(または個人事業主)の手元に残る、本当の儲けです。これが、来期への投資や、借入金の返済、そしてあなたの役員報酬の源泉となります。1年間のビジネスの最終成績表と言えるでしょう。
4.【図解】ラーメン屋とITコンサルを例に学ぶ、利益の計算方法
「利益」と一言でいっても、実はいくつかの種類があることをご存知ですか?ビジネスの状況を正しく把握するためには、それぞれの利益が何を示しているのかを理解することが不可欠です。ここでは、身近な「ラーメン屋」と、無形のサービスを提供する「ITコンサル」を例に、利益の計算方法を3つのステップで分かりやすく解説します。
4-1. ステップ1:粗利益(売上総利益)を計算する
**粗利益(あらりえき)は、売上から商品の「直接的な原価」**だけを差し引いた、最も基本的な利益です。**売上総利益(うりあげそうりえき)**とも呼ばれ、その商品やサービスが持つ根本的な収益力を示します。
【計算式】
売上高 – 売上原価 = 粗利益
- 売上高:商品やサービスを販売して得た総額。
- 売上原価:売れた商品を作るために直接かかった費用。
🍜 ラーメン屋の例
1杯800円のラーメンが月に1,000杯売れた場合、売上高は80万円です。そのラーメンを作るための麺、スープ、チャーシューといった**材料費(原価)**が1杯あたり300円かかっているなら、売上原価は30万円となります。
80万円(売上高)- 30万円(売上原価)= 50万円(粗利益)
💻 ITコンサルの例
月100万円のコンサルティング契約を受注した場合、売上高は100万円です。このプロジェクトのために、他のエンジニアやデザイナーに業務の一部を外注し、40万円を支払った場合、この外注費が売上原価にあたります。
100万円(売上高)- 40万円(売上原価)= 60万円(粗利益)
4-2. ステップ2:営業利益を計算する
営業利益は、本業で稼いだ利益を示す非常に重要な指標です。粗利益から、家賃や人件費など、商品を販売・管理するためにかかった費用(販管費)を差し引いて計算します。
【計算式】
粗利益 – 販管費 = 営業利益
- 販管費(販売費及び一般管理費):事業を運営するためにかかる、原価以外のすべての経費。
- 具体例:店舗の家賃、従業員の給料(人件費)、水道光熱費、広告宣宣伝費、通信費、交通費、ネットショップの販売手数料(Amazon販売手数料など)
🍜 ラーメン屋の例
粗利益50万円から、店舗の家賃(15万円)、アルバイトの給料(20万円)、水道光熱費(5万円)を差し引きます。
50万円(粗利益)- 40万円(販管費)= 10万円(営業利益)
💻 ITコンサルの例
粗利益60万円から、事務所の家賃(10万円)、自分の役員報酬(30万円)、通信費や交通費(5万円)を差し引きます。
60万円(粗利益)- 45万円(販管費)= 15万円(営業利益)
4-3. ステップ3:純利益(最終利益)を計算する
**純利益(じゅんりえき)**は、その名の通り、すべての収益からすべての費用と税金を差し引いて、最終的に会社の手元に残る利益です。最終利益とも呼ばれます。
【計算式】
営業利益 + 営業外損益 – 特別損益 – 税金 = 純利益
- 営業外損益:本業以外で経常的に発生する収益(受取利息など)や費用(支払利息など)。
- 特別損益:その期にだけ特別に発生した収益(固定資産の売却益など)や損失(災害による損失など)。
- 税金:法人税、法人住民税、法人事業税など。
🍜 ラーメン屋の例
営業利益10万円に、補助金収入(営業外収益:5万円)があり、火災による修繕費(特別損失:3万円)が発生した場合、税金を引く前の利益は12万円。そこから法人税等(約30%と仮定:3.6万円)を差し引きます。
10万円 + 5万円 – 3万円 – 3.6万円 = 8.4万円(純利益)
💻 ITコンサルの例
営業利益15万円から、銀行への借入金返済に伴う支払利息(営業外費用:1万円)を差し引き、税金(約30%と仮定:4.2万円)を支払います。
15万円 – 1万円 – 4.2万円 = 9.8万円(純利益)
5. なぜ利益が出ているのに現金がないのか?黒字倒産を招く2つの罠
決算書の上ではしっかりと利益が出ているのに、なぜか手元の現金がなく、支払いができない…。これは「黒字倒産」と呼ばれる、多くの企業が陥る恐ろしい事態です。利益(売上 - 経費)と、手元にある現金(キャッシュ)は、必ずしもイコールではありません。このギャップを生み出す主な原因は、事業活動に潜む2つの「罠」にあります。
5-1. 罠①:在庫という名の資産 – 会計上の資産と手元の現金は全くの別物
1つ目の罠は「在庫」です。会計上、在庫(商品や原材料)は会社の「資産」として扱われます。しかし、それはあくまで帳簿上の話。在庫は売れて現金化されるまで、1円にもなりません。
なぜ在庫が増えると、資金繰りが悪化するのか?
商品を仕入れる際には、当然ながら仕入れ代金を支払う必要があります。例えば、100万円分の商品を仕入れた場合、手元の現金は100万円減少します。この商品は「100万円分の資産(在庫)」として帳簿に計上されますが、実際にこの商品がすべて売れて現金が手元に入ってくるまでは、100万円分の現金が倉庫で眠っているのと同じ状態なのです。
売れると見越して過剰に在庫を抱えてしまうと、その分のお金が固定化され、人件費や家賃といった日々の運転資金の支払いに充てる現金が不足する事態を招きます。
「不良在庫」が経営を圧迫するメカニズム
さらに危険なのが、長期間売れ残っている「不良在庫」です。これらは、もはや売れる見込みがほとんどないにもかかわらず、会計上は「資産」として計上され続けます。
不良在庫は、ただ商品を保管する倉庫代や管理コストがかかるだけの「お金を食うだけの厄介者」です。利益を圧迫するだけでなく、その存在に気づかずに「まだこれだけ資産があるから大丈夫」と誤った経営判断を下してしまう原因にもなります。最終的には、大幅な値引きや廃棄処分をせざるを得なくなり、大きな損失となって会社に襲いかかってくるのです。
5-2. 罠②:入金サイトのズレ – 売上が確定してから現金化されるまでのタイムラグ
2つ目の罠は、「売上の発生」と「現金の入金」の間に生じる**タイムラグ(入金サイト)**です。商品やサービスが売れた瞬間に、現金が手に入るわけではありません。
クレジットカード決済や掛取引(請求書払い)で起こる現金不足
例えば、あなたのネットショップで10万円の商品がクレジットカードで売れたとします。会計上は即座に「10万円の売上」が計上されます。しかし、その代金がカード会社からあなたの口座に振り込まれるのは、早くても翌月末です。
企業間の取引で一般的な「掛取引(請求書払い)」では、さらにこのタイムラグが長くなる傾向があります。「月末締め・翌々月末払い」といった契約の場合、4月に商品を販売しても、実際に現金が手に入るのは6月末になってしまいます。
この間にも、仕入れ代金や従業員の給料、事務所の家賃といった支払いは待ってくれません。売上は順調に伸びているのに、入金サイトのズレによって手元の現金がショートし、黒字倒産に至るケースは後を絶たないのです。この「現金の空白期間」を常に意識し、資金繰りを管理することが極めて重要です。
6.【上級編】お金が増える実感が湧かない本当の理由 – 簿価会計と時価会計の違い
決算書上は利益が出ている。資産も増えているはず。それなのに、なぜか手元にお金が増えている実感が湧かない…。その根本的な原因は、あなたが会社の資産を**「いつの時点の価格で」**見ているかに隠されています。この違いを理解することが、本当の意味でのお金の流れを掴む鍵となります。
6-1. あなたの会社はどっち?資産を「買った時の値段」で見る簿価会計
ほとんどの会社が日常的に採用しているのが**簿価会計(ぼかかいけい)です。これは非常にシンプルで、資産を「取得した時(買った時)の価格」**で記録し続ける方法です。
例えば、3年前に20万円で買ったパソコンは、帳簿上では(減価償却を無視すれば)ずっと20万円の資産として扱われます。1年前に1着1,000円で仕入れたTシャツ100枚は、帳簿上「10万円分の在庫資産」として記録されています。
これは会計処理の基本であり、決して間違いではありません。しかし、この方法には**「時間の経過による価値の変化」が反映されない**という大きな落とし穴があります。
6-2. 儲かっている会社が実践する、資産を「今売れる値段」で見る時価会計
一方で、本当に儲かっている会社の経営者が実践しているのが**時価会計(じかかいけい)の考え方です。これは、資産を「今、この瞬間に売ったらいくらになるのか?」**という現在の市場価値で評価する方法です。
先ほどの例で考えてみましょう。
- パソコン:3年前に20万円で買っても、今の価値は3万円かもしれません。
- Tシャツ:1年前に仕入れたものの、流行遅れになり、今では1着300円でしか売れないかもしれません。
この場合、資産の「時価」は、パソコンが3万円、Tシャツの在庫が3万円(300円×100枚)となります。帳簿上の価値(簿価)とは、全く異なる数字になることが分かります。
6-3. なぜ時価会計で評価しないと、お金が増える実感は持ちにくいのか?
お金が増える実感が湧かない最大の理由は、帳簿上の「幻の資産 👻」と、現実の「現金化できる価値」との間に大きなギャップが生まれているからです。
簿価会計だけを見ていると、帳簿上は「資産が500万円ある」と表示されていても、その内訳が「時価30万円の機械」や「時価10万円の不良在庫」で埋め尽くされている可能性があります。経営者は「資産は十分にあるはずだ」と思い込んでいますが、実際にはそれらはもはや現金を生み出す力のない、価値の低いモノに成り下がっているのです。
つまり、あなたの会社のお金は、価値が目減りし続ける「モノ」に姿を変えて、倉庫の片隅で眠っている状態。これでは、いくら帳簿上で利益が出ていても、自由に使える現金が増える実感など湧くはずがありません。
6-4.【実践】あなたの在庫は本当に資産?期末にやるべき在庫の時価評価
この「幻の資産」から目を覚まし、現実のキャッシュフローを改善するために、ぜひ実践してほしいのが**「期末の在庫の時価評価」**です。
これは、決算や四半期の締めのタイミングで、あなたの抱える全在庫に対して、シビアな目で「今いくらで売れるのか?」を評価する作業です。
✅ 実践ステップ
- 全在庫をリストアップする:まずは、すべての在庫を種類・数量ともに正確に洗い出します。
- 「時価」を判定する:リストの各商品について、情け容赦なく「今すぐ売るとしたらいくらになるか」を判断します。
- Aランク:定価で問題なく売れる
- Bランク:大幅な値引きが必要
- Cランク:もはや価値がなく、廃棄コストがかかる(マイナスの資産)
- 在庫資産の「時価総額」を計算する:ランク分けした価格をもとに、現在の在庫資産のリアルな価値を計算します。
- 簿価と時価の差額を直視する:本来の仕入れ値(簿価)の合計額と、時価総額との差額を算出します。この差額こそが、あなたの会社に潜む「幻の資産」の正体です。
この差額を「評価損」として認識することで、初めて経営者は「思ったよりも資産はなかったんだ」という現実を直視できます。そして、不良在庫のセールや処分といった、現金を増やすための具体的な次の一手を打つことができるのです。
7. 月商と利益から見る、あなたのビジネスの健康診断
売上(月商)の大きさだけを見て一喜一憂していませんか?ビジネスの本当の健康状態は、売上からどれだけ効率的に利益を生み出せているかを示す「利益率」に表れます。利益率は、いわばあなたのビジネスの「健康診断書」。定期的にチェックし、課題を見つけ、次の一手を考えるための重要な指標です。
7-1. 自分の事業の利益率を計算してみよう(粗利率・営業利益率)
まずは、あなたのビジネスの利益率を計算してみましょう。特に重要なのが「粗利率」と「営業利益率」の2つです。
① 粗利率:商品・サービスの根本的な収益力
**粗利率(あらりりつ)**は、売上高に対して、商品の仕入れや製造に直接かかった原価を差し引いた「粗利益」が占める割合です。これは、あなたの商品やサービスそのものが持つ、根本的な稼ぐ力を示します。
【計算式】
粗利率 (%) = 粗利益 ÷ 売上高 × 100
粗利率が高いほど、原価に対して高い価格で販売できている、魅力的な商品・サービスであると言えます。
② 営業利益率:本業の総合的な収益力
営業利益率は、売上高に対して、本業で稼いだ利益である「営業利益」が占める割合です。これは、家賃や人件費、広告費といったすべての販売・管理コストを支払った上で、最終的に本業でどれだけ利益を残せたかを示す最も重要な健康指標です。
【計算式】
営業利益率 (%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
この数値を見ることで、あなたのビジネスの総合的な収益性と効率性を客観的に判断できます。
7-2. 目指すべき営業利益率の目安は?
計算した営業利益率が、果たして高いのか低いのか。それを判断するためには、業界ごとの平均的な水準と比較するのが有効です。以下に、主な業種別の営業利益率の目安を挙げます。
- 飲食業:5~10%
- 小売業:1~5%
- ITサービス業・コンサル業:15%以上
- 建設業:5%前後
- 製造業:5~10%
【目安の見方】
あなたの事業の営業利益率が業界平均より著しく低い場合、価格設定が安すぎるか、コストがかかりすぎているなど、何らかの課題を抱えている可能性を示唆します。逆に、平均を大きく上回っていれば、それはあなたのビジネスが他社にはない付加価値を提供できている、非常に強い競争力を持つ証となります。
7-3. 利益率から考える、次の打ち手(値上げ、コスト削減、新規投資)
利益率という「診断結果」をもとに、あなたのビジネスをさらに成長させるための「処方箋」を考えていきましょう。
利益率が【低い】場合の打ち手
業界平均よりも利益率が低い場合、取るべき対策はシンプルです。「収入を増やす」か「支出を減らす」の2択しかありません。
- 値上げ(収入を増やす)最も直接的に利益率を改善する方法です。顧客が離れることを恐れず、提供している価値に見合った価格設定に見直せないか検討しましょう。値上げは、あなたのサービスへの自信の表れでもあります。
- コスト削減(支出を減らす)
- 原価を下げる:仕入れ先と交渉する、より安価な材料を探す、作業工程を見直して無駄をなくす、といった方法で粗利率の改善を図ります。
- 販管費を削る:事務所の家賃、通信費、利用しているサブスクリプションサービスなど、固定費の中に無駄がないかを徹底的に見直します。
利益率が【高い】場合の打ち手
利益率が健全、あるいは業界平均より高い場合は、守りに入るのではなく、その利益を未来のために再投資することが重要です。
- 新規投資(事業を拡大する)手元に残った潤沢な利益を、さらなる成長のエンジンとして活用します。
- 広告宣伝費:Web広告やSNS広告に投資し、新規顧客を獲得する。
- 人材採用・育成:事業をスケールさせるために、新しい仲間を迎えたり、現在のスタッフの能力開発に投資したりする。
- 研究開発・設備投資:新商品を開発したり、業務効率を上げるための新しいツールや機械を導入したりする。
高い利益率は、競合他社が真似できない「参入障壁」を築くための最大の武器です。その強みを活かし、守りではなく攻めの姿勢で事業を拡大していきましょう。
8.「月商・月利」に関するよくある質問(Q&A)
ここでは、月商や利益に関して、多くの経営者や個人事業主の方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
8-1. Q. 個人事業主やフリーランスでも、同じ考え方で良いですか?
A. はい、全く同じ考え方で問題ありません。むしろ、個人で事業を行う方こそ重要です。
法人か個人事業主かで、税務上の勘定科目の名称(例:「売上」と「事業収入」、「役員報酬」の有無など)に違いはありますが、ビジネスのお金の流れを捉えるという本質は全く同じです。
- 月商(売上):あなたの提供したサービスや商品の対価として、どれだけの売上があったか。
- 粗利益:Webデザイナーなら外注費、ハンドメイド作家なら材料費といった「直接的な原価」を引いた利益。
- 営業利益:そこからさらに、事務所の家賃や通信費、広告宣伝費といったすべての経費を引いて、事業で稼いだ利益。
会社員と違い、事業のすべてを一人で管理する個人事業主やフリーランスにとって、この利益の構造を理解し、自分の事業が健全に儲かっているかを把握することは、生活を守り、事業を継続させるための生命線と言えます。
8-2. Q. 「月次決算」はやった方が良いのでしょうか?
A. 強く推奨します。事業規模に関わらず、できる限り実施すべきです。
年に一度の確定申告の時だけまとめて数字を見るのは、いわば「1年ぶりに体重計に乗る」ようなものです。その時点で深刻な問題が発覚しても、すでに対応が手遅れになっているケースが少なくありません。
「月次決算(げつじけっさん)」とは、毎月、簡易的な決算を行い、その月の売上、利益、そして利益率を把握することです。
月次決算を行うことで、
- 「今月はなぜか利益率が低い。原因は仕入れコストの高騰か?」
- 「先月から始めた広告の効果で、売上は伸びたが利益を圧迫しているな…」といったビジネスの健康状態の変化に、リアルタイムで気づくことができます。
問題の早期発見・早期対応が可能になり、経営判断のスピードと精度が格段に向上します。会計ソフトを使えば、日々の記帳をきちんと行うだけで、月次決算は決して難しい作業ではありません。成功している経営者ほど、この月次の数字を重視しています。
8-3. Q. 結局、月商と利益、どちらを目標にすれば良いですか?
A. 長期的な最終目標は必ず「利益」です。ただし、事業のステージによって「月商」を短期的な目標にすることは有効です。
これは非常に重要な問いであり、答えはあなたの事業が今どの段階にあるかによって異なります。
- 月商を目標にするフェーズ(事業の初期段階)事業を始めたばかりの頃は、まず市場に認知され、顧客を獲得し、事業規模を拡大することが最優先です。この段階では、赤字覚悟で広告を打つなど、利益を度外視してでも月商の成長(=シェアの拡大)を追いかける戦略が有効な場合があります。月商は、ビジネスの成長性や勢いを示す指標です。
- 利益を目標にするフェーズ(事業の安定・成長段階)ビジネスが軌道に乗ってきたら、いつまでも売上だけを追い求めるのは危険です。会社を継続させ、成長させていくためには、しっかりと利益を確保し、内部留保(貯金)を増やしていく必要があります。利益は、ビジネスの持続可能性や収益性を示す、いわば「体力」そのものです。
結論として、どんなビジネスも最終的に目指すべきは「利益の最大化」です。
月商という目標は、あくまで利益というゴールにたどり着くための中間的な指標(KPI)と捉えるのが良いでしょう。月商という華やかな数字に惑わされず、手元にいくらのお金が残るのか、常に利益を意識した経営を心がけてください。
9. まとめ:月商という幻を追うのはやめよう。今日からあなたは利益と現金を見る経営者になる
「月商100万円達成!」「月商1000万円の壁を突破!」
この響きは、事業を始めたばかりの人にとって、甘美な目標に聞こえるかもしれません。SNSで報告すれば、多くの「いいね」がつくでしょう。しかし、私たちはもう知っています。その数字が、時として危険な「幻(まぼろし)」になることを。
これまでの章で、私たちはビジネスの核心に触れる旅をしてきました。
ラーメン屋やITコンサルを例に、利益の計算方法を学びました。利益が出ていても現金がなくなる「黒字倒産」の恐ろしい罠と、その原因が在庫と入金サイトにあることを知りました。さらに、資産を「買った時の値段」でしか見ない簿価会計の危険性と、「今売れる値段」で見る時価会計の重要性も理解しました。そして、利益率という、自分のビジネスの健康状態を客観的に測るための「診断ツール」も手に入れました。
もう、あなたはただの職人やプレイヤーではありません。
今日からあなたは、自らの事業のコックピットに座り、計器を冷静に見つめる経営者です。
あなたが見るべき計器は、もはや「月商」という単純な速度計ではありません。どれだけ速く走っているように見えても、燃料が尽きれば墜落するだけです。
あなたが見るべきなのは、「利益」という名の燃料計と、「現金(キャッシュフロー)」という名の高度計です。
燃料(利益)は十分か?高度(現金)は安全な水準を保てているか?
この2つの計器を常に確認し、安全で、持続可能な航路を飛ぶこと。それが経営者の最も重要な仕事です。
さあ、顔を上げて、新しい羅針盤を手に取りましょう。
これからは、他人の「月商」という蜃気楼を追いかけるのはやめ、あなたの手元に確かに残る「利益」と「現金」を増やすことに集中するのです。その先にしか、事業の安定と本当の成功はありません。
あなたの未来を切り拓く、力強い次の一歩を、心から応援しています。
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