中古せどりの記事はたくさんあります。そのほとんどが「どこで安く買うか」の話をしています。
この記事は、そこから始めません。安いものを見つける力は、この分野で最も早く代替されるものだからです。ツールが見つけます。他の人も見つけます。同じ棚を、同じアプリで、同じように見ている人が何万人もいます。
代わりにこの記事が扱うのは、構造です。具体的には、次の3つです。
ひとつ。許可がないと入れない仕入れ場があります。古物市場です。古物営業法第14条第3項が「古物商間でなければ」取引してはならないと定めていて、全国の古物市場は1,076件しかありません。
ふたつ。許可がないと使えない税制があります。消費税の古物商特例です。許可があれば、一般の個人から仕入れてもインボイスなしで仕入税額控除ができます。許可がなければできません。つまり許可はコストではなく、税務上の権利です。
みっつ。法律が義務づけている帳簿が、そのまま税務上の武器になります。古物営業法第16条の帳簿義務を守っていると、所得税の側で「帳簿書類の保存」があることになり、事業所得として扱われやすくなります。同じ1冊が、2つの法律を同時に満たします。
この3つは全部、面倒です。だから多くの人がやりません。そして全部、法令に内容が公開されています。この記事は、その公開されているものを読み直すだけの記事です。
1. 仕入れて売った瞬間、あなたは2つの資格を持たされる
1-1. ひとつめは「古物商」です
まず定義から。古物営業法第2条第1項です。
第二条 この法律において「古物」とは、一度使用された物品(略)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
警察庁の解釈運用基準は、後半をこう説明しています。
法第2条第1項中「使用のために取引されたもの」とは、自己が使用し、又は他人に使用させる目的で購入等されたものをいう。したがって、小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品は、それが未だ使用されていない物品であっても「古物」に該当する。
未使用の新品でも、一度消費者の手に渡ったものは「古物」です。フリマアプリで買った未開封品も、これに当たります。
1-2. 「売るだけ」と「買って売る」の間の線
次が「古物営業」の定義です。ここに線があります。
2 この法律において「古物営業」とは、次に掲げる営業をいう。
一 古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの
括弧の中が除外規定です。「売却することのみ」なら古物営業ではありません。だから自分の不用品を売るだけなら許可は要りません(家の不用品を売る記事で書いた線がこれです)。
買い取った瞬間に、除外から外れます。警察庁の通達も、この境界を例示しています。
例えば、無償又は引取料を徴収して引き取った古物を修理、再生等して販売する形態のリサイクルショップは、法第2条第2項第1号の「古物を売却すること」のみを行う営業として法の規制の対象から除外されるが、古物の買取りを行っている場合には、古物営業に該当する。
| やっていること | 許可 |
|---|---|
| 自分の不用品を売る | 不要 |
| もらったもの・引取料をもらって引き取ったものを、直して売る | 不要 |
| 自分が売った物を、その売却相手から直接買い戻す | 不要 |
| 買い取って売る(=せどり) | 必要 |
| 自分が売った物を、第三者を経由して買い戻す | 必要 |
1-3. 副業でも「営業」に当たります
「本業ではないから」は通用しません。通達に明記されています。
法第2条第2項各号中「営業」とは、一般に営利の目的をもって同種類の行為を反復継続して行うことをいい(略)
また、その行為が、その者が主として行う本業、本職である場合だけでなく、臨時的に行う副業、内職等というべき場合においても、それは法にいう営業と認められる。
そして営利目的の判定も緩くありません。
営利目的ありと認められるためには、一つ一つの行為について、現実に、かつ積極的な利得のあることを必要とせず、一連の行為を包括的にみて利益をあげ得るものであることだけで十分である。
1件ごとに儲かっている必要はありません。全体として利益を上げられる形なら、営利目的です。
1-4. ふたつめは「販売業者」です
もうひとつ、別の法律の資格が付いてきます。特定商取引法上の「販売業者」です。
ネットで申込みを受けて売る行為は、特商法第2条第2項の「通信販売」に当たります。そして販売業者に当たると、第11条の広告表示義務がかかります。
1-5. 消費者庁は「転売目的の仕入れ」を名指ししています
消費者庁の「インターネット・オークションにおける『販売業者』に係るガイドライン」から、原文です。
特定商取引法において、販売業者とは、販売を業として営む者の意味であり、「業として営む」とは、営利の意思をもって反復継続して取引を行うことをいう。営利の意思の有無は客観的に判断される。例えば、転売目的で商品の仕入れ等を行う場合は営利の意思があると判断される。
せどりは、定義上ここに当たります。「転売目的で商品の仕入れ等を行う」がまさにせどりだからです。
1-6. 出品数の目安は「セーフライン」ではありません
同じガイドラインには、具体的な数値の目安があります。
①過去1か月に200点以上又は一時点において100点以上の商品を新規出品している場合
ただし、トレーディングカード、フィギュア、中古音楽CD、アイドル写真等、趣味の収集物を処分・交換する目的で出品する場合は、この限りではない。
②落札額の合計が過去1か月に100万円以上である場合
③落札額の合計が過去1年間に1000万円以上である場合
ここで読み落とされやすいのが、その直前の一文です。
例えば、以下の場合には、特別の事情がある場合を除き、営利の意思をもって反復継続して取引を行う者として販売業者に該当すると考えられる。ただし、これらを下回っていれば販売業者でないとは限らない。
「200点未満なら大丈夫」ではありません。この数値は「これを超えたら通常は該当する」という例示であって、下限ではない。そして1-5のとおり、転売目的の仕入れがある時点で営利の意思は認められます。
2. 無許可でやると何が起きるか
2-1. 罰則
第三条 前条第二項第一号又は第二号に掲げる営業を営もうとする者は、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。
第三十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して許可を受けないで第二条第二項第一号又は第二号に掲げる営業を営んだ者
二 偽りその他不正の手段により第三条の規定による許可を受けた者
三 第九条の規定に違反した者
2-2. 名義を借りるのも、同じ重さです
上の第31条第3号が指している第9条はこれです。
(名義貸しの禁止)
第九条 古物商又は古物市場主は、自己の名義をもつて、他人にその古物営業を営ませてはならない。
「知り合いの許可を借りる」は、無許可営業と同じ3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。貸した側が罰せられる条文であることに注意してください。
2-3. ただし、本当の損失は罰則ではありません
ここがこの記事の主題です。無許可でやることの実質的な損失は、捕まる確率の話ではなく、許可を持っている人が使える仕組みを、ひとつも使えないことです。
次の3章から、その中身を見ます。
3. 壁の向こう側にあるもの その1:古物市場
3-1. 法律が、参加者を限定しています
第十四条 (略)
3 古物市場においては、古物商間でなければ古物を売買し、交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けてはならない。
「古物市場」の定義は第2条第2項第2号にあります。「古物商間の古物の売買又は交換のための市場」です。いわゆる業者間オークションです。
この条文の違反には罰則があります。第33条第1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
3-2. 全国に1,076件しかありません
警察庁が毎年、統計を公表しています。
| 令和7年末 | 件数 |
|---|---|
| 古物商 | 614,118件 |
| 古物市場主 | 1,076件 |
| 合計 | 615,194件(前年比 +42,170件) |
古物商61万人に対して、市場は1,076。約570倍の開きがあります。そしてその1,076の入口に、法律が「古物商でなければ入れない」という条件をかけています。
3-3. 市場側にも、入場者を確認する義務があります
古物営業法施行規則第15条第4項です。
4 古物市場主は、古物市場において取引をしようとする者について、許可証、行商従業者証その他の証明書により、古物商又はその代理人等であることを確かめるようにしなければならない。
入口でチェックする義務が、市場を運営する側にかかっています。だから「知り合いに連れて行ってもらう」では入れません。
3-4. 参加するには、許可証を持って行く必要があります
古物市場での取引は、法律上「行商」に当たります。警察庁の通達が明示しています。
法第5条第1項第5号の「行商」とは、古物商が営業所以外の場所で行う古物の取引をいう。
したがって、
① 自動車のセールスマン等が取引の相手方の住所又は居所において行う古物の売買
② 古物市場において古物商間で行う古物の取引
③ いわゆる展示即売会における古物の売却
④ 仮設店舗における古物の売買
等は全て行商に含まれる。
そして行商には携帯義務があります。
第十一条 古物商は、行商をし、又は競り売りをするときは、許可証を携帯していなければならない。
2 古物商は、その代理人、使用人その他の従業者(略)に行商をさせるときは、当該代理人等に、国家公安委員会規則で定める様式の行商従業者証を携帯させなければならない。
違反は第35条第2号により10万円以下の罰金です。
実務上の意味は単純です。許可申請のときに「行商をする」と申告しておく必要があります。これは第5条第1項第5号の記載事項で、後から始めるなら変更届(第7条第2項)が要ります。
3-5. これが、いちばん明確な参入障壁です
整理します。
- 仕入れ値がいちばん安い場所のひとつが、業者間の市場です
- そこは法律で参加者が古物商に限定されています(法14条3項)
- 運営側にも入場者を確認する義務があります(規則15条4項)
- 参加には許可証の携帯が必要です(法11条1項)
これは目利きの差ではなく、資格の差です。そして資格は勉強でも才能でもなく、手続きで取れます。
なお、個々の古物市場が独自に加入金・紹介者・保証人などの参加条件を課すかどうかは、法律の問題ではなく各市場の運営の問題です。この記事はそこまでは扱っていません。
4. 壁の向こう側にあるもの その2:消費税の古物商特例
4-1. インボイス制度の原則
消費税の仕入税額控除は、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要です。一般の個人はインボイスを出せません。だから、消費者から中古品を買い取る商売は、原則どおりだと仕入税額控除ができないことになります。
中古品を扱う商売にとって、これは構造的に致命的です。だから特例が用意されています。
4-2. 古物商特例の条文
消費税法施行令第49条第1項第1号ハです。
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
(1) 古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
そして同項第1号の柱書に、条件が書かれています。
(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(略)を記載している場合に限る。)
4-3. 国税庁の説明
インボイスQ&A 問106の答です。
古物営業法上の許可を受けて古物営業を営む古物商が、適格請求書発行事業者以外の者から同法に規定する古物(古物商が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限り、準古物を含みます。)を買い受けた場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(消法30⑦、消令49①一ハ⑴)。
| この特例を使う条件 |
|---|
| 古物営業法上の許可を受けた古物商であること |
| 買受けの相手が適格請求書発行事業者以外であること |
| 買った古物が棚卸資産(消耗品を除く)であること |
| 帳簿に「この特例に該当する旨」を記載すること |
| 帳簿に相手方の住所または所在地を記載すること(後述の免除あり) |
1行目がすべてです。許可がなければ、この特例は使えません。
4-4. フリマアプリで仕入れる場合
匿名配送が普通になっているので、ここが実務の焦点になります。国税庁Q&A 問106-2から。
その際、対価の総額が1万円未満であれば、古物台帳に相手方の住所、氏名、職業及び年齢の記載は不要であるため、匿名で取引が行われていたとしても古物商等特例の適用は可能ですが、1万円以上の場合、それらの記載が必要となるため、これらの点について、古物営業法に規定された方法により相手方の確認を行う必要があります。
そして、相手が事業者かどうかの確認方法まで書かれています。
メッセージ機能等により「適格請求書発行事業者としての譲渡である場合は登録番号を教えてください。連絡がない場合には、消費者としての譲渡と考えさせていただきます。」と確認を行った上で、何らの連絡がない場合には、仕入先を適格請求書発行事業者以外の者と取り扱って差し支えありません。
さらに注意書きがあります。
(注)3 自動二輪車、家庭用コンピュータゲーム、CD・DVD、書籍の買受けなど、1万円未満であっても、古物営業法上、相手方の本人確認や帳簿への記帳義務が生じる場合がありますのでご留意ください。
4-5. 1万円の線が、2つの法律で連動しています
ここが、この特例の設計のうまいところです。
| 取引額 | 古物営業法(本人確認・帳簿) | 消費税法(帳簿への住所記載) |
|---|---|---|
| 1万円未満(一般の品目) | 免除 | 住所の記載不要 |
| 1万円以上 | 必要 | 住所の記載が必要 |
| 1万円未満でも7類型に当たるもの | 必要 | 住所の記載が必要 |
古物営業法の帳簿をきちんと付けていれば、消費税の要件も自動的に満たされます。逆に、古物営業法の帳簿を付けていない人は、消費税の特例も使えません。
4-6. だから、許可はコストではなく権利です
許可の手数料は19,000円です。書類集めの手間もかかります。それを「開業のコスト」とだけ考えると、この特例が見えません。
消費税の課税事業者になったとき、消費者からの仕入れに対して仕入税額控除ができるかどうかは、売上規模によっては年間で数十万円の差になります。19,000円の申請は、そこへのアクセス権を買う行為です。
なお、インボイスの2割特例(納付税額を売上税額の2割にできる経過措置)は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が対象です。個人事業者は課税期間が暦年なので、令和8年分(2026年)が使える最後の年になります。この記事の執筆時点で、期限が目前です。
5. 壁の向こう側にあるもの その3:帳簿が二重に効く
5-1. 古物営業法が義務づけている帳簿
(帳簿等への記載等)
第十六条 古物商は、売買若しくは交換のため、又は売買若しくは交換の委託により、古物を受け取り、又は引き渡したときは、その都度、次に掲げる事項を、帳簿(略)に記載をし、又は電磁的方法により記録をしておかなければならない。(略)
一 取引の年月日
二 古物の品目及び数量
三 古物の特徴
四 相手方(略)の住所、氏名、職業及び年齢
五 前条第一項の規定によりとつた措置の区分(略)
「その都度」の意味も、通達で釘を刺されています。
法第16条の「その都度」とは、古物を受け取り、又は譲り渡したそのたびごとの意味である。したがって、古物を受け取り、又は譲り渡すごとに記載しなければならないので、1週間分や1月分をまとめて記載するようなことは許されない。
5-2. 保存期間は3年です
第十八条 古物商又は古物市場主は、前二条の帳簿等を最終の記載をした日から三年間営業所若しくは古物市場に備え付け、又は(略)電磁的方法による記録を当該記録をした日から三年間(略)保存しておかなければならない。
違反すると、第33条第2号(未記載・虚偽記載)または第1号(3年保存違反)により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
5-3. 1万円未満の免除と、その例外7類型
1万円未満の取引は本人確認・帳簿記載が免除されます。ただし例外があります。施行規則第16条第2項です。
2 法第十五条第二項第一号の国家公安委員会規則で定める古物は、次の各号に該当する古物とする。
一 自動二輪車及び原動機付自転車(これらの部分品(ねじ、ボルト、ナット、コードその他の汎用性の部分品を除く。)を含む。)
二 エアコンディショナーの室外ユニット及び電気温水機器のヒートポンプ
三 専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物
四 光学的方法により音又は影像を記録した物
五 電線
六 グレーチング(金属製のものに限る。)
七 書籍
ゲームソフト、CD・DVD・ブルーレイ、書籍。中古せどりで最も扱われる3つが、ここに入っています。1万円未満でも本人確認と帳簿記載が必要です。
通達は、この2つを区別しています。
「光学的方法により音又は影像を記録した物」とは(略)具体的には、音楽や映画等を記録したCD、LD、DVD、ブルーレイディスク等である。したがって、電磁的記録媒体や半導体ディスクに音楽や映画等を記録した物(カセットテープ、ビデオテープ、FD、MD、フラッシュメモリ等)は、対象とならないことに留意すること。
書籍については、実務的な緩和もあります。
1冊当たりの価格が安価で、一度に大量の冊数が処分される傾向が強いという書籍の取引実態を踏まえ、書籍については、同一人から同時に受け取ったものをまとめて記載することを認める。(例:「『書名』外○冊」)
なお、CD・DVD等については(略)原則どおり1品ごとに帳簿等に記載すること。
5-4. そして、同じ帳簿が所得税でも効きます
ここからが本題です。所得税基本通達35-2の注書きを見てください。
(注) 事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(略)に該当することに留意する。
国税庁の解説は、もっとはっきり書いています。
その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、その所得を得る活動について、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多いと考えられます。
他方で、その所得に係る取引を帳簿に記録していない場合や記録していても保存していない場合には(略)社会通念での判定において、原則として、事業所得に区分されないものと考えられます。
つまり、古物営業法第16条の帳簿を守っていると、所得税の側でも事業所得側に立てます。法律で強制されている作業が、そのまま税務上の有利さになる。これは珍しい構造です。
5-5. 事業所得になると、何が変わるか
| 使えるもの | 根拠 |
|---|---|
| 青色申告特別控除 最高65万円 | 租税特別措置法第25条の2(正規の簿記+期限内申告+e-Tax等) |
| 純損失の3年繰越控除 | 所得税法第70条(赤字の年もその後も、連続して申告することが要件) |
| 青色事業専従者給与 | 所得税法第57条第1項・第2項 |
| 棚卸資産の低価法の選定 | 所得税法施行令第99条第1項(青色以外は原価法のみ) |
| 家事関連費の緩和された按分基準 | 所得税法施行令第96条第2号 |
純損失の繰越が特に効きます。1年目に在庫を抱えて赤字になっても、翌年以降3年間の黒字と相殺できます。雑所得ではこれができません。
なお、青色申告の承認申請はその年3月15日まで(1月16日以降に開業した場合は開業から2か月以内)です(所得税法第144条)。開業届の期限は2026年1月1日施行の改正で「その年分の確定申告期限まで」に緩和されましたが、青色申告の承認申請の期限は変わっていません。ここを取り違えると初年度の控除を落とします。
6. 越えた側にある罠 ── 在庫は経費になりません
6-1. 経費になるのは「仕入高」ではなく「売上原価」です
ここが、この商売でいちばん人を潰す構造です。所得税法第37条第1項を読んでください。
第三十七条 その年分の(略)事業所得の金額又は雑所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費(略)の額とする。
「総収入金額に係る売上原価」です。その年に売れたものの原価だけが経費になります。仕入れた額ではありません。
6-2. 年末在庫は、そこから差し引かれます
第四十七条 居住者の棚卸資産につき第三十七条第一項(必要経費)の規定により(略)必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となるその年十二月三十一日(略)において有する棚卸資産(略)の価額は(略)政令で定める評価の方法(略)により評価した金額とする。
国税庁の「青色申告の決算の手引き」に、計算式が明記されています。
本年分の必要経費となる商品などの売上原価や消耗品費は、本年中の商品などの仕入高や消耗品などの購入高そのままではなく、次の算式で計算した金額となります。
[算式]
売上原価=年初(期首)の棚卸高+年間の仕入高 − 年末(期末)の棚卸高
6-3. 数字で見ると
| 金額 | |
|---|---|
| 売上 | 150万円 |
| 年間の仕入高 | 100万円 |
| 年末の棚卸高(売れ残り) | 60万円 |
| 経費になる売上原価 | 40万円(0+100−60) |
| 所得(他の経費を無視した場合) | 110万円 |
| 実際に手元から出ていった現金 | 100万円 |
100万円払ったのに、経費になるのは40万円です。そして60万円分の商品は、まだ現金に戻っていません。
これが「売れば売るほど資金が苦しい」の正体です。年末に向けて仕入れを増やすのは、節税ではなく逆です。現金は減り、所得は減りません。
6-4. 評価方法を届け出ないと、自動的にこうなります
所得税法施行令第102条により、評価方法の届出をしていない人は最終仕入原価法になります。年末にいちばん近い日に取得した1単位あたりの価額で、期末在庫を評価する方法です。
実務上、これで困ることは少ないのですが、値下がりが激しいものを扱う場合は不利に働きます。年末在庫の評価額が高く出て、その分だけ経費が減るからです。青色申告者は低価法を選べます(施行令99条1項2号)。届出は税務署への「所得税の棚卸資産の評価方法の届出書」です。
6-5. 売る側の責任について
この章の最後に、一つだけ性質の違う話を置きます。
直して売るのと、自分で使うために直すのは、別の行為です。
自分の持ち物なら、どう直しても自分の責任で済みます。しかし売った瞬間、その判断の結果は買った人のところで起きます。
たとえばプリンターの廃インク吸収体は、原則としてユーザーが交換できる部品ではありません。カウンタだけを非公式なツールで戻した個体を売れば、買った人のところでインクが漏れます。直したのではなく、警告を消しただけだからです。詳しくはプリンターを自分で直す記事に書きました。
清掃、動作確認、消耗品の交換、正規手順での修理 ── これらは付加価値です。症状を隠す作業は、付加価値ではありません。そして中古で売る以上、コンディションの記載は買う人が判断する唯一の材料です。
7. 参入の手順
7-1. 許可を取る
| 申請先 | 主たる営業所の所在地を管轄する警察署を経由して、都道府県公安委員会へ(法5条1項、規則1条の3第2項) |
| 手数料 | 19,000円(不許可・取下げでも返却されません) |
| 標準処理期間 | 40日(行政庁の休日を含まない/警視庁の審査基準) |
| オンライン申請 | e-Gov電子申請で可能(警察庁の案内による。なお「警察行政手続サイト」は令和7年12月15日に運用停止) |
個人の場合の必要書類(規則第1条の3第3項第1号)は次のとおりです。
- 最近5年間の略歴を記載した書面
- 本籍が記載された住民票の写し
- 欠格事由に該当しないことの誓約書
- 市町村長の証明書(本籍地の市区町村が発行するもの。運転免許証などとは別物です)
- ネットで取引するなら、そのURLの使用権限を疎明する資料
7-2. 欠格事由
第4条に11号まで列挙されています。実務上引っかかりやすいものだけ挙げます。
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者(1号)
- 拘禁刑以上の刑、または第31条の罪・窃盗・背任・遺失物等横領・盗品等有償譲受け等の罪で罰金刑に処せられ、5年を経過しない者(2号)
- 住居の定まらない者(5号)
- 営業所ごとに管理者を選任すると認められないことに相当な理由がある者(10号)
7-3. 13の区分から選ぶ
施行規則第2条が、古物を13区分に分けています。
| 1 美術品類 | 2 衣類 | 3 時計・宝飾品類 |
| 4 自動車 | 5 自動二輪車及び原動機付自転車 | 6 自転車類 |
| 7 写真機類 | 8 事務機器類 | 9 機械工具類 |
| 10 道具類 | 11 皮革・ゴム製品類 | 12 書籍 |
| 13 金券類 |
「道具類」が広く、家具・じゅう器・運動用具・楽器・磁気記録媒体・CDやDVDなどを含みます。後から扱う区分を増やす場合は、変更の日から14日以内に変更届が必要です(法7条2項、規則5条6項)。
7-4. 受け取れる場所には制限があります
これは見落とされやすい条文です。
(営業の制限)
第十四条 古物商は、その営業所又は取引の相手方の住所若しくは居所以外の場所において、買い受け、若しくは交換するため(略)古物商以外の者から古物を受け取つてはならない。ただし、仮設店舗において古物営業を営む場合において、あらかじめ、その日時及び場所を、その場所を管轄する公安委員会に届け出たときは、この限りでない。
一般の人から買い取るとき、品物を受け取れるのは3か所だけです。
- 自分の営業所
- 相手の住所または居所
- 事前に届け出た仮設店舗
喫茶店やファミレスでの受け渡し、駅での待ち合わせは、この条文に触れます。違反は第32条により1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
7-5. 標識を掲示する
第十二条 古物商又は古物市場主は、それぞれ営業所若しくは仮設店舗又は古物市場ごとに、公衆の見やすい場所に、国家公安委員会規則で定める様式の標識を掲示しなければならない。
紺色地に白文字、縦8cm×横16cm。許可証の番号と氏名(名称)、取り扱う古物の区分(複数扱う場合は主に取り扱うもの)を記載します。違反は第35条第2号、10万円以下の罰金です。
7-6. ネットで売るなら、もう2つあります
ひとつ。URLの届出です。法第5条第1項第6号により、ネットで古物の取引の申込みを受ける場合はURLを届け出ます。既に許可を持っている人が新たにネット取引を始めた場合や、URLを変更した場合も届出が必要です。
ふたつ。サイトへの表示です。ここに落とし穴があります。
第十二条 2 古物商又は古物市場主は、その事業の規模が著しく小さい場合その他の国家公安委員会規則で定める場合(その者が特定古物商である場合を除く。)を除き(略)その氏名又は名称、許可をした公安委員会の名称及び許可証の番号(次項において「氏名等」という。)を(略)公衆の閲覧に供しなければならない。
3 特定古物商は、前項の規定により氏名等を公衆の閲覧に供するときは、氏名等と共に、その取り扱う古物に関する事項を公衆の閲覧に供しなければならない。
第2項には「従業者5人以下」の免除規定があります(規則13条の2)。ところが警察庁の通達は、こう釘を刺しています。
ウェブサイトを利用して古物の取引を行う法第8条の2において規定する特定古物商は、氏名等と共にその取り扱う古物に関する事項を当該ウェブサイトに表示しなければならない。(略)ウェブサイトを利用して古物の取引をしようとするときは、上記2(2)から(4)までの免除規定は適用されないことに留意すること。
一人でネット販売をしている人は、「従業者5人以下」の免除に見えて、免除されません。URLを届け出た古物商は「特定古物商」なので、氏名・公安委員会名・許可証番号をサイトに表示する義務があります。表示の場所は、原則として古物を掲載している個々のページ。トップページに表示するか、トップページからそのページへリンクを張る形も認められています。
7-7. 特商法の表記 ── 自宅住所を出さずに済む方法があります
第1章で見たとおり、せどりは特商法上の「販売業者」に当たります。第11条と施行規則第23条により、氏名(名称)・住所・電話番号の表示が必要です。
ここで多くの人が止まります。自宅住所と電話番号をネットに出すことになるからです。
ただし、消費者庁のQ&Aに代替手段が明記されています。
A17 (略)消費者からの請求によって、広告表示事項を記載した書面又は電子メール等を「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、事業者の住所及び電話番号の表示を省略することも可能です。
A18 (略)以下のような措置が講じられ、住所及び電話番号について上記の要件が満たされる場合においては、通信販売の取引の場を提供するプラットフォーム事業者やバーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示することによっても、特定商取引法の要請を満たすものと考えられます。
| 方法 | 可否 |
|---|---|
| 屋号やサイト名だけを表示する | 不可(個人事業者は戸籍上の氏名が必要) |
| 請求があれば遅滞なく提供する旨を表示し、住所・電話番号を省略 | 可 |
| プラットフォーム事業者の住所・電話番号を表示(3要件を満たす場合) | 可 |
| バーチャルオフィス・レンタルオフィスの住所・電話番号(同上) | 可 |
| 私書箱 | 不可 |
| 発信専用で繋がらない番号 | 不可 |
| 夜間などに留守番電話を使う | 可 |
住所と電話番号は省略できますが、氏名の省略は「請求時提供方式」でしか認められません。屋号だけを常時表示するのは不可です。
もう一点。返品特約を広告に表示していない場合、商品を受け取った日から8日間の返品権が自動的に発生します(特商法第15条の3)。通信販売にクーリング・オフはありませんが、この法定返品権があります。「返品不可」と適法に表示していれば、その特約が優先します。
8. 買うときのルール ── 本人確認
8-1. 4つの方法があります
第十五条 古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとするときは、相手方の真偽を確認するため、次の各号のいずれかに掲げる措置をとらなければならない。
一 相手方の住所、氏名、職業及び年齢を確認すること。
二 相手方からその住所、氏名、職業及び年齢が記載された文書(その者の署名のあるものに限る。)の交付を受けること。
三 (電子署名による記録の提供を受けること)
四 前三号に掲げるもののほか、これらに準ずる措置として国家公安委員会規則で定めるもの
8-2. パスポートは使えません
意外に知られていない点です。通達に明記されています。
旅券(パスポート)は、所持人記入欄において発行元による了承を得ることなく住所を記載することができ、住所を証する資料と言えないことから、規則第15条第1項の「身分証明書等」に含まれない。
8-3. 非対面の場合は、13通りが定められています
ネットで買い取る場合は、規則第15条第3項の13号のいずれかを満たす必要があります。主なものを挙げます。
- 住所等の申出を受けたうえで、本人限定受取郵便物等を送付し、その到達を確かめる(2号)
- 住民票の写し等の送付、またはICチップ記録情報の送信、または本人確認用画像情報(古物商が提供するソフトで撮影させた身分証明書の画像で、記載事項と厚みその他の特徴を確認できるもの)を受け、かつ転送不要の配達記録郵便物等で到達を確かめる(4号)
- 身分証明書等の写し2種類、または1種類+補完書類(税・社会保険・公共料金の領収証書など、発行日が6か月以内のもの)+転送不要郵便での到達確認(5号)
- 専用ソフトで相手方の容貌と写真付き身分証明書を撮影させた画像の送信を受ける(8号)
- 2回目以降は、初回に上記のいずれかを行った相手にID・パスワードを付与して、その送信を受ける(13号)
8-4. 「身分証の写真を送ってもらうだけ」では足りません
ここが実務でいちばん間違えられている点です。どの号も、単に画像を送ってもらうだけでは要件を満たしません。
4号・5号なら転送不要郵便の到達確認がセットで必要です。8号・9号なら、古物商が提供するソフトで撮影させた、厚みや容貌まで写った画像である必要があります。
違反は第33条第1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。
8-5. 盗品を掴んだらどうなるか
ここが、本人確認をやる本当の理由です。
(盗品及び遺失物の回復)
第二十条 古物商が買い受け、又は交換した古物(略)のうちに盗品又は遺失物があつた場合においては、その古物商が当該盗品又は遺失物を公の市場において又は同種の物を取り扱う営業者から善意で譲り受けた場合においても、被害者又は遺失主は、古物商に対し、これを無償で回復することを求めることができる。ただし、盗難又は遺失の時から一年を経過した後においては、この限りでない。
盗難または遺失から1年以内なら、善意で買っていても、代金の弁償なしに返さなければなりません。これは民法第194条(公の市場で善意取得した場合は代価弁償が必要)の特則で、古物商にだけ課される重い義務です。
もうひとつ、申告義務があります。
第十五条 3 古物商は、(略)当該古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。
通達によれば「不正品」は「盗品等」より広い概念で、何らかの犯罪によって領得された物を指します。
だから本人確認は、警察のためではなく自分のためにやる手続きです。令和7年中の古物商による不正品申告は129件(警察庁統計)。少なく見えますが、掴んだ側にとっては1件でも致命的です。
9. プラットフォーム側の構造
9-1. 規模が大きくなると、個人アカウントではいられなくなります
これも構造の一部です。各社の公式ヘルプ・規約から確認できたものを並べます。
| 公式に確認できた内容 | |
|---|---|
| メルカリ | 古物商許可についての専用ヘルプあり(「個人は原則として古物営業法は適用されません/営利目的なら古物営業に該当する可能性」)。利用規約で事業者の登録を禁止。メルカリShopsは古物商許可の取得と、開設審査時の許認可証の提出が必須で、公安委員会名・許可番号・氏名をショップ説明に記載する義務。特商法の運営者情報は開示請求ベース |
| ヤフオク!/Yahoo!フリマ | 課税事業者は個人アカウント不可。ストア出店時に古物商許可証の免許情報の入力が必要。匿名でのストア運営は不可で、特商法表記が必須。無在庫出品の定義が4社中もっとも詳細(細則A-8) |
| 楽天ラクマ | 無在庫販売・ドロップシッピングを明記して禁止。古物商許可についての記載は、公式ガイド全410記事の全文検索で該当なし |
| Amazon | 下記【確認できず】 |
メルカリで事業として売り続けるなら、いずれShopsに移る必要があります。そしてShopsは古物商許可がないと開設できません。ヤフオクも、課税事業者になった時点で個人アカウントのままではいられません。
つまり、規模が大きくなること自体が、許可を要求する方向に働きます。後から取るより、先に取ったほうが動きやすい。
9-2. Amazonについて
【確認できず】Amazonの真贋調査が中古品に及ぶかどうか、および出品者に古物商許可を求める公式の記載は、確認できませんでした。Amazonの実質的なポリシー本文はセラーセントラル上のJavaScript描画ページにあり、本文が取得できません。検索で該当した「セラーフォーラム」のページはすべて利用者の投稿であり、公式ヘルプではないため出典にしていません。
現行のこの記事には「中古品であれば、これらの新品特有のメーカー規制や真贋調査の網の目を、合法的かつ安全にすり抜けることが可能です」という記述がありましたが、この記述の根拠は確認できませんでした。そもそも規制を「すり抜ける」ことを前提に事業を設計するのは、この記事の立場ではありません。
9-3. 転売は「全面禁止」ではありません
確認した範囲では、メルカリ・ヤフオク・ラクマのいずれも、転売そのものを全面禁止してはいません。ヤフオクはチケットと個別指定の対象商品に限定、ラクマは興行チケットのダフ屋行為と大量出品を禁止、メルカリには転売を名指しした条項自体が見当たりませんでした。
禁止されているのは、無在庫販売と、事業者が個人アカウントで売ることです。ここは混同されやすいので分けて理解してください。
10. どこで戦うか
10-1. 市場の大きさ
| リユース市場規模(2024年) | 34,986億円(自動車・バイクを除くと12,813億円) |
| CtoC-EC市場規模(令和6年度) | 2兆5,269億円(前年比1.82%増) |
10-2. 購入先の内訳が、実は重要です
| 購入先 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| リユースショップ店頭 | 18,757億円 | 53.6% |
| ネットオークション | 3,932億円 | 11.2% |
| ネットショッピングサイト | 3,509億円 | 10.0% |
| フリマアプリ | 2,093億円 | 6.0% |
中古の取引の過半は、いまだに実店舗の店頭で起きています。ネット系を全部足しても3割に届きません。
これは、この分野の議論が「フリマアプリでどう仕入れるか」に偏りすぎていることを意味しています。金額の過半が動いている場所は、店頭です。
10-3. 参入者は増えています
| 年末 | 古物商等の許可件数 |
|---|---|
| 令和2年 | 396,378件 |
| 令和3年 | 441,745件 |
| 令和4年 | 484,178件 |
| 令和5年 | 529,991件 |
| 令和6年 | 573,024件 |
| 令和7年 | 615,194件 |
5年で55%増えています。参入障壁は「高い」のではなく「あるが越えられる」水準にあり、実際に毎年4万人前後が越えています。
だから、この記事の結論は「早く始めろ」ではありません。正しく始めろ、です。越え方を間違えた人が多いところで、正しく越えることに意味があります。
11. 勝ち方の構造
11-1. 価格差は、真っ先に埋まります
現行のこの記事は、価格差が生まれる理由を正しく説明していました。実店舗は限られた売り場を回転させる必要があり、査定はマニュアル化されていて、全国のリアルタイムな需要は見ていない。だから「あり得ない安値」が放置される。
その説明は正しいのですが、結論が逆です。
誰でも同じアプリで同じ相場を見られるということは、その価格差は誰にでも見えるということです。そして見えるものは埋まります。埋まる速度は年々上がります。
価格差を見つける能力は、完全に代替されるものです。ツールに、他の参入者に、そして今後はさらに。そこを主戦場に置くと、5年で55%増えた参入者と、同じ棚の前で同じ時間に立つことになります。
11-2. 壁は代替されません
この記事が並べてきたものを、もう一度置きます。
| 壁の向こうにあるもの | 根拠 | 許可がないと |
|---|---|---|
| 古物市場(業者間オークション) | 古物営業法14条3項、規則15条4項 | 入れない |
| 消費税の古物商特例 | 消費税法施行令49条1項1号ハ(1) | 使えない |
| 帳簿が事業所得の根拠になる | 古物営業法16条+所得税基本通達35-2 | 雑所得になりやすい |
| 青色65万円控除・純損失の3年繰越 | 措置法25条の2、所得税法70条 | 使えない |
これらは目利きの差ではありません。手続きの差です。そして手続きは、才能でも運でもありません。19,000円と40日と、いくつかの書類です。
11-3. 面倒だから、みんなやりません
このサイトで繰り返し書いていることを、ここでも書きます。代替されるものは安くなります。代替されないものだけが残ります。
そして、この記事で見てきたものには共通点があります。全部、法令に内容が公開されているのに、読まれていません。
- ケーコジでは、受け取れる額の上限が総務省令に書いてありました
- 期間工では、日給も満了金も寮費も公式の募集要項に書いてありました
- SESでは、職種別の時給が厚労省の通達に書いてありました
- 中古せどりでは、参入資格と、それが開ける仕入れ場と税制が、法令に書いてあります
公開されているのに読まれていない場所に、優位があります。読むのは面倒で、地味で、誰も褒めてくれません。だから空いています。
11-4. どこで戦うかは、その後の話です
店頭を回るか、ネットで仕入れるか、直して売るか。この分岐は、壁を越えたあとに決めれば足ります。そして越えたあとなら、選択肢が1つ増えます ── 業者間の市場です。
強いて順序を言うなら、最初は自分がすでに詳しいジャンルから始めるのが最も安全です。目利きの差が唯一意味を持つのは、他の人が見ていないものを見ているときだけで、それは「詳しい」以外の理由では起きません。
11-5. 最初にやることは、仕入れではありません
この記事の結論は、これだけです。
最初にやることは、警察署に行くことです。
仕入れは、その後でいい。むしろその後のほうが、安く仕入れられます。
12. よくある質問
数点だけ売るなら、古物商許可は要りませんか
「営業」に当たるかどうかで決まります。警察庁の通達は「営利の目的をもって同種類の行為を反復継続して行うこと」を営業とし、「臨時的に行う副業、内職等というべき場合においても、それは法にいう営業と認められる」と明記しています。買い取って売る形なら、点数の多寡ではなく反復継続性で判断されます(1-3)。
自分の不用品を売るだけなら要りませんよね
要りません。古物営業法第2条第2項第1号のかっこ書きが「古物を売却することのみを行うもの」を古物営業から除外しています。もらったものや、引取料をもらって引き取ったものを直して売る形も同じです(1-2)。
古物商許可を取ると、何が変わりますか
3つです。①古物市場(業者間オークション)に参加できます。法第14条第3項が「古物商間でなければ」取引できないと定めているためです。②消費税の古物商特例が使えます。一般の個人から仕入れてもインボイスなしで仕入税額控除ができます。③義務づけられる帳簿が、所得税の側で「帳簿書類の保存」を満たし、事業所得として扱われやすくなります(第3〜5章)。
許可はいくらで、どれくらいかかりますか
手数料19,000円、標準処理期間40日(警視庁の審査基準)。申請は主たる営業所を管轄する警察署を経由します。e-Gov電子申請でのオンライン申請も可能です。運用は都道府県で異なる場合があるので、お住まいの都道府県警の公式ページで確認してください(7-1)。
フリマアプリの匿名配送で仕入れても大丈夫ですか
1万円未満なら、匿名のままでも古物商特例を使えます。1万円以上なら、相手方の住所・氏名の確認が必要です。ただし自動二輪車、家庭用ゲームソフト、CD・DVD・ブルーレイ、書籍などは、1万円未満でも本人確認と帳簿記載の義務があります(4-4、5-3)。
年末に仕入れを増やせば節税になりますか
逆です。経費になるのは仕入高ではなく売上原価で(所得税法第37条第1項)、年末に売れ残った在庫は売上原価から差し引かれます(同第47条第1項)。仕入れを増やすと現金は減りますが、所得は減りません(第6章)。
個人でも特商法の表記が必要ですか
必要です。消費者庁のガイドラインは「転売目的で商品の仕入れ等を行う場合は営利の意思があると判断される」とし、出品数の目安についても「これらを下回っていれば販売業者でないとは限らない」と明記しています。ただし住所と電話番号は、請求時提供方式やプラットフォーム・バーチャルオフィスの住所を使う方法で省略できます(1-5、7-7)。
買取のとき、身分証の写真を送ってもらえば足りますか
足りません。非対面の本人確認は施行規則第15条第3項に13通り定められていて、どれも画像の受信だけでは完結しません。転送不要郵便での到達確認や、専用ソフトで厚み・容貌まで撮影させた画像などが必要です。違反は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(8-3、8-4)。
知らずに盗品を買ってしまったら
盗難または遺失から1年以内であれば、善意で買っていても、代金の弁償なしに被害者へ返還する義務があります(古物営業法第20条)。これは民法第194条の特則で、古物商に固有の義務です。だから本人確認は自分を守る手続きです(8-5)。
結局、何から始めればいいですか
許可の申請です。手数料19,000円、40日。それが済んでから仕入れを始めたほうが、安く仕入れられて、税務上も有利で、プラットフォームの規約にも適合します(11-5)。
この記事で確認できなかったこと
- Amazonの真贋調査が中古品に及ぶかどうかの公式記載(9-2)
- Amazonが出品者に古物商許可を求める公式記載(同上)
- 楽天ラクマの公式ガイドにおける古物商許可の記載。全410記事の全文検索で該当なし(9-1)
- 「中古せどりの利益率」を示す公的統計。現行記事の「15〜60%」「新品5〜15%」に対応する一次情報は存在しません
- 自家用車を仕入れに使った場合の按分方法を示した国税庁の具体的記述。家事関連費の例示は「店舗併用住宅に係る費用」のみです
- 古物営業法第11条第3項(許可証等の提示義務)および第15条第3項(不正品の申告義務)に違反した場合の罰則。第31条〜第35条・第37条・第39条のいずれにも列挙が見当たりません
▼ 次にやること
この記事は初心者の館のSTEP2(仕入れて売る)の入口です。
- まだ元手がない場合:家の不用品を売る ── ここまでは許可も税金もかかりません。この記事で越える線の、手前側です
- 古物商許可の申請手順 ── 実際の申請書類の書き方はこちらです
- 直して売るという選択 ── 仕入れ値をいちばん下げられる方向です。ただし売る側の責任も増えます
- 実務のコツ ── 仕入れの現場での判断について
この記事で参照した一次情報
| 論点 | 出典 |
|---|---|
| 古物の定義/古物営業の3類型/許可/無許可の罰則 | 古物営業法 第2条・第3条・第31条(e-Gov法令検索) |
| 「営業」の意義、副業も含むこと、未使用品も古物であること、フリマ等の該当性 | 警察庁「古物営業法等の解釈運用基準について(通達)」令和6年8月14日 警察庁丙生企発第272号 |
| 名義貸しの禁止 | 古物営業法 第9条/第31条第3号 |
| 古物市場は古物商間でなければ取引できないこと | 古物営業法 第14条第3項/第33条第1号/同法施行規則 第15条第4項 |
| 古物市場での取引が「行商」に当たること/許可証の携帯義務 | 古物営業法 第5条第1項第5号・第11条・第35条第2号/通達 第5の3 |
| 古物商・古物市場主の許可件数 | 警察庁生活安全局生活安全企画課「令和7年中における古物営業・質屋営業の概況」表1 |
| 消費税の古物商特例 | 消費税法 第30条第7項・第8項/同法施行令 第49条第1項第1号ハ(1)/国税庁インボイスQ&A 問106・問106-2・問110 |
| インボイス2割特例の適用期間 | 平成28年法律第15号 附則第51条の2/国税庁インボイスQ&A 問114 |
| 帳簿の記載事項・保存期間・罰則 | 古物営業法 第16条・第18条・第33条/同法施行規則 第17条・第18条/通達 第15 |
| 1万円未満の免除と、その例外7類型 | 古物営業法 第15条第2項/同法施行規則 第16条/通達 第14の3 |
| 帳簿書類の保存と所得区分 | 所得税基本通達 35-2(注)/国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」 |
| 青色申告の特典 | 租税特別措置法 第25条の2/所得税法 第57条・第70条・第143条・第144条 |
| 売上原価と棚卸資産 | 所得税法 第37条第1項・第47条第1項/同法施行令 第99条・第102条/国税庁「令和7年分 青色申告の決算の手引き(一般用)」 |
| 許可の申請先・手数料・標準処理期間・必要書類・欠格事由 | 古物営業法 第4条・第5条/同法施行規則 第1条の3/警視庁・大阪府警の公式ページ/警視庁「審査基準(生活安全部)」/警察庁「オンラインでの申請等の案内」 |
| 13品目の区分と変更届 | 古物営業法施行規則 第2条/古物営業法 第7条第2項/同法施行規則 第5条第6項 |
| 古物を受け取れる場所の制限 | 古物営業法 第14条第1項/第32条 |
| 標識の掲示/URL届出/サイトへの表示 | 古物営業法 第5条第1項第6号・第8条の2・第12条/同法施行規則 第11条・第13条の2/通達 第5の4・第11 |
| 本人確認の方法/パスポートが使えないこと/非対面の13通り | 古物営業法 第15条/同法施行規則 第15条/通達 第14/第33条第1号 |
| 盗品の無償回復義務 | 古物営業法 第20条/通達 第17 |
| 特商法上の「販売業者」の判定 | 消費者庁「インターネット・オークションにおける『販売業者』に係るガイドライン」 |
| 通信販売の広告表示義務/住所・電話番号の省略/法定返品権 | 特定商取引法 第2条第2項・第11条・第15条の3/同法施行規則 第23条〜第25条/消費者庁「通信販売広告Q&A」Q15〜Q20/消費者庁「特定商取引に関する法律の解説」 |
| リユース市場規模・購入先別内訳 | 環境省「令和6年度リユース市場規模調査」(令和7年6月公表)図表124 |
| CtoC-EC市場規模 | 経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表) |
| プラットフォーム各社の規定 | メルカリ・ヤフオク!/Yahoo!フリマ・楽天ラクマの公式ヘルプおよび利用規約 |

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