「物価 2% 本当」「物価上昇率2%なのに実感がない」で調べて来られた方に、先に結論を書きます。
日銀が2026年10月30日に「2%に到達した」と言ったのは、天候や補助金のような一時的な動きを除いた「基調的な物価上昇率」の話で、この数年の物価が毎年2%ずつ上がってきたという意味ではありません。消費者物価(総合)の前年比は、2022年から2025年まで4年続けて2%を超えました(2.5%・3.2%・2.7%・3.2%)。2021年から2025年の4年で、物価全体は12.1%、食料は25.8%、米などの穀類は49%上がっています。給料はその間に8.6%しか増えず、物価を引いた実質賃金は4年続けてマイナス、合計で約5%減りました。2026年は1月から9か月続けてプラスですが、4年分を取り戻したわけではありません。私が買っていたイオンのトップバリュの卵(12個入り)は、2021〜2022年ごろの130円前後から、今は330円です。2.5倍です。日銀総裁も、2%に届いたことは「一つの節目」としつつ、家計が食料やエネルギーの値上がりで「生活防衛意識」を高めていると認めています。「2%」は上がる速さで、苦しいのは4年分積み上がった高さのほうです。自分の買い物で物価上昇率を出す計算機を8章に置きました。
この記事は、物価と賃金の数字と私の買い物の話です。消費税や関税などの政策の是非は扱いません。
| 知りたいこと | 答え | 章 |
|---|---|---|
| あなたの実感は | トップバリュの卵12個入りが、130円前後から330円。1回の値上げで1割までなら受け入れられるが、これは度を越えている | 1章・7章 |
| 日銀の「2%到達」は本当か | 「基調的な物価」が2%と概ね整合的になったという判断。日銀自身も、目標を持続的・安定的に達成したわけではないと言っている | 2章 |
| なぜ2%と実感がずれるのか | 2%は1年の速さ。2021年からの4年で、物価全体は12%、食料は26%上がった | 3章 |
| 給料は追いついたか | 名目は4年で8.6%増、実質は4年連続マイナスで約5%減。2026年は9か月連続プラス | 4章 |
| エンゲル係数は | 28.6%(2025年、二人以上の世帯)。食費は月1万5千円増え、物価を除いた実質では4年で約5%減った | 5章 |
| 今の2.1%の中身は | 米と私立高校の授業料の値下がりで低く出ている。食料はまだ2.8% | 6章 |
| 自分の物価上昇率は | 品物の値段と年数、食費と手取りを入れると出る | 8章 |
1. 私の卵は、130円前後から330円になった
私はイオンで、イオンのブランド(トップバリュ)の12個入りの卵を買っています。2021年か2022年のころは、130円前後で買えていました。今は330円です。2.5倍です。2023年のころも、まだそこまでではなかったと思います。
統計の卵と並べると、こうなります。総務省の小売物価統計調査で、東京都区部の鶏卵(白色卵、10個入りパック、サイズ混合)の値段です。この卵の調べ方(基本銘柄)は2018年から変わっていないので、同じものの値段として比べられます。
| 2021年ごろ | 今 | 上がり方 | 1個あたり | |
|---|---|---|---|---|
| 東京都区部の鶏卵(10個入り) | 228円(2021年平均) | 324円(2026年9月) | +42% | 22.8円 → 32.4円 |
| 私のトップバリュ(12個入り) | 130円前後(2021〜2022年ごろ) | 330円 | +154% | 10.8円 → 27.5円 |
統計の卵も4割上がっていますが、私の卵は2.5倍です。1個あたりで見ると、私の卵は、統計の卵の半分以下(47%)だったのが、今は85%です。安さが売りだった卵が、普通の卵とあまり変わらない値段になりました。
私の卵では、安さが売りだった品物ほど、上がり方が大きくなりました。統計は、決まった品質の品物の値段の平均を追っています。安い品物を選んで買っている人の値上がりは、統計の平均とずれることがあります。ただ、これは私の卵一つの例なので、安い品物が全部こうなったとまでは言えません。
2. 日銀の「2%に到達」は、何の2%か
日銀は2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率で2%と決めました。2026年10月30日の金融政策決定会合のあとの会見で、植田総裁は、消費者物価の「基調的な上昇率」が「2%の物価安定の目標と概ね整合的な水準」になったと述べ、この判断は9人の委員全員で一致したと説明しました(会見の要旨は11月2日に公表)。
ここで言う「基調的な物価上昇率」は、毎月発表される消費者物価の前年比そのものではありません。天候で野菜が高い、政府の補助で電気代が下がった、といった一時的な動きを除いた、物価の地力のようなものです。日銀は一つの数字で決めているのではなく、関連する多くの指標が2%近くに達していることや、家計・企業・エコノミストの予想物価上昇率を見て判断しています。
同じ会見で、総裁はこうも言っています。
| 論点 | 総裁の発言(要旨から) |
|---|---|
| 2%に届いたことの意味 | 長い間そこを目指してきたという面では「一つの節目」 |
| 目標は達成したのか | 「持続的・安定的な物価安定という目標が達成されたわけではない」。「達成宣言を出すとかそういうものではない」 |
| 家計の実感 | 家計部門が特に食料やエネルギー関連価格の高い上昇率で「生活防衛意識」を高めていることは認識している |
| ずれの理由の一部 | 一部は平均的なインフレ率の問題ではなく、「相対価格の変動」(食料など、一部の品物だけが大きく上がること) |
なので、「日銀は2%を維持できていて順調」という受け取り方は、半分だけ正しいことになります。今の物価の地力が2%前後になった、という判断は日銀の公式のものです。ただ、この数年の物価が2%で収まってきたわけではありませんし、日銀自身も目標を達成したとは言っていません。
3. 「2%」は上がる速さで、苦しさは上がった高さ
消費者物価(総合)の前年比は、2021年はマイナス0.2%でした。そこから4年続けて2%を超えています。
| 年 | 総合 | 持家の帰属家賃を除く総合 | 食料 |
|---|---|---|---|
| 2021年 | −0.2% | −0.3% | 0.0% |
| 2022年 | 2.5% | 3.0% | 4.5% |
| 2023年 | 3.2% | 3.8% | 8.1% |
| 2024年 | 2.7% | 3.2% | 4.3% |
| 2025年 | 3.2% | 3.7% | 6.8% |
前年比は、1年でどれだけ上がったかという速さです。速さが2%に落ち着いても、上がった値段は元に戻りません。4年分を積み上げると、こうなります(2020年を100とした年平均の指数)。
| 品目 | 2021年 | 2025年 | 4年で |
|---|---|---|---|
| 総合 | 99.8 | 111.9 | +12.1% |
| 持家の帰属家賃を除く総合 | 99.7 | 114.0 | +14.3% |
| 食料 | 100.0 | 125.8 | +25.8% |
| 穀類(米・パン・麺など) | 98.8 | 147.6 | +49.4% |
| 乳卵類 | 99.9 | 126.1 | +26.2% |
2026年9月までつなぐと、食料は2021年からおよそ3割上がった計算です(2026年から指数の基準年が2025年に変わったので、2025年の年平均に、2025年を100とした2026年9月の指数をかけてつないだ概算です)。物価全体は約15%です。
もう一つ、「持家の帰属家賃」という項目があります。持ち家に住んでいる人が、自分の家を借りていると仮定した家賃です。実際にお金は払っていませんが、物価全体の約16%を占めていて、ほとんど動きません。2026年9月の物価全体は2.1%ですが、これを除くと2.5%です。実際に払うお金で見ると、ニュースの数字より少し高くなります。
総務省は、品目を買う頻度別と、収入別の指数も出しています。2021年から2025年の上がり方です。
| 分け方 | 2021年 | 2025年 | 4年で |
|---|---|---|---|
| 持家の帰属家賃を除く総合 | 99.7 | 114.0 | +14.3% |
| 頻繁に購入する品目 | 101.6 | 121.2 | +19.3% |
| 1年に1回程度購入する品目 | 101.9 | 112.6 | +10.5% |
| 勤労者世帯・年収が下から20%の世帯(第Ⅰ五分位、持家の帰属家賃を除く総合) | 99.4 | 113.2 | +13.9% |
| 勤労者世帯・年収が上から20%の世帯(第Ⅴ五分位、持家の帰属家賃を除く総合) | 99.7 | 112.5 | +12.8% |
頻繁に買う品目は、4年で19.3%上がっています。物価全体(14.3%)より5ポイント大きく、毎日の買い物で感じる値上がりが「2%」より大きいのは、気のせいではありません。収入の低い世帯と高い世帯の差は、1ポイントほどでした(世帯ごとに買っているものの割合を変えて計算した指数で、同じ品物を安い店で買うかどうかの違いは入っていません)。
4. 給料は追いついたか(実質賃金)
厚生労働省の毎月勤労統計(従業員5人以上の事業所)で、給料(現金給与総額)と、物価を引いた実質賃金の前年比を並べます。
| 年 | 給料(名目) | 物価(持家の帰属家賃を除く総合) | 実質賃金 |
|---|---|---|---|
| 2022年 | +2.0% | +3.0% | −1.0% |
| 2023年 | +1.2% | +3.8% | −2.5% |
| 2024年 | +2.8% | +3.2% | −0.3% |
| 2025年 | +2.3% | +3.7% | −1.3% |
| 4年の合計 | +8.6% | +14.4% | 約−5% |
給料は4年で8.6%増えましたが、物価は14.4%上がりました。実質賃金は4年続けてマイナスで、合わせて約5%減っています(2024年は統計の推計方法を更新した年で、前年比は更新後の参考値と比べたものです)。
2026年に入ってからは、流れが変わっています。2026年9月分の速報(11月6日公表)では、給料は31万1,409円で前年より4.6%増え、実質賃金は2.2%のプラスで、9か月続けてプラスです。
ただ、4年で約5%減った分を取り戻すには、実質で2%のプラスが2年半ほど続く必要があります。今年プラスになったことと、生活が4年前に戻ったことは、別の話です。それに、この統計は平均です。自分の給料が4.6%増えたかどうかは、自分の給与明細でしか分かりません。
5. 食費は月1万5千円増えて、実質では5%減った
エンゲル係数は、消費支出のうち食費が占める割合です。総務省の家計調査(二人以上の世帯)で並べます。
| 年 | 食費(月) | 実質の増減 | エンゲル係数 |
|---|---|---|---|
| 2021年 | 79,401円 | −1.0% | 27.2% |
| 2022年 | 81,888円 | −1.3% | 26.6% |
| 2023年 | 86,554円 | −2.2% | 27.8% |
| 2024年 | 89,936円 | −0.4% | 28.3% |
| 2025年 | 94,895円 | −1.2% | 28.6% |
食費は4年で月1万5,494円、年にすると約18.6万円増えました。それでも、物価の上がり方を除いた実質では4年続けて減っていて、合わせると約5%減です。払うお金は2割増えて、物価を除いた実質では5%減った、ということです。安いものに替えたのか、量を減らしたのかまでは、この統計からは分かりません。
食費は、毎日要るので削りにくいお金です。エンゲル係数が上がっているのは、ぜいたくをしているからではなく、削れないものの値段が上がったからです。
6. 今の「2.1%」の中身
2026年に入って、物価全体の前年比は1%台に下がり、9月に2.1%になりました。総務省の発表で、9月の前年比を下げている主な品目は次のとおりです。
| 品目 | 前年比(2026年9月) | 物価全体を押し下げた幅 |
|---|---|---|
| うるち米(コシヒカリを除く) | −21.1% | 0.15ポイント |
| 高等学校授業料(私立) | −73.2% | 0.15ポイント |
| 電気代 | −2.4% | 0.08ポイント |
この3つで、物価全体の前年比を約0.4ポイント押し下げています(総務省が公表している寄与度の合計)。一方で、食料は2.8%、生鮮食品を除く食料は2.9%、生鮮魚介は13.9%上がっています。私立高校に通う子どもがいない家では、授業料の値下がりは家計に関係ありません。米は2025年に大きく上がり(穀類の前年比は2025年に21.9%)、今年は下がっていますが、穀類は2021年と比べればまだ4割ほど高い水準です(同じつなぎ方の概算)。ニュースの「2.1%」は、自分の家の物価上昇率ではありません。
7. 私の考え
ここからは私の考えです。
1回の値上げで1割までなら、受け入れられます。130円の卵が143円になるくらいです。ちなみに、毎年2%ずつ5年上がると、130円は約144円になります。日銀の目標どおりの2%が続いた場合の値段と、私が受け入れられる1割は、ちょうど同じくらいです。
実際は330円です。この上がり方に、誰がついていけるのかと思います。今のインフレは、私の常識からは外れています。エンゲル係数も上がりすぎです。食費は削れないお金で、そこが4年で2割増えています。
なので、「物価上昇率2%」とニュースで聞いたら、自分の買い物で測り直すのがいいと思います。自分がよく買うものが何%上がったかは、統計の平均では分かりません。ただ、1品だけでは家計全体の上がり方にはならないので、食費のように支出の大きいものから測るのが近道です。
給料が物価に負けているなら、上げる手段は自分で取りに行くしかないと思っています。昇給の記事に書いたとおり、会社の業績と一人あたりの生産性が上がっていなければ、物価が上がったからといって給料は上がりません。私が会社員なら、生産性が上がっている会社に転職して上げに行きます(退職金の前払いの記事に書いたとおり、アメリカ型で)。現金のまま置いておく分は、2%が続くと、10年で買えるものが約18%減ります(100万円が、今の約82万円分)。
8. 自分の物価上昇率を出す計算機
よく買う品物の昔と今の値段、今の食費と手取りを入れると、自分の物価上昇率と、2%との差を出します。数字は初期値として、私の卵と、統計の4年分(2021→2025年)を入れています。1品の上がり方は家計全体の物価上昇率ではないので、食費や手取りの欄と合わせて見てください。
品物の値上がり
家計
9. よくある質問
物価目標は、なぜ2%なのですか
日銀は2013年1月22日に、持続可能な物価の安定と整合的と判断する物価上昇率として、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率で2%と決めました。物価が下がり続けるデフレから抜け出すための目標として、政府と日銀の共同声明も同じ日に出ています。
インフレ率2%が続くと、10年後はいくらになりますか
100円のものは、10年で約122円になります。逆に、手元の100万円で買えるものは、今の約82万円分に減ります。8章の計算機で、自分の金額と、自分の品物の上がり方で出せます。
今の日本はインフレですか、デフレですか
物価は2022年から上がり続けています。消費者物価(総合)の前年比は2022〜2025年に2.5〜3.2%、2026年9月は2.1%です。物価が下がり続ける状態(デフレ)ではありません。なお、植田総裁は会見で、デフレ脱却の宣言は政府が判断するものだと答えています。
実質賃金がプラスになったのに、楽にならないのはなぜですか
プラスになったのは2026年1月からで、2022〜2025年の4年で約5%減った分がまだ残っているからです。また、毎月勤労統計の数字は平均です。自分の給料が平均ほど増えていなければ、自分の実質賃金は今もマイナスかもしれません。
「基調的な物価上昇率」は、どこで見られますか
日銀は、2026年10月30日の会合と同じ日に、「基調的な物価上昇率に関連する各種指標」という資料を公表しています。一つの数字ではなく、複数の指標をまとめて見て判断しています。
10. まとめ
- 日銀の「2%に到達」は、一時的な動きを除いた「基調的な物価上昇率」の判断。日銀自身も、目標を持続的・安定的に達成したわけではないと言っている。
- 消費者物価は2022〜2025年に4年続けて2%を超えた。2021→2025年で物価全体は12.1%、食料は25.8%、穀類は49%上がった。
- 給料は4年で8.6%増、実質賃金は4年連続マイナスで約5%減。2026年は9か月連続プラスだが、4年分を取り戻したわけではない。
- 二人以上の世帯の食費は月1万5千円増え、物価を除いた実質では約5%減った。エンゲル係数は28.6%。
- 今の2.1%は、米と私立高校の授業料の値下がりで低く出ている。食料はまだ2.8%。
- 私のトップバリュの卵は130円前後から330円。頻繁に買う品目は4年で19.3%上がり、物価全体(14.3%)より大きい。「2%」は自分の買い物で測り直すのがいい。
11. 出典
- 日本銀行「総裁記者会見(2026年10月30日)」要旨(2026年11月2日公表):https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2026/kk261102a.pdf
- 日本銀行「2%の『物価安定の目標』」:https://www.boj.or.jp/mopo/outline/target.htm
- 日本銀行「金融政策運営の枠組みのもとでの『物価安定の目標』について」(2013年1月22日):https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2013/k130122b.pdf
- 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)平均」:https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/nen/pdf/zen-n.pdf
- 総務省統計局「2020年基準消費者物価指数 年報 2025年 第1-1表・第1-2表 中分類指数(全国)」(e-Stat):e-Stat 消費者物価指数 年報
- 総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)9月分」:https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
- 総務省統計局「小売物価統計調査(動向編)」東京都区部 鶏卵(e-Stat):e-Stat 小売物価統計調査
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和7年分結果確報」:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年9月分結果速報」(2026年11月6日):https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(2021〜2024年は各年の同じ概要):https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2025.pdf
