古着屋は儲かるのか|廃業率・利益率・年収を公的統計で確かめた

起業

古着屋の開業を調べていると、必ずこの数字に出会います。

古着屋は開業1年目で約4割、3年目までに約6割が廃業する

出典として「中小企業庁の中小企業白書」が挙げられていることが多い数字です。

今回、この記事を書き直すにあたって、この数字の出所を最後まで追いました。白書に行き着きます。ただし、たどり着いた先は想像とかなり違いました。

結論から言うと、これは製造業の、従業者4人以上の工場を、1984年から追跡したデータです。小売業ですらありません。しかも白書自身が「この統計では製造業しか分析できない」と書いています。

そこで、古着屋の開業を判断するのに必要な数字を、経済センサス、個人企業経済調査、中小企業白書、日本政策金融公庫の調査、財務省貿易統計から引き直しました。数字はすべて出典URLを付けています。確認できなかったものは「確認できず」と書きます。

先に言っておくと、この記事には「古着屋オーナーの年収」というデータは出てきません。探しましたが、信頼できるものが存在しないからです。その代わり、それに最も近い公的な数字と、その数字の限界を書きます。

この記事の調べ方について

出典は一次資料(政府統計・法令原文・公的機関の調査報告)を優先しました。業界紙や民間調査を使う場合は、その旨と、調査主体の立場を明記しています。
法令はe-Gov法令検索で現行条文を確認しました。調査時点:2026年8月。

先に結論:公的統計で確認できた数字

知りたいこと 確認できた数字 出典
古着屋の廃業率 存在しない(統計に「古着屋」という業種分類がない)
最も近い業種の廃業率 小売業 年平均6.2%(2016〜21年) 中小企業白書2025
中古品小売業の事業所数 法人のみで比較して▲3.1%(個人経営は2021年に集計対象外) 経済センサス
創業後5年の生存率 80.7%(※高めに出ている可能性を白書自身が明記) 中小企業白書2023
個人事業の衣料品小売の利益 年間営業利益150万2千円/営業利益率9.7% 個人企業経済調査2025
「卸売業,小売業」の営業利益率 6.7%(全産業で最低) 同上
開業費用 平均975万円/中央値600万円(※全業種) 日本政策金融公庫2025
自己資金 平均279万円(調達額の22.9%) 同上
古着の輸入単価 キロ725円(2020年)→1,320円(2024年) 財務省貿易統計
古着屋オーナーの年収 信頼できるデータは存在しない

この表の一行目と最終行が、この記事のいちばん重要な部分です。順に説明します。

【検証】「1年で4割、3年で6割」はどこから来たのか

出所は2006年版の中小企業白書だった

該当するのは2006年版中小企業白書 第1-2-21図「開業年次別 事業所の経過年数別生存率」です。〔1〕全事業所ベース、〔2〕会社ベース、〔3〕個人事業所ベースの3系列があり、このうち〔3〕個人事業所ベースの1年経過後が62.3%。裏返すと廃業37.7%で、これが「1年で約4割」の正体です。

ここまでは合っています。問題はその先です。

資料の出所は「工業統計表」——つまり製造業のデータ

この図の資料出所には、こう書かれています。

資料:経済産業省「工業統計表」再編加工

工業統計表は、その名のとおり工業(製造業)の統計です。小売業のデータではありません。

そして白書は、この図に脚注を付けて、限界を自ら明記しています。

この条件を満たす統計として経済産業省「工業統計表」を用いた。ただし、同統計の設計上、集計対象は製造業に限られ、また従業者4人以上の事業所に限定されていることに留意が必要である。(中略)したがって、現行の統計制度では、創業者の生存率は製造業しか分析できないのが実情である。
(2006年版中小企業白書 第1部第2章第2節 脚注9)

整理すると、「古着屋は1年で4割が廃業する」の根拠は——
製造業の事業所のデータ(小売業ではない)
従業者4人以上に限定(1人で開く古着屋は母集団に入っていない)
1984〜2002年に開業した事業所の追跡
・白書自身が「製造業しか分析できないのが実情」と断っている
20年前の白書に載っている、従業員4人以上の工場の数字です。

さらに「3年で6割」は、白書に載っていない

ここも重要です。この図が示しているのは累積の生存率ではありません。図の注に、こうあります。

(注)事業所の開業後経過年毎に、前年の事業所数を100として、次年に存続している事業所の割合を示したもの。

つまり「1年目を生き延びた事業所のうち、2年目も生き延びたのは何%か」という、年ごとの数字です。個人事業所ベースの平均値は次のようになっています。

経過年 1年 2年 3年 5年 10年
図に載っている値
(前年比の生存率)
62.3% 75.9% 79.5% 83.8% 86.8%
これを掛け合わせた値
図には載っていない
62.3% 47.3% 37.6% 25.6% 11.6%

ネットで見かける「3年で6割が廃業」「5年後の生存率25.6%」「10年後11.6%」は、下の行の数字です。白書の図に印字されているのは上の行だけで、白書本文にも累積生存率は一度も登場しません。

本文が書いているのは、あくまで前年比の話です。

個人事業所では創業直後の生存率が会社事業所に比べかなり低く、また生存率の安定までに5〜7年と会社事業所よりも長い期間を要し、かつ安定後の生存率も前年比80%台後半と、会社事業所より恒常的に低いことが分かる

出典:2006年版中小企業白書 第1部第2章第2節(国立国会図書館WARPアーカイブ。中小企業庁の現行サイトからは旧版へのリンクが外れています)

誤解のないように書いておくと、掛け算そのものが不正というわけではありません。年ごとの生存率から累積を出すのは、統計の扱いとしてはあり得る操作です。
問題は、製造業・従業者4人以上・1984年開業という条件を全部落として、「中小企業白書によれば」という形だけで古着屋に当てはめていることです。

同じ「中小企業白書」で、まったく別の数字も出ている

ややこしいのはここです。より新しい白書は、別の調査で別の数字を出しています。

2023年版中小企業白書 コラム2-2-3〔1〕図「起業後の企業生存率の国際比較」が示しているのは、次の数字です。

日本の創業後5年時点の生存率:80.7%

データ元は帝国データバンク「令和4年度中小企業実態調査委託費」。同じ図で、欧米諸国の生存率は創業後5年を経過すると50%を下回るとされています(中小企業庁 2023年版中小企業白書)。

同じ「中小企業白書」という名前で、「5年で8割が生き残る」と「3年で6割が廃業する」が同時に流通しているという状態です。

もちろん両者は別物です。2006年版は製造業の事業所を工業統計表で追跡したもの、2023年版は帝国データバンクのデータベースで企業を追跡したもの。調査対象も手法も年代も違います。どちらか一方を「白書の数字」として持ち出すのは、そもそも無理があります。

白書自身が付けている留保も、あわせて読む必要がある

ただし、この80.7%を鵜呑みにするのも正確ではありません。白書は同じページで、こう注記しています。

データベースに収録される企業の特徴やデータベース収録までに一定の時間を要する等から、実際の生存率よりも高めに算出されている可能性がある

帝国データバンクのデータベースは信用調査の対象になるような一定規模以上の企業に偏ります。個人が10坪で開いた古着屋は、そもそも捕捉されにくい。

つまり「白書によれば5年生存率8割だから古着屋も大丈夫」とも言えません。正確には、小規模な個人事業の生存率を捉えた公的統計が存在しない、ということです。

誰がこの数字を広めているのか

「1年で4割、3年で6割」を掲載している主な記事の運営者を確認しました。

掲載元 出典の示し方 運営者の立場
古着屋開業支援メディア 「中小企業白書」と明記(※白書に該当記述なし) 古着屋開業スクール・古着卸の運営者。記事内から無料体験講義へ誘導
物販系メディア 「民間調査会社調べ」「政府統計データによれば」(機関名の特定なし) 出典を示さないアフィリエイトメディア

「9割が失敗する」と書くことに、直接の営業インセンティブがある人たちが広めている数字です。失敗率が高いほど「だから講座を」「だからうちの卸を」という話につながります。

念のため書いておくと、これは「本当は簡単だ」という意味ではありません。後述する経済センサスの数字を見れば、衣料品の店が実際に大量に消えていることは確認できます。問題は、確かめられる数字があるのに、確かめられない数字が使われていることです。

同種の数字は、国立国会図書館も出所を特定できていない

「企業生存率は10年後6.3%」という、これも広く流布している数字について、国立国会図書館のレファレンス協同データベースに調査事例が登録されています。

回答プロセスには、日経ビジネス電子版の記述について「ただ、根拠となるデータはなさそう」と記録され、書籍・論文を当たっても6.3%の根拠は見つからなかったとされています(レファレンス協同データベース)。

実際の公式統計は、中小企業白書2016年版が10年生存率72%、2017年版が5年生存率81.7%です。

そもそも、統計上の古着屋はどこにいるのか

ここも整理しておく必要があります。古着屋は「衣料品店」に分類されていません。

階層 分類
中分類 60 その他の小売業
小分類 609 他に分類されない小売業
細分類 中古品小売業(骨とう品を除く)

この細分類の説明と例示は、こうなっています。

主として中古の衣服、家具、楽器、運動用品、靴など他に分類されない中古品を小売する事業所をいう。
中古衣服小売業;古道具小売業;中古家具小売業;古建具小売業;古楽器小売業;…;リサイクルショップ(中古電気製品小売業、古本屋を除く)

出典:e-Stat 日本標準産業分類(※コードは令和5年7月改定で6098→6097に変更。古い資料の番号をそのまま引くと誤りになります)

つまり統計上、古着屋はリサイクルショップや中古家具店と同じ箱に入っています。「織物・衣服・身の回り品小売業」は新品の衣料品店の分類で、古着屋は入っていません。
このため、「古着屋だけ」を切り出した数字は取れません。取れるのは「中古品小売業」までです。

それらしい「古着屋の◯%」という数字を見かけたら、どこから持ってきたのかを疑うべき理由が、ここにあります。

業種として最も近い数字:小売業の廃業率6.2%

では、確かめられる数字は何か。最も業種が近いのが小売業の開廃業率です。

小売業は、開業率より廃業率が高い状態が続いている

期間 小売業 開業率 小売業 廃業率 非一次産業全体 廃業率
1999〜01 6.1% 7.2% 7.2%
2009〜12 2.2% 6.6% 6.3%
2012〜14 6.4% 7.7% 6.6%
2014〜16 5.5% 8.3% 7.6%
2016〜21 3.8% 6.2% 5.5%

出典:2025年版中小企業白書 付属統計資料11表(資料元:総務省・経済産業省「経済センサス」等)

読み取れることは2つです。

  • 小売業の廃業率は、2009年以降は非一次産業全体を一貫して上回っている
  • 開業率を廃業率が上回り続けている——つまり店の総数は減り続けている

直近の年平均6.2%を単純に言い換えると、小売業の事業所は毎年16件に1件のペースで消えているということになります。

【重要】これは「開業した店の何%が潰れるか」ではない

ここがネット記事の誤りの温床になっている部分です。
この開業率・廃業率は「新設(廃業)事業所数 ÷ 前回調査時点の事業所数」で算出される事業所ベースの数字であって、「開業した店を追跡して、3年後に何%残っているか」というコホート生存率とはまったく別の概念です。
両者を混同して「廃業率6.2%だから3年で18%が潰れる」といった計算をすることはできません。

また白書は、直近期間について次の注記を付けています。

令和3年経済センサス‐活動調査では、国税庁法人番号公表サイトを活用し、過去の調査では捉えていない外観からの確認では把握が困難な事業所を加えた調査名簿を基に調査を行った。このため、従来の調査よりも幅広に事業所を捉えており、単純な比較ができない

中古品を売る店の数は、どう動いたか

では、古着屋が属する「中古品小売業」の事業所数はどうなっているのか。経済センサスから取れます。

まず、そのまま比較してはいけない理由

令和3年(2021年)調査には、大きな制約があります。

利用上の注意にこうあります。
「令和3年の個人経営は、産業小分類(3桁)までしか格付けていないことから産業細分類(4桁)には含まれていない。また、年間商品販売額及び売場面積は調査していない。」
つまり2021年の細分類の数字には、個人経営の店が1軒も入っていません。平成28年(2016年)には入っています。この2つを並べて「◯%減った」と書くのは誤りです。

比較できる形に揃えた数字

対象 2016年 2021年 変化
中古品小売業
(全事業所)
5,627
法人3,405/個人2,222
3,301
法人のみ
比較不可
中古品小売業
法人のみで揃える
3,405 3,301 ▲3.1%
小分類609
他に分類されない小売業
(集計対象が揃っている)
102,095 83,475 ▲18.2%
(参考)織物・衣服・身の回り品小売業
=新品の衣料品店
140,465 112,560 ▲19.9%

出典:令和3年経済センサス‐活動調査 産業編(総括表)第1表平成28年経済センサス‐活動調査

この表から言えること・言えないこと

内容
言える 中古品小売業の法人は、5年でほぼ横ばい(▲3.1%)。大手・法人の店は減っていない
言える 古着屋を含む小分類609全体は▲18.2%。周辺業種を含めた小さな店は減っている
言える 新品の衣料品店は▲19.9%(約2万8千店減)
言えない 中古品小売業の個人経営が増えたか減ったか。2021年は統計上そもそも数えられていません
言えない 古着屋だけの増減。中古家具店・リサイクルショップと同じ箱です

なお2021年調査の基準日は2021年6月1日で、コロナ禍の最中です。減少幅にはその影響が含まれます。
また年間商品販売額は2021年が法人のみの集計のため、2016年(個人を含む)との比較ができません。この記事では販売額の増減には触れません。

「1年で4割が廃業」のような大きな数字に比べると地味ですが、確かめられるのはここまでです。

では、古着屋は儲かるのか

ここからが本題です。

個人事業の衣料品小売、年間営業利益は150万2千円

個人が営む店の実像に最も近い公的統計が、総務省の個人企業経済調査です。全国の個人企業約170万から抽出した約4万企業を対象とした調査です。

産業 1企業あたり年間売上高 年間営業利益 営業利益率
調査対象産業計 1,399万円 218万円 15.6%
卸売業,小売業 2,825万円 189万円 6.7%(全産業で最低)
 衣料品・その他の小売業 1,549万円(▲1.6%) 150万2千円(+2.7%) 9.7%
 飲食料品小売業 4,816万円 229万円 4.8%
(参考)飲食サービス業 1,127万円 122万円 10.8%

出典:総務省 2025年個人企業経済調査 結果の概要(2026年3月2日公表。売上高・営業利益は2024年1〜12月の実績

同調査は「産業別1企業当たりの年間売上高が最も多い『卸売業,小売業』は6.7%と最も低くなっている」と記しています。売上規模は大きいのに、手元に残る割合は全産業で最も低い。それが小売業の構造です。

この数字の限界を、正確に書いておきます

「衣料品・その他の小売業」は、服の店だけではありません。同調査の産業分類では、この区分に日本標準産業分類の中分類56(各種商品小売業)、57(織物・衣服・身の回り品小売業)、59(機械器具小売業)、60(その他の小売業)、61(無店舗小売業)が含まれます。家電店も雑貨店もネット通販も混ざった数字です。
また、この150万2千円は「年収」ではなく営業利益です。ここから事業主の生活費・税金・社会保険料が出ます。
なお同調査は2018年度まで実施していた旧調査と調査単位・標本規模が異なるため、2018年以前との時系列比較はできません。

利益率20%と70%が、両方出回っている理由

古着屋の利益率を調べると、記事によって20%だったり70%だったりします。どちらも間違いではありません。何を計算しているかが違うだけです。

粗利率と営業利益率は、別の数字

粗利率(売上総利益率) 営業利益率
計算 (売価 − 仕入値)÷ 売価 粗利からさらに家賃・人件費・光熱費・決済手数料・廃棄ロスを引いた残り ÷ 売価
1,500円で仕入れ5,000円で販売
→ 粗利3,500円=70%
同じ店でも、経費を引くと1桁%になることがある
ネット記事での扱い 「古着は利益率が高い」と言うときの数字 公的統計で「卸売業,小売業 6.7%」と出る数字

粗利率70%と営業利益率10%は、同じ店で同時に成立します。矛盾していません。

混乱の原因は、多くの記事が「利益率」とだけ書いて、どちらを指しているか明示していないことです。粗利率だけを見て開業判断をすると、家賃と人件費の分を丸ごと見落とします。

だから、確かめるべきは「粗利率」ではない

開業前に計算すべきなのは、粗利率ではなく「粗利の絶対額が、毎月の固定費を超えるか」です。

家賃・光熱費・通信費・その他の固定費が月20万円だとします。
粗利率が70%なら、月商が約28.6万円を超えて初めて固定費を賄えます。
そこに自分の生活費が月20万円必要なら、必要月商は約57.1万円
客単価5,000円なら、月114人、1日あたり約4人(月26日営業)。
※これは在庫の仕入れ資金を別に確保できている前提の、最低ラインの試算です。

この計算を先にやって、その来客数が自分の想定する立地で成立するかを考える。粗利率が高いことは、この計算をしなくていい理由にはなりません。

「ボロ儲け」は成立するのか

「古着屋 ボロ儲け」という検索が一定数あるので、正面から答えます。

粗利率だけ見れば、確かにそう見える

1,500円で仕入れたものが5,000円で売れる。粗利3,500円、粗利率70%。この一点だけを見れば、他の物販より条件がいいのは事実です。家電やゲーム機の転売で粗利率70%は、まず出ません。

古着の粗利率が高くなるのには理由があります。

  • 定価が存在しない。中古品なので、メーカー希望小売価格に縛られません
  • 同じ商品が比較されにくい。一点物であれば、他店と価格を並べられません
  • 仕入れ値の下限が低い。まとめ買いやベールなら、1着あたり数百円以下も成立します

それでも営業利益率が9.7%になる理由

ところが、個人事業の衣料品小売の営業利益率は9.7%でした。粗利率70%との差は、どこへ消えたのか。

粗利率70% → ここから引かれるもの
・家賃
・水道光熱費
・人件費(自分以外を雇った場合)
・決済手数料(カード・QR)
売れ残りの処分費(事業系の廃棄物として費用が発生する)
・値下げして売った分の粗利の目減り
・什器、備品、消耗品
→ 残ったものが営業利益

とくに見落とされるのが下2つです。粗利率70%は「定価で売れた1着」の数字であって、値下げして売った分と、売れずに捨てた分は含まれていません。

仮に仕入れた10着のうち、4着が定価で売れ、3着が半額、3着が売れ残ったとします。仕入れ計15,000円、売上は4×5,000+3×2,500=27,500円。粗利は12,500円で、売上に対する取り分は45.5%まで落ちます(売れ残り3着の仕入分も差し引いた場合)。ここからさらに家賃と経費が引かれます。

「ボロ儲け」が成立する条件

逆に言えば、条件が揃えば粗利率の高さは効きます。

条件 なぜ必要か
仕入れ単価が極端に低い 売れ残りが出ても損失が小さい。1着100円なら3着捨てても300円
固定費が極小 粗利の絶対額が小さくても黒字が残る
回転が速い 同じ資金を年に何回転させられるかで、年間の利益額が決まる

この3つを設計に落とし込んだのが、後述する無人古着屋の業態です。人件費をゼロにし、小さい坪数で、低単価・高回転で回す。「ボロ儲け」に近い数字が出ているとすれば、この形です。

憧れの街の路面店に、内装を入れて、スタッフを雇う——という開き方は、この3条件を全部捨てています。同じ「古着屋」でも、数字はまったく別物になります。

「古着屋オーナーの年収」は、調べても出てこなかった

検索需要が多い割に、ここは正直に書くしかありません。

公的統計に、この職業の分類が存在しない

理由は廃業率と同じです。産業分類に「古着屋」がないため、原理的に集計されません。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」は雇用されている労働者の賃金を調べるもので、事業主の所得は対象外です。職種分類にも該当項目はありません。

検索上位の「年収公開」記事は何なのか

「古着屋の年収を公開」といった記事を確認しましたが、いずれも古着屋開業支援サービスが運営するメディアで、出典のない自称の数字でした。廃業率のときと同じ構造です。

最も近い公的な数字と、その限界

古着屋オーナーの年収を示す信頼できるデータは存在しません。
最も近い公的な数字は、個人企業経済調査の「衣料品・その他の小売業」の年間営業利益150万2千円です。
ただしこれは年収そのものではなく(ここから生活費・税金・社会保険料が出ます)、分類も服の店だけではありません(家電店・雑貨店・ネット通販を含む)。

この数字を「古着屋の年収は150万円」と読むのは行き過ぎです。ただし「個人でやる衣料品小売の平均像が、この水準にある」ということは言えます。

なぜ古着屋は潰れないように見えるのか

ここまで数字を並べておいて何ですが、街を歩くと古着屋は普通にあります。何年も続いている店もあります。この矛盾をどう考えるか。

結論:潰れている。見えていないだけ

まず事実として、衣料品の店は5年で2万8千件減っています。潰れないのではなく、潰れた店が見えないだけです。

閉店した古着屋は、看板が外れて別のテナントに変わります。そこに何があったかは、通行人の記憶には残りません。いま見えている店は、生き残っている側だけです。

それでも生き残る店に共通していそうなこと

以下は統計ではなく、構造からの整理です。裏付けとなる調査データは確認できませんでした。そのつもりで読んでください。

要因 なぜ効くか
在庫が減価しにくい 新品アパレルはシーズンが過ぎれば値引きが必須。中古はすでに減価が済んだ状態で仕入れているため、売れ残っても「今季物が来季には半額」という形の劣化が起きにくい
立地の自由度が高い 目的来店型なので、路面一等地でなくても成立し得る。家賃を大きく下げられる
人件費が本人のみ オーナー1人で回せば、固定費の最大項目が消える。ただしこれは「自分の給料を後回しにできる」という意味でもある
店舗以外の売上がある オンライン販売、卸、買取。店頭だけで採算を取っていない可能性がある

逆に言えば、この4つのうち複数を欠いた状態で開業すると、数字の上では相当厳しいということになります。「憧れの街の路面店に、内装を入れて、スタッフを雇って」という開き方は、この4つを全部捨てる選択です。

開業資金はいくら必要か

公的な数字:中央値600万円(ただし全業種)

日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査(2025年8月調査、回収2,165社)によると、開業費用は次のとおりです。

項目 金額
開業費用 平均 975万円
開業費用 中央値 600万円
500万円未満の割合 41.8%(250万円未満が20.1%)
資金調達額 平均 1,219万円
 うち金融機関等からの借入 827万円(67.9%)
 うち自己資金 279万円(22.9%)

出典:日本政策金融公庫 2025年度新規開業実態調査(2025年12月5日公表)

公庫の報告書は「開業費用は少額化の傾向」「長期的にみて少額化の傾向にある」としています。

この数字を引用するときの注意です。
これは全業種の数字で、業種別のクロス集計はこの報告書にありません。「小売業の開業費用は◯万円」という数字は、この調査からは出せません。ましてや古着屋単独の数字は存在しません
・この調査は日本政策金融公庫の融資先が母集団です。自己資金だけで開業した人・融資を受けなかった人は原理的に含まれません。公庫は融資機関であり、開業を促進する立場にある点も踏まえて読む必要があります

融資制度の名前が変わっています

ここも情報が古いまま出回っている領域です。

「新創業融資制度」は現存しません。現在は「新規開業・スタートアップ支援資金(新規開業資金)」に統合されています。

項目 内容
対象 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
融資限度額 7,200万円
返済期間 設備資金20年以内/運転資金10年以内(据置5年以内)
利率 基準利率。女性・若年者・シニア起業家等に特別利率あり
自己資金要件 制度ページに明示的な記載なし

出典:日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金

「自己資金要件は10分の1」という説明は、旧制度のものです。ただし要件の記載がないことは「自己資金ゼロで借りられる」という意味ではありません。審査上の評価は別問題で、実際の開業者の自己資金は平均279万円(調達額の22.9%)です。

金利は変動するため、ここには書きません。公庫の金利ページで確認してください。

店舗の賃料・保証金には、使える公的統計がありません

これも正直に書きます。

一般財団法人日本不動産研究所が「店舗賃料トレンド」を公表していますが、対象は東京都内5エリアと地方主要都市8エリアの計13エリアで、銀座・表参道クラスの主要商業地の路面店が中心です。古着屋が実際に借りる住宅地や商店街の10〜20坪の物件の相場を示すものではありません。

小規模店舗(10〜30坪)の賃料統計:確認できず
保証金・敷金の水準に関する公的統計・業界団体統計:確認できず
不動産ポータルサイトの「相場」ページは、掲載物件のみを母集団とした募集賃料の集計であり、成約価格でも統計でもありません。抽出方法も非公開です。「保証金は10ヶ月が相場」といった記述に、検証可能な出典を付けることはできません。実際に借りる地域の物件を自分で複数見て、数字を集めるしかない領域です。

相場が出せない以上、内訳は自分で埋めるしかない

「開業資金いくら」を調べても他人の数字しか出てこないのは、上記のとおり業種別の統計が存在しないからです。使えるのは、埋めるべき項目のリストだけです。

項目 数字の集め方
保証金・敷金・礼金・仲介手数料 候補エリアの物件を複数、実際に問い合わせる。統計はないので自分で集めるしかない
内装・什器・照明 居抜きか、スケルトンかで桁が変わる。見積もりを取る
レジ・決済端末 各社の公表料金。決済手数料は売上に対して継続的にかかるので、開業費用とは別に月次で計算
古物商許可 19,000円 全国一律。ここだけは確定している数字
初期在庫 目標月商 ÷ 想定回転率から逆算。売り場が埋まる量と、売れる量は別
運転資金 売上ゼロで何ヶ月耐えるかを決めて、固定費×月数。ここを削る人が最も多い
自分の生活費 事業資金と混ぜない。混ぜると赤字に気づけなくなる

他人の「開業資金は300万円」という数字を持ってきても、家賃も坪数も違えば意味がありません。この表を埋めた合計が、あなたの開業資金です。

開業までの順序と、そこで決まってしまう数字

手順そのものより、「どの順序でやると、何が固定されるか」のほうが重要です。

許可申請には、先に物件が必要になる

意外と知られていない制約がここです。

古物商許可の申請書には営業所の名称と所在地を記載します(古物営業法第5条第1項第2号)。加えて、都道府県によっては使用権原を示す書類(賃貸借契約書の写しなど)の提出を求められる場合があります(群馬県警・広島県警などが「必要な場合があります」と案内。警視庁・神奈川県警・北海道警の必要書類一覧には記載がありません)。
いずれにせよ所在地が決まっていないと申請書が書けないため、実務上は物件が先になります。

そして標準処理期間は40日

物件契約 → 許可申請 → 40日待つ → 開店
この間、売上ゼロで家賃が発生し続けます。内装工事や仕入れと並行できるとはいえ、家賃1ヶ月半分は最初から確定した支出だと考えておくべきです。
※必要書類と処理期間は都道府県ごとに異なります。物件を探し始める前に、所轄の警察署(生活安全課)で必要書類を確認してください。

順序で固定されるもの

段階 ここで決まってしまうもの
① 何を、いくらで売る店にするか 客単価。これが必要来客数を決め、必要な立地を決める
② 物件を決める 固定費の大半。契約後は変えられない。損益分岐点がここで確定する
③ 古物商許可を申請する 開店可能日。40日は動かせない
④ 内装・什器 ここに使った分だけ、在庫と運転資金が減る
⑤ 仕入れる 売り場が埋まるかどうか。足りなければ追加資金が要る
⑥ 開店 ここから、①で決めた客単価と②で決めた固定費の勝負が始まる

①と②を決めた時点で、その店が成立するかどうかはほぼ決まっています。④以降でいくら頑張っても、②で固定費を高く設定してしまえば挽回は難しい。

先に挙げた「固定費を賄う月商」の計算を、②の物件を契約する前にやるべきなのはこのためです。

資金が尽きる順序は、だいたい決まっている

失敗の原因を並べる記事は多いのですが、実際に起きるのは順番に資金が減っていって、どこかで止まるという単純なことです。

時期 何が起きるか
契約〜開店前 保証金・内装・初期在庫で、手元資金が一気に減る。許可待ちの家賃も出ていく。ここで運転資金を食い潰すと、以降が苦しくなる
開店直後 知人や告知を見た人の来店で、売上が立つ。この数字を平常値だと誤解しやすい
数ヶ月後 来店が落ち着き、実際の集客力が見える。ここで初めて「①で決めた客単価×来客数」が固定費を超えるかが分かる
その後 超えていなければ、毎月その差額だけ資金が減る。減り方は一定なので、いつ尽きるかは計算できる

重要なのは、最後の行が計算可能だということです。
月の赤字額が分かれば、残り資金÷赤字額で、あと何ヶ月もつかが出ます。その月数のうちに黒字化の目処が立たないなら、判断はそこでするしかありません。
在庫を抱えたまま続けるほど、撤退時に残るのは「売れなかった服」だけになります。

この構造は、店を持たない個人の転売でも同じです。資金が在庫に変わり、在庫が売れないと止まる。詳しくはアパレルせどりの記事で扱っています。

仕入れ側の数字は、はっきり悪化しています

開業を判断するうえで、これは見落とせない変化です。

古着の輸入単価は、4年で1.8倍

輸入量 キロ単価 輸入額
2020年 725円
2023年 9,542トン(▲8.8%) 1,262円 過去最高
2024年 9,739トン(+2.1%) 1,320円(+4.6%) 過去最高を更新
2025年 9,134.7トン(▲6.2% 上昇継続 131.7億円(+2.5%)

品目は「中古の衣類その他の物品」(HS第6309項)。数値の出所は財務省貿易統計で、上表はリユース経済新聞による集計・報道値です(2025年分2024年分)。

読み取れること:
キロ単価は2020年725円→2024年1,320円と、4年で約1.8倍
輸入量は2022年をピークに減少傾向
輸入額は5年連続で増加——量は減っているのに額が増える=単価上昇
円安、世界的インフレ、世界的な古着ブームによる調達競争が要因とされています。

「海外から仕入れれば安い」という前提は、公的統計の上では崩れつつあります。数年前の体験談をそのまま参考にすると、原価の見積もりを間違えます。

実際の買い付けで原価がどう積み上がるかは、マレーシア買い付けの記事で日本到着原価まで計算しています。渡航費と輸送費を1着あたりに配賦すると、現地価格がいくら安くても成立しないことがある、という話です。パリ買い付けも同様の構造です。

国内の卸から仕入れる場合の選択肢は、古着卸業者の探し方にまとめています。

市場は伸びている。ただし、それとあなたの店は別の話

開業を勧める記事は、必ず市場の拡大を根拠にします。数字自体は事実なので、正確に見ておきます。

リユース市場の衣料・服飾品は6,392億円

指標 数字
リユース市場全体(2024年) 3兆2,628億円(前年比+4.5%)
うち衣料・服飾品 6,392億円
うちブランド品 4,230億円
(参考)新品アパレル総小売市場(2024年) 8兆5,010億円 ※二次流通を含まない

出典:リユース経済新聞矢野経済研究所

この数字は政府統計ではありません。リユース経済新聞(業界専門紙)の独自推計です。環境省の報告書にも転載されていますが、環境省が独自に算出したものではなく、業界紙のデータを整理して載せているものです。
同社は『リユース市場データブック』を有料販売しており、市場を大きく見せるインセンティブが全くないとは言い切れません。また矢野経済研究所も有料レポートの販売元です。
さらに6,392億円のうち実店舗の古着屋が占める額は確認できません。フリマアプリもリサイクルショップも買取店も入った数字です。

「捨てられる服」の量は、市場規模より示唆的かもしれない

環境省の「衣類のマテリアルフロー」(2024年版)に、数量ベースの流れがあります。

項目 数量
衣類の国内新規供給量 82.2万トン
未利用のまま処理される量 55.8万トン(新規供給の約7割)
家庭からのCtoCリユース(フリマ等) 7万トン
家庭からのBtoCリユース(古着屋等への売却) 8万トン
家庭からの可燃・不燃ごみ排出 47.9万トン

出典:環境省 令和6年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務

※同報告書は「2024年版では推計方法の見直しを実施しており、2020年・2022年版の値と経年比較ができない」と注記しています。「前年より増えた/減った」という比較はできません。

家庭から古着屋等へ流れる量が8万トン、対してごみとして捨てられる量が47.9万トン。供給側の余地は大きいと読むこともできますし、それだけ多くが「売り物にならない」と判断されていると読むこともできます。

市場が伸びても、店の数は減っている

そして重要なのは、ここまでに見た2つの事実が同時に成立していることです。

リユース市場は伸びている。
それでも衣料品の店は5年で2割減っている。

矛盾ではありません。市場の伸びを取っているのが、個人店ではないというだけです。フリマアプリ、大手チェーン、買取専門店。市場規模の数字は、それらを全部足したものです。

「市場が伸びているから儲かる」という論法は、ここを飛ばしています。

開業に必要な許可と、罰則の現在形

実務の話も、現行法で確認しておきます。ここは古い情報のまま更新されていない解説が非常に多い領域です。

古物商許可(衣類)

項目 内容
根拠 古物営業法第3条(都道府県公安委員会の許可)
区分 衣類(和服類、洋服類、その他の衣料品)
申請手数料 19,000円(政令が定める標準額。全都道府県で同額)
標準処理期間 40日(※都道府県ごとに定められるため、開業予定地の県警サイトで確認を)

出典:e-Gov 古物営業法群馬県警察

罰則は「懲役」ではなく「拘禁刑」です

2025年6月1日施行の改正により、懲役と禁錮が廃止され「拘禁刑」に一本化されました(刑法等の一部を改正する法律/令和四年法律第六十七号)。古物営業法・商標法の条文表記を「懲役」から「拘禁刑」に改めたのは、その施行に伴う整理法(令和四年法律第六十八号)です。

・無許可営業(古物営業法第31条)=3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
・商標権侵害(商標法第78条)=10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、または併科
・法人の場合、商標法第82条の両罰規定により最高3億円以下の罰金
「3年以下の懲役」「10年以下の懲役」と書いている解説記事は、改正前の情報です。刑の重さ自体は変わっておらず、変わったのは刑務作業が義務でなくなった点なので、「厳罰化された」と書くのも不正確です。

偽ブランド品は「知らなかった」で済まない場合がある

商標法第37条は一定の行為を「侵害とみなす」と規定しており、譲渡目的での所持なども対象になり得ます(第78条の2=5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、または併科)。

古着は真贋判定が難しい商材です。仕入れ時点で判定できないものを、判定できないまま店頭に並べるリスクは、開業前に理解しておく必要があります。

海外から仕入れる場合の追加規制

  • 家畜伝染病予防法——獣毛、原皮、革製品、わら製品等が規制対象。動物検疫所の検査証明書が必要になる場合があります(税関
  • ワシントン条約——ヴィンテージの毛皮、ヘビ革・ワニ革のバッグやベルト等が該当し得ます(税関
  • 知的財産権侵害物品——輸入が禁止され、没収・廃棄処分の対象。罰金や拘禁刑の対象となる可能性があります(JETRO

※中古衣類(HS6309)の具体的な関税率は、税関の実行関税率表で原典を確認してください。本記事では数値を記載しません。

家庭用品品質表示法については、断定を避けます

「古着は家庭用品品質表示法の対象外」という記述をよく見かけますが、これを肯定も否定もできませんでした。
同法の現行条文を確認したところ、中古品を適用除外とする明示的な規定は存在しません。一方、「中古品は対象か」に直接答える消費者庁の公式見解も見つけられませんでした。
条文に除外規定がない以上、「対象外」と断言するのはリスクがあります。実務で判断が必要な場合は消費者庁表示対策課に直接照会してください。

初期投資を下げる選択肢について

「無人古着屋」という業態が報道されています。数字が出ている事例を挙げておきます。

店舗 規模・開業 報じられた数字
ムジンノフクヤ
(東京・中野区野方)
約8坪/2020年8月 開店1ヶ月目から黒字。月間来店300〜400人、客単価約2,000円台。券売機でチケットを買う方式
フセスリフト!!バイ・チャッピー
(東大阪・布施商店街)
約20坪/2022年5月・24時間営業 月商約200万円(計画120万円から上振れ)。監視カメラ8台
セルフルギ
(東京ほか)
2021年12月〜 月商平均50万〜80万円、利益率45〜50%

出典:Fashionsnap(2021年11月5日)繊研新聞(2022年11月23日)

これらの数字の読み方に、3つ注意があります。

1. すべて運営者本人が取材に対して申告した数字で、第三者の監査・検証はされていません。「利益率45〜50%」も、粗利率か営業利益率か記事から判別できません
2. 数字はいずれも取材時点のものです(ムジンノフクヤは2021年11月、他2店は2022年11月)。同記事で語られている出店計画(「将来20店以上」「2023年中に10店」)が達成されたかは確認していません。計画値を実績として読まないでください
3. ロス率(万引き率)のデータが、どの取材記事にも出てきません。無人業態の最大のリスク要因であるにもかかわらず、数字が公表されていません

また、この業態を紹介する記事の多くは、無人決済システムのベンダー、古着卸業者、FC本部、開業支援サービスが運営するメディアです。無人店舗を増やしたい直接の営業インセンティブがあります。

開業前に確かめる7項目

ここまでの数字を、判断材料の形に落とします。

  1. 固定費を賄う月商を計算したか。粗利率ではなく、粗利の絶対額と固定費の比較で
  2. その月商に必要な来客数が、その立地で成立するか。客単価で割って1日あたりの人数を出す
  3. 仕入れ資金を、固定費とは別に確保しているか。開業費用と運転資金は別勘定
  4. 自分の生活費を、何ヶ月分持っているか。売上ゼロでも生きられる期間
  5. 仕入れ単価の上昇(4年で1.8倍)を織り込んだか。数年前の体験談は使えない
  6. 売れ残りをどう処分するか決めているか。処分コストは原価に乗る
  7. 店頭以外の売上をつくる算段があるか。オンライン、卸、買取

4と5と6は、開業を勧める記事ではほとんど扱われません。だいたい、そこで詰まります。

オンライン側をどう立ち上げるかはオンライン古着屋の記事に分けています。実店舗を持たずに個人で売る場合の採算はアパレルせどりが儲からない理由古着転売の記事のほうが実態に近いです。

まとめ

  1. 「1年で4割、3年で6割」の出所は2006年版中小企業白書でした。ただしそれは製造業の、従業者4人以上の、1984〜2002年開業の事業所のデータで、小売業ですらありません。白書自身が「創業者の生存率は製造業しか分析できないのが実情」と書いています
  2. しかも図に載っているのは前年比の生存率のみ。「3年で6割」「5年後25.6%」は掛け算で作られた値で、白書本文に累積生存率は一度も登場しません
  3. より新しい2023年版白書は創業後5年生存率80.7%としていますが、こちらも白書自身が「実際の生存率よりも高めに算出されている可能性」を明記。小規模個人事業の生存率を捉えた公的統計は存在しません
  4. 業種として最も近いのは小売業の年平均廃業率6.2%(2016〜21年)。開業率3.8%を上回り続けています
  5. 統計上、古着屋は「中古品小売業(骨とう品を除く)」に分類されます。衣料品店ではなく、リサイクルショップや中古家具店と同じ箱です
  6. その事業所数は、2021年調査で個人経営が細分類から外れたため単純比較ができません。法人のみで揃えると▲3.1%、周辺を含む小分類609では▲18.2%です
  7. 個人事業の衣料品小売の年間営業利益は150万2千円、営業利益率9.7%。「卸売業,小売業」の営業利益率6.7%は全産業で最低です
  8. 利益率20%と70%は矛盾しません。粗利率と営業利益率という別の数字です
  9. 「古着屋オーナーの年収」に信頼できるデータは存在しません
  10. 開業費用は中央値600万円・自己資金平均279万円。ただし全業種の数字で、業種別の内訳は公表されていません
  11. 古着の輸入単価は4年で約1.8倍(キロ725円→1,320円)。輸入量は2022年がピークです
  12. 罰則は2025年6月1日以降「拘禁刑」表記。無許可営業3年以下、商標権侵害10年以下です

数字を並べて分かるのは、古着屋が特別に危険な商売だということではありません。小売業が全産業で最も利益率が低く、店の数が減り続けている——その中の一つだ、ということです。

そのうえで、それでもやると決めるなら、出所の分からない「9割が失敗する」ではなく、確かめられる数字を根拠にしたほうがいいと思います。少なくとも、自分の計画のどこが弱いかは、そのほうが正確に分かります。

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※本記事の数値・日付は、記載の出典に基づき2026年8月時点で確認したものです。法令はe-Gov法令検索で現行条文を確認しています。統計・制度・相場は変動しますので、実際の判断にあたっては必ず最新の一次情報をご確認ください。
※法律・税務に関する記述は条文および公表資料に基づく整理であり、個別事案についての助言ではありません。判断に迷う場合は所轄の警察本部、税関、税務署または専門家にご相談ください。

 

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