「続けていれば少しずつ増える」という助言を、撤回します|お金に速度があると知った日

せどり

この記事は、自分が過去にしていた助言を取り下げるために書きます。

取り下げるのは、これです。

「続けていけば、少しずつお金が増えていきますよ」

私は長いあいだ、相談を受けるとこう答えていました。悪気はありませんでした。自分がそうやって続けてきたからです。

いまは、これは質の低い発言だったと考えています。役に立たないという意味ではありません。相談してきた人を、そのまま同じ場所に留めておく効果があるという意味で、有害ですらありました。

なぜそう考えるようになったか。きっかけは、キャッシュ・コンバージョン・サイクルという指標でした。

この記事に、手順や計算式は出てきません。それはせどりでお金が残らない本当の理由のほうに全部書きました。ここで書くのは、自分の考えが変わった経緯と、相談への答え方がどう変わったかだけです。

1. あの助言の、何が悪かったのか

「続けていれば少しずつ増える」という文には、致命的な欠落があります。

時間が入っていません。

正確に言えば、「続ける」という言葉の形をした時間は入っています。しかし測れる時間が入っていません。どれくらいの速さで、何が、どれだけ増えるのか。何も言っていない。

この文が成り立つには、暗黙の前提が3つ必要です。

暗黙の前提 実際には
①いま増えている(速度がプラスである) 減っている人がいます。その場合、続けるほど減ります
②増える速さが、待てる範囲である 年に数千円しか増えないなら、待つ意味は薄いかもしれません
③本人が「増えている」ことを観測できる 観測する方法を、私は教えていませんでした

3つとも確かめずに「続けろ」と言っていたわけです。これは助言ではなく、判断の先送りです。そして先送りされた側は、その間ずっと仕入れを続けます。

いちばん悪いのは①です。速度がマイナスの人に「続けろ」と言うと、その人は自分の資金を使って、より深く沈みます。私はその可能性を、一度も検討していませんでした。

2. 「好調なのに苦しい」は、例外ではありません

当時の私は、「売れているのにお金が残らない」という相談を、その人固有の問題だと思っていました。使いすぎか、記帳が甘いか、そのどちらかだろうと。

これも間違いでした。国の統計に、はっきり出ています。

2024年版「小規模企業白書」(中小企業庁)に、こう書かれています。

小規模企業では18.2%の事業者が「事業が不調で、資金繰りも苦しい」と回答しているほか、22.7%の事業者は「事業は好調だが、資金繰りは苦しい」と回答している。

5社に1社以上が、好調なのに苦しい。不調で苦しい18.2%より多いのです。

そして、業種別を見るとさらに具体的になります。

「小売業」及び「飲食・宿泊業」では、約5割が「事業は好調だが、資金繰りは苦しい」又は「事業が不調で、資金繰りも苦しい」と回答しており、他の業種より資金繰りが「安定している」と回答する割合が低い。

せどりは小売業です。約5割という数字は、相談してくる人が特別だったのではなく、この業種の標準的な状態だったことを示しています。

もう1つ、同じ白書から引きます。

売上高1千万円以下の事業者において、売上げ・仕入れの集計業務では55.5%、帳簿の作成業務では46.2%が「手書き」で作業している

集計を手書きでやっているということは、月に何度も見返せないということです。見返せなければ、速度は測れません。速度が測れなければ、増えているかどうかは分かりません。

つまり、こういう構図になります。好調なのに苦しい人が2割以上いて、小売業では約5割が苦しく、そして多くの人が測る手段を持っていない。そこへ「続けていれば増えます」と言っていたわけです。

3. キャッシュ・コンバージョン・サイクルという指標

考えが変わったのは、この指標を知ってからです。

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、お金が現金に戻ってくるまでの日数を測る指標です。もともとは企業の財務分析で使われるもので、こう定義されます。

CCC = 棚卸資産回転日数 + 売上債権回転日数 − 仕入債務回転日数

物販の言葉に置き換えると、こうなります。

現金が戻るまでの日数 = 在庫の回転日数 + 入金までの日数 − 仕入代金の支払猶予日数

計算の仕方と、数字別にどうなるかの表はせどりでお金が残らない本当の理由の5章に置きました。ここでは式そのものより、この式を見たときに何が分かったかを書きます。

3-1. 分かったのは、お金には速度があるということでした

それまで私は、お金をとして見ていました。いくら仕入れて、いくらで売れて、いくら残ったか。

CCCが示しているのは、量ではありません。同じ100万円が、1年に何回転するかです。

30日で戻る100万円と、120日で戻る100万円は、帳簿の上では同じ100万円です。しかし1年で前者は12回働き、後者は3回しか働きません。1回あたりの利益が同じなら、年間の利益は4倍違います。

そして決定的なのは、この差が、損益計算書のどこにも出てこないことです。利益率は同じ。売上も、やり方次第で同じにできる。違うのは速度だけで、速度を記録している欄が帳簿にありません。

ここで、自分がしていた助言の意味が分かりました。「続けていれば増える」は、速度がプラスであることを暗黙に仮定した文です。そして速度は、放っておくと悪化します。在庫は積み上がる方向にしか動かないからです。

3-2. マイナスとプラスでは、続ける意味が正反対になります

この式の恐ろしいところは、符号によって「続ける」の意味が反転することです。

現金が戻るまでの日数 この状態で規模を伸ばすと 「続けていれば増える」は
マイナス(売った代金で仕入代金を払える) 手元の現金が増える 正しい
プラス(自分で立て替えている) 立替額が同じ倍率で増える 致命的に間違い

符号を確かめずに「続けろ」と言うのは、コインの裏表を見ずに賭けろと言っているのと同じです。しかも本人の資金で。

私はそれを、何年もやっていました。

4. そこから、分母が時間になりました

当サイトの記事を読んでいる方は、この式を何度も目にしていると思います。

利益 ÷ 拘束日数

プリンター修理の記事にも、コストコの記事にも、ブックオフの値札の記事にも、おもちゃ投資の記事にも出てきます。この式の出どころが、CCCです。ここまで一度も書いていなかったので、ここで書いておきます。

4-1. なぜCCCをそのまま使わなかったのか

CCCは、事業全体の健康状態を測る指標です。1年に1回、あるいは四半期に1回、事業の向きを確かめるのには適しています。

ただし、店頭で商品を1つ手に取ったときには使えません。この商品を仕入れるかどうかを、CCCは教えてくれない。事業全体の平均だからです。

必要だったのは、CCCの考え方を、1件に落とした指標でした。それが「利益 ÷ 拘束日数」です。

CCC 利益 ÷ 拘束日数
測る対象 事業全体 1件、1商品、1案件
使う頻度 月1回〜年1回 仕入れるたび
答えるもの この事業は現金を生んでいるか この1件は、時間に見合うか
役割 年に一度の健康診断 毎回の判断

同じ思想の、粒度が違う2つです。CCCで向きを確かめて、利益÷拘束日数で1件ずつ決める。この2段構えになったのが、いまの自分のやり方です。

4-2. この式に変えて、判断が変わったもの

分母を時間にすると、それまで「良い」と思っていたものが、はっきり悪くなります。

案件 金額で見ると 時間で割ると
1冊5,500円で買い、4年寝かせて14,500円で売れた本 9,000円の利益。成功 1日あたり約6円。普通にせどりをしていたほうが上
1点3,000円の利益。売れるまで180日 3,000円。悪くない 1日あたり約17円
1点500円の利益。売れるまで15日 500円。小さい 1日あたり約33円。上の2倍

金額で並べると1行目が一番良く見えます。時間で割ると順番が逆になります。そして3行目は、同じ資金を1年で24回まわせます。

「寝かせ」で自分が損をしていた理由が、これでやっと分かりました。私はずっと、正しい計算をしていなかっただけです。4年で9,000円を「勝ち」と数えていました。

5. 相談への答えが、どう変わったか

ここがこの記事の本題です。実際にあった会話を、そのまま書きます。

5-1. その日の会話

調子はいかがですか?
相手 売れてはいます。なかなかお金は増えていかないですね
時価で評価しないと、増える物販になりません
相手 見込み利益は、申し分ない水準で取れるようになったのですが
見込みが取れても、実現した利益が出ないと意味がありません。90日で売れなかったら切れと言ってきましたが、そもそも仕入れの段階でCFの計算をしないといけないです
相手 やり方を教えてください

この会話には、私が言いたいことがほぼ全部入っています。

相手は失敗していません。むしろ上達しています。「見込み利益は申し分ない水準で取れるようになった」と言っているのは、リサーチが上手くなったということです。教えたことを、ちゃんとやっている。

それでも、お金は増えていない。

5-2. ここで、私は2つ目の撤回をしています

上の会話の中で、自分がこう言っているのに気づいてください。

90日で売れなかったら切れと言ってきましたが、そもそも仕入れの段階でCFの計算をしないといけないです

これは、この記事の1章で撤回した助言の、次の版の撤回です。

言っていたこと 何が足りないか
第1版 続けていけば少しずつ増えます 時間が入っていない
第2版 90日で売れなかったら損切りしてください すでに起きた損の後始末でしかない
第3版 仕入れる前に、現金が戻るまでの時間を計算してください

第2版も、第1版よりはずっとマシです。少なくとも時間が入っています。しかし、これは対症療法です。90日という期限は、90日ぶん資金が拘束されたあとで発動します。損は、すでに出ています。

本当に必要なのは、その商品を買う前に、これが何日で現金に戻るのかを見積もることでした。損切りルールは、その見積もりを外したときの保険であって、主役ではありません。

順番を間違えていたわけです。私は出口の話ばかりしていて、入口の話をしていませんでした。

5-3. まず聞く、4つの数字

いまは、相談を受けたらこの4つから始めます。昔の私は、質問を1つもしていませんでした。

# 聞くこと それで何が分かるか
1 いま、事業用の口座にいくらありますか。カードの未払い分を引いた額で 本当の現金。ここが出発点です
2 在庫を、いま売ったら手元に残る金額で合計するといくらですか 時価。仕入値ではありません
3 いちばん古い在庫は、仕入れてから何日たっていますか 滞留。ここに全部の症状が出ます
4 仕入れてから現金が戻るまで、平均で何日かかっていますか 符号。プラスかマイナスか

4問とも「分かりません」と返ってくることが、よくあります。それが分かったこと自体が、その日の成果です。測る手段を持っていない状態で「続けろ」と言われていた、という事実が確定するからです。

そして、1と2が出れば、その場でこれが出ます。

現金 + 在庫の時価

5-4. 仕入れの前に見る指標を、自分で作りました

第3版の「仕入れる前に計算する」を実行するには、道具が要ります。

問題は、既存のツールが教えてくれるのは「その商品が売れるまでの時間」であって、「自分の番が回ってくるまでの時間」ではないことでした。月に10個売れる商品でも、最安値に5人並んでいれば、自分の取り分は月2個です。同じ商品なのに、拘束される日数がまったく違う。

そこで、こういう指標を作りました。True Sold Durationと呼んでいます。

見るもの なぜ要るか
出品してから売れた日までの、正確な差 「売れている」ではなく「何日で売れた」を実測するため
すでに出品している人の数 その日数を、何人で分け合うのかを見るため

この2つを合わせると、「その商品が売れるまでの日数」ではなく「自分が売れるまでの日数」が、より現実的な形で出ます。

そしてこの日数が、そのまま「利益 ÷ 拘束日数」の分母になります。仕入れる前に分母が分かるので、仕入れる前に判断ができる。これが第2版と第3版の違いです。

細かい計算方法はここでは書きませんが、考え方だけなら、いま手元にあるデータで真似できます。過去に自分が売った商品の、出品日と売れた日の差を並べる。そこに、そのときの出品者数を添える。それだけで、自分の商材における現実的な回転日数が見えてきます。他人の平均ではなく、自分の実測です。

5-5. 資金が少ないほど、回転側に寄せます

そのうえで、指導するときの比重をこう決めています。

資金が少ないうちは、回転と利益を8:2の比重で見る。

利益率を無視するという意味ではありません。どちらを優先して切り捨てるかという話です。利益率が高くても回転が遅い商品は、資金が少ない人にとっては買ってはいけない商品になります。

理由は単純です。資金が少ない人は、そのお金が1年に何回働くかで結果が決まるからです。50万円しかない人が、それを1回転させて15%取るのと、4回転させて8%ずつ取るのとでは、後者が倍以上になります。資金の大きい人なら、遅い商品を混ぜても他で回せます。少ない人には、その余裕がありません。

この比重に変えてもらうと、手元に残るお金が露骨に増えました。

ひとつ書いておきたいことがあります。相談を受けた方のなかには、仕入れの資金繰りにリボルビング払いを使っていた人もいました。回転が戻ると、そういうものに頼る必要がなくなります。回転が遅いから資金が足りず、足りないから手数料の高い手段でつなぐ。この輪は、回転を戻すと外側から切れます。

5-6. 本人の中で、何が入れ替わったか

数字が動き始めると、本人の関心が勝手に移ります。私が説得したわけではありません。

それまで見ていたもの 見るようになったもの
月商をいくら上げるか 実際に手元に残った利益をいくら伸ばすか
在庫をいくつ増やすか 在庫をいくつ減らせるか
見込み利益をどこまで取れるか その見込みが、何日で現金に変わるか

とくに3行目です。見込み利益を追いかけることが正解ではない、というのは、言葉で説明しても伝わりません。自分の口座で確かめて、はじめて分かります。

結果として起きたのは、利益の増加だけではありませんでした。必要な資本が減り、在庫の保管スペースまで小さくなりました。回転が上がると、同じ売上を、より少ない在庫で回せるようになるからです。

5-7. いまは、言語化できなくても回せます

この指導を始めたのは、AIがなかった時代です。当時は、自分が言葉にして伝えるしか方法がありませんでした。相手が数字に強くなければ、伝わらないまま終わることもありました。

いまは違います。ここまでに書いた前提条件をAIに渡しておけば、あとは本人がスクリーンショットや表計算のデータを投げるだけで、改善点とやるべきことが返ってきます。指標の意味を完全に理解していなくても、判断のところまで到達できる。

ただし、条件が1つあります。前提条件を渡さなければ、AIは「続けていけば増えますよ」と同じことを言います。売上を上げましょう、利益率の高い商品を探しましょう、と。それは私が昔していた助言と同じものです。

だから、渡すべき前提はこうなります。

AIに先に伝えておくこと
在庫は仕入値ではなく、いま売ったら手元に残る金額で評価すること
追いかける数字は月商ではなく、「現金 + 在庫の時価」であること
1件の良し悪しは「利益 ÷ 拘束日数」で判断すること
拘束日数は、その商品が売れるまでではなく、自分の番が回ってくるまでで見ること
資金が少ないうちは、回転と利益を8:2の比重で見ること
損切りは後始末であり、判断は仕入れる前に済ませること

この記事に書いてあるのは、その前提条件そのものです。ここをコピーしてAIに渡し、自分の在庫の表を添えてください。それで、私が対面でやっていたことのかなりの部分が再現できます。

6. 「増えている実感がない」は、感覚ではありません

いま、この言葉を聞いたときの受け取り方が、昔と正反対になりました。

昔は、これを気の持ちようだと思っていました。数字は出ているのに本人が不安なのだろう、と。だから「そんなものです」と返していました。

いまは、こう考えています。

「増えている実感がない」は、感覚ではなく観測です。そしてたいていの場合、帳簿より正確です。

理由は単純で、本人は口座の残高を毎日見ているからです。帳簿の利益は、売れ残った在庫を資産として数えます。口座は数えません。だから、在庫が積み上がっているとき、帳簿は増え、口座は増えない。

そのズレを、体で先に感じ取っている。それが「実感がない」の正体です。

この見方に変えてから、相談の質が変わりました。相手の不安を打ち消すのではなく、その不安が何を捉えているのかを一緒に特定する作業になったからです。そして特定できると、たいてい相手のほうが先に「じゃあこれを売ります」と言い出します。

助言する側が説得する必要は、実はありませんでした。数字が出れば、本人が決めます。私がやるべきだったのは、説得ではなく、数字を出す手伝いのほうでした。

7. 時間で測ると、何が決まるのか

金額で測っていたころ、私が決められなかったことが2つあります。やめる判断と、断る判断です。

金額は、足し算しかしません。1点でも多く仕入れれば、見込みの利益は増えます。だから金額で見ているかぎり、やめる理由も断る理由も出てきません。「やらないよりマシ」で全部が通ってしまう。

分母に時間を入れると、はじめて引き算が始まります。

決まること 判定の仕方
やめる商材 ジャンル別に「利益 ÷ 拘束日数」を出し、自分の平均を下回るものを外す
行かない店 移動時間と滞在時間を分母に入れる。平均を下回る店は巡回から外す
断る案件 金額が大きくても、拘束が長ければ受けない。受けている間、他が全部止まるから
雇わない判断 外注費が「自分の1日あたりの利益 × 減らせた日数」を超えるなら、まだ早い
売上を上げない判断 現金が戻るまでの日数がプラスなら、伸ばすほど立替が増える。先に符号を直す
仕入れない判断 店頭で、その商品が自分の番が回ってくるまで何日かかるかを見積もる。分母が大きすぎるなら、利益額が大きくても買わない

最後の行が、いちばん言いにくい判断です。「売上を上げてはいけません」と言うことになるからです。相談してくる人は、たいてい売上を上げたくて来ています。

それでも、符号がプラスのまま規模を伸ばすと、不足額も同じ倍率で増えます。これは根性の問題ではなく、算数です。だから先に符号を直します。

最後の行が、5章で書いた第3版です。いちばん効くのは、ここです。入口で弾けたものは、出口で損切りする必要がありません。

店を減らす話はブックオフの値札の記事に、外注の判定は外注化の記事に、商材ごとの回転の違いは利益率と回転率の実測値に書きました。全部、同じ式の応用です。

8. では、続けることに意味はないのか

ここは誠実に書きます。あります。ただし条件がつきます。

符号がマイナスなら、続けるほど増えます。プラスなら、続けるほど減ります。

「続けていれば増える」という助言が完全に間違っていたわけではありません。条件を確かめずに言っていたことが間違いでした。

だから、あの助言はこう書き直せます。

言い方
撤回する言い方 続けていけば、少しずつお金が増えていきますよ
いまの言い方 まず向きを確かめてください。向きが合っていれば、続けるほど増えます。合っていなければ、続けるほど減ります。向きは、月に1回・30分で確かめられます

長くなりました。しかし、この長さは必要な長さです。短い助言は、条件を落とすことで短くなっているだけです。

そして、もう1つ言えることがあります。向きさえ合っていれば、この商売は本当に続けるほど強くなります。資金が回転するたびに、判断の材料が増えるからです。何が売れて、何が滞留して、自分の見立てが何%甘いのか。1周ごとに精度が上がる。

複利がかかるのは、お金ではなく判断のほうです。そして判断に複利をかけるには、回転が要ります。回転の速さを決めているのが、この記事で書いてきた符号です。

9. 撤回のあとに、残ったもの

自分の助言を取り下げるのは、正直あまり気分の良いものではありません。それを聞いて続けた人がいたはずだからです。

ただ、取り下げないほうが悪いと考えました。間違った助言を訂正しないでいることは、その助言をもう一度することと同じだからです。

いま同じ相談を受けたら、こう答えます。

「その実感、たぶん正確です。数字を4つ見せてください。そのうえで、続けるかどうかを決めましょう。

結論が「続ける」になることも、もちろんあります。むしろ多いです。ただし、それは確かめた結果としての『続ける』であって、確かめないままの『続ける』とは別のものです。

この2つを区別できるようになったことが、CCCという指標から自分が受け取ったものの全部です。指標そのものより、助言する前に確かめるという順番のほうを学びました。

そしてもう1つ。この撤回は、たぶん最後ではありません。5章で書いたとおり、私は「続けていれば増える」を撤回し、そのあとで「90日で切れ」も撤回しています。いま第3版だと思っているものにも、まだ見えていない欠落があるはずです。見つかったら、また書きます。

まとめ

  • 「続けていけば少しずつ増える」という助言を撤回します。この文には測れる時間が入っておらず、速度がプラスであることを確かめずに言っていました
  • 速度がマイナスの人に「続けろ」と言うと、その人は自分の資金でより深く沈みます。符号を確かめずに言うのは、コインの裏表を見ずに賭けろと言うのと同じです
  • 「好調なのに苦しい」は例外ではありません。小規模企業の22.7%がそう答えており、小売業と飲食・宿泊業では約5割が苦しいと答えています(2024年版 小規模企業白書)
  • CCCが教えたのは、お金には速度があるということでした。30日で戻る100万円と120日で戻る100万円は、帳簿では同じ100万円ですが、1年の働きは4倍違います。そしてその差は、損益計算書のどこにも出てきません
  • 当サイトが使っている「利益 ÷ 拘束日数」は、CCCを1件に落としたものです。CCCは年に一度の健康診断、こちらは毎回の判断です
  • 「増えている実感がない」は、感覚ではなく観測です。帳簿は売れ残った在庫を資産として数えますが、口座は数えません。そのズレを、本人は毎日見ているから先に気づきます
  • 時間を分母に入れると、やめる判断と断る判断が出てきます。金額は足し算しかしないので、引き算が始まりません
  • 「90日で売れなかったら切れ」も、途中で撤回しました。損切りは後始末です。本当に必要なのは、仕入れる前に「自分の番が回ってくるまで何日か」を見積もることでした
  • 資金が少ないうちは、回転と利益を8:2の比重で見ます。少ない資金は、1年に何回働くかで結果が決まるからです
  • 続けることに意味はあります。ただし条件つきです。符号がマイナスなら続けるほど増え、プラスなら続けるほど減ります。だから「続けろ」の前に「向きを確かめろ」です

向きの確かめ方は、せどりでお金が残らない本当の理由に全部書きました。在庫の時価を計算するシートも置いてあります。月に1回、30分で終わります。

この考え方を、働き方そのものに広げたものがE→E+S→B→I の4段階です。どこから手をつけるか決まっていない場合は、初心者の館に道筋を並べてあります。

この記事で参照した情報源

種別 参照元
資金繰りの状況 2024年版「小規模企業白書」第2部第1章第2節「小規模事業者の資金繰りの改善に向けた取組」(中小企業庁)。第2-1-23図・第2-1-24図・第2-1-27図。原データは「中小企業の経営課題に関するアンケート」
キャッシュ・コンバージョン・サイクル 財務分析における一般的な定義(棚卸資産回転日数+売上債権回転日数−仕入債務回転日数)に基づく整理です
筆者の実績値 筆者自身の取引記録に基づきます。当時の相場と条件のもとでの数字であり、同じ結果を保証するものではありません

本記事は税務・会計の助言ではありません。筆者は税理士・公認会計士ではなく、記載は公表資料に基づく整理です。個別の処理は税理士にご相談ください。

最終更新:2026年8月30日

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