田舎で儲かるビジネスの境界線|業種ではなく「売上が商圏の外にあるか」で決まる

起業

「田舎で儲かるビジネス12選」を探してここに来たなら、先に言っておく。この記事に12選はない。あるのは判定基準が1つだけで、それは業種ではない。

その事業の売上は、商圏の中から来るのか、外から来るのか。

田舎で儲かるかどうかは、これでほぼ決まる。飲食店か、コインランドリーか、ITかという業種の話は、この判定の後にしか意味を持たない。

先に自分の立場を書いておく。私は田舎に住んだことがない(中学の3年間、木更津の寮にいたのが一番近い)。ただし、田舎に拠点を置いて会社を回したことはある。だから「田舎でカフェを開いて成功した人の話」は書けないし、書かない。代わりに持っているのは次の4つの実測だ。

  • 店舗せどりをやっていた時期に、北海道と四国以外はほぼ全国を車で回り、田舎の店を自分の目で見てきたこと。「田舎で仕入れて全国で売る」は、私にとっては田舎起業の原型そのものだった。
  • 都内で修理・買取の実店舗をやり、人件費と家賃で逆ザヤになって売上の天井に当たったこと。
  • 20年近く自宅で一人で働き、場所に縛られていないと気づいたあとで、田舎ではなく名古屋を選んだこと。
  • 2009〜2011年、長野県佐久市の飲食店の居抜きを借り、古本せどりの買取受付・倉庫・発送拠点として回したこと。

この4つを、国立社会保障・人口問題研究所の人口推計と、移住支援金・起業支援金・地域おこし協力隊という公的な制度の中身に重ねると、「田舎で儲かる/儲からない」の境界線が業種ではないところに引けることが分かる。読み終わったときに、自分のアイデアがどちら側にあるかを自分で判定できる状態にするのが、この記事のゴールだ。

上位に並ぶ「田舎で儲かるビジネス○選」は誰が書いているか

「田舎で儲かるビジネス」で検索すると、会計ソフト会社、決済端末の会社、コインランドリー機器のメーカー、フランチャイズの代理店募集サイトが並ぶ。それぞれの記事の「儲かるビジネス」を見ると、会計ソフトの会社は法人設立を勧め、決済端末の会社は店舗業を勧め、コインランドリー機器の会社はコインランドリーを勧め、代理店募集サイトは代理店を勧めている。

これは批判ではなく構造の話だ。記事を書いているのは「田舎で起業した人」ではなく「田舎で起業する人に何かを売りたい会社」であり、記事の結論は書き手の商品と一致する。天然石の仕入れでも、ハンドメイドでも、この構造は同じで、上位に業者の記事しかないキーワードでは、売る商品を持たない側から見た境界線が抜け落ちる。

この記事は、田舎に何かを売りたい立場ではない。私の商売は情報発信とコンサルで、読者が田舎に行こうが都市に残ろうが売上は変わらない。だから業種ではなく判定基準の話ができる。

判定基準:売上が商圏の中から来るか、外から来るか

商圏というのは、その店や事業にお金を払う人が住んでいる範囲のことだ。飲食店なら半径数km、塾なら通える範囲、コインランドリーなら車で来られる範囲。ここに住んでいる人の数と所得が、その事業の売上の上限を決める。

田舎のビジネスを、売上の出口で2つに分けてみる。

商圏内型 商圏外型
売上の出どころ その土地の住民 全国・海外の顧客
典型例 飲食店、学習塾、便利屋、コインランドリー、地域密着の小売、訪問サービス ネット販売(せどり・修理転売・ハンドメイド)、EC、情報発信、受託開発、コンサル、遠隔の仕事
中間 宿泊・観光・体験(客は商圏の外から来るが、来てもらう導線と立地に縛られる)/地場産品の加工販売(作る場所は田舎、売る場所は全国)
売上の上限を決めるもの 商圏の人口と所得 自分の作業時間か、仕入れ・供給量
田舎の安い家賃が効く場面 費用は下がるが、売上の上限も一緒に下がる 費用だけが下がる
人口減少の影響 市場が毎年縮む ほぼ受けない

上位記事が挙げる「田舎の開業費は都会の数分の一」は事実だと思う。ただしそれは開業時の一時費用の話で、毎月の損益の話ではない。商圏内型の事業は、家賃が下がる代わりに売上の天井も下がる。天井が下がった状態で人口が減り続けるなら、経営努力は「縮む市場の中でシェアを取る」ことに全部使われる。

商圏の人口は、これからどう動くか(公的推計)

国立社会保障・人口問題研究所が2023年12月に公表した「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」では、2020年から2050年にかけて、総人口が約1億2,600万人から約1億470万人へ減ると見込まれている。都道府県別では、2050年時点で2020年の人口を上回るのは東京都だけ(指数102.5)で、秋田県は58.4、青森県は61.0、岩手県は64.7まで下がる推計になっている。65歳以上の割合が40%を超える都道府県は2050年時点で25の道府県とされている。

出典:日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)結果の概要(国立社会保障・人口問題研究所)

この推計は市区町村別にも出ている。自分が起業を考えている市町村を、市区町村別の推計ページで引くと、2050年までの5年刻みの人口が出る。商圏内型を考えているなら、事業計画の前にこの表を1回見ておくべきで、「2020年比で7割を切る」市町村で商圏内型を選ぶなら、その3割減を織り込んだ計画が要る。

商圏外型なら、この表はほぼ関係ない。それが2つの型の決定的な差だ。

上位記事の「田舎で儲かるビジネス」を、この基準で仕分けする

上位記事に繰り返し出てくる業種を、売上の出口だけで仕分けしたのが下の表だ。私が実際にやったのは、せどり・修理転売・情報発信・コンサルの4つで、それ以外は仕分けの判断だけをしている(やった経験はない)。

よく挙がる業種 売上の上限を決めるもの
コインランドリー 商圏内 車で来られる範囲の世帯数。機器メーカーの記事で必ず勧められる業種でもある
飲食店・カフェ 商圏内 商圏の人口と、観光客をどれだけ取り込めるか。観光地なら中間に寄る
学習塾 商圏内 通える範囲の子どもの数。人口推計で最も先に減る層
便利屋・訪問サービス 商圏内 移動できる範囲の世帯数。高齢化で需要は増えるが単価は上がりにくい
キッチンカー 商圏内(動かせる) 出店先の人出。商圏を毎日選べるのが固定店舗との差
民泊・ゲストハウス 中間 客は外から来るが、集客導線(OTA)と立地に縛られる
空き家活用 中間 賃貸なら商圏内、民泊や作業場なら商圏外に寄る
農産物・加工品のEC 商圏外 作るのは田舎、売るのは全国。作業時間か生産量が上限
ハンドメイドのEC 商圏外 自分の作業時間。minne等で始めて自分の店に移すのが定石
せどり・修理転売 商圏外 仕入れの供給量(ネットから取れば場所を問わない)
Web制作・受託・コンサル 商圏外 自分の作業時間。地元企業だけを客にすると商圏内型に戻る
情報発信・コンテンツ 商圏外 読者は全国。住所は売上に無関係

「田舎で儲かる」と紹介される業種の半分近くが商圏内型で、しかもそれを紹介しているのが機器や端末を売る側だという構造は、表にすると見えやすい。逆に商圏外型の業種は、田舎でなくても成立するので「田舎で儲かる」という枠で紹介されにくい。だから検索結果は商圏内型に偏る。

実測①:全国を車で回って見た「田舎で仕入れて全国で売る」の現在地

店舗せどりをメインにしていた時期、私は北海道と四国以外はほぼ全国を車で回った。目的は観光ではなく仕入れで、田舎の中古店や量販店で商品を買い、Amazonで全国に売る。これは売上の出口が商圏の外にある事業なので、上の表で言えば商圏外型の、いちばん分かりやすい形だ。

当時、田舎の店には歪みがあった。ここで言う歪みとは、店頭の値付けと全国の相場がずれている状態のことで、店舗せどりが成立していたのは、この歪みが都市部より地方に多く残っていたからだ。

ただし、これは過去形で書いている。現在は逆転していて、ネットで仕入れる電脳せどりのほうが効率が良い。私の実績値では、利益率の下限が店舗せどりで新品5%から・中古10%からなのに対し、電脳せどりでは新品10%から・中古20%からになる。仕入れる場所が違うだけで難易度は変わらないが、歪みの大きさは店舗側からネット側へ移った。

これが田舎起業にとって何を意味するか。「田舎には安く仕入れられる店がある」という2010年代の常識を根拠に移住すると、その根拠がすでに薄くなっている。田舎で仕入れて全国で売るモデルは今も成立するが、成立させているのは田舎の店の安さではなく、別の要素だ。

今も田舎に残っている優位性は「商圏でライバルの母数が減る」こと

店舗の仕入れで今も残っている優位性は、値付けの歪みではなく競合の少なさだ。ネット仕入れは全国のライバルと同じ画面を見るが、店舗には商圏があり、その店に来られるライバルは物理的に限られる。田舎に行くほど、この母数は減る。

さらに、私は修理を前提に仕入れる。修理前提だと見る棚が違うので、横流し(買ってそのまま売る)のライバルとは競合しない。重くてかさばるものほどライバルが少なくて儲かる、というのが私の実感で、プリンターの修理などがその典型だ。田舎の店で、修理前提で、重いものを見る(仕入れをネットに寄せる設計は電脳せどりに分けた)。この3つが重なる場所では、ライバルの母数がかなり小さくなる。

ただし、修理には技術習得が要るし、田舎に住むと仕入れの供給量そのものが減る。中古品の供給は人口に比例する(人が多い場所にモノが集まる)ので、田舎在住で店舗仕入れだけに頼ると、ライバルは少ないが商品も少ないという状態になる。この点は次の実測とつながる。

実測②:都内で実店舗をやって逆ザヤになった話

私は東京で修理・買取の実店舗をやっていた。20年の間にブランド品のリペア転売、スマホのバッテリー交換、レトロゲーム機の修理という3つの業態を回してきたが、実店舗は売上の天井に当たった。

私の場合、天井の原因は商圏ではなく作業時間だった。ブランド品のリペアは1個あたりの作業が120分程度かかり、週に50〜150個扱うと作業時間が週100〜300時間になって、一人では物理的に回らない。そこで人を雇って解決しようとしたが、人件費と家賃で逆ザヤになり、スケールできなかった(数字はハイブランド仕入れルートに書いた)。撮影して出品する反復作業が自分と合わなかったことも大きい。

この経験を田舎起業に当てはめると、2つのことが言える。

1つ目。田舎の安い家賃で救われるのは、固定費の中で家賃がボトルネックになっている事業だけだ。私の場合、ボトルネックは家賃ではなく作業時間と人件費だったので、家賃が半分になっても逆ザヤは解消しなかった。上位記事の「田舎は家賃が安いから有利」は、自分の事業の最大の固定費が家賃である場合にしか効かない。

2つ目。私が回していた3業態は、どれも売り先が全国(Amazon・ヤフオク・メルカリ)で、商圏外型だった。都内でやっていたのは、仕入れの供給量が都内に多かったからで、売上の出口は最初から商圏の外にあった。逆に言えば、仕入れの供給をネットから取れるなら、作業場所は田舎でも成立する。

3業態の実測値から見る「田舎向き」の条件

3業態の数字を並べる。いずれも私の実績値で、前提は「仕入れ値と売値は当時の中央値、作業時間は私の熟練度、着金日数は販路の入金サイクル」だ。

業態 仕入れ→売値 作業時間/個 純利益/個 時間単価 ボトルネック
ブランド品リペア 1〜3万円→2〜5万円 約120分 約10,650円(率30.4%) 約5,325円 作業時間(組織化を強制される)
スマホ バッテリー交換 約8,000円+部品1,500〜2,000円 約40分 約9,880円(率43.9%) 約14,820円 仕入れの供給量
レトロゲーム機(PS2・スーファミ中心) 約1,000円→約5,000円 約20分 約2,650円(率53.0%) 約7,950円 仕入れの供給量

田舎向きなのはどれか。ブランド品は作業時間がボトルネックで人を雇う方向に行くので、人件費の相場が低い田舎で一見有利に見えるが、私の経験では人を雇った瞬間に逆ザヤになった業態なので勧めない。スマホとゲーム機は仕入れの供給量がボトルネックで、供給をネット(ヤフオク・メルカリのジャンク品)から取れば、作業は自宅で完結し、売り先は全国になる。必要な運転資金も、ゲーム機は中央値で1.5万円程度と小さい(ブランド品は514万円程度で、この差は343倍になる)。

つまり「田舎で儲かる修理業」の条件は、仕入れをネットから取り、作業を自宅でやり、全国に売るの3点で、田舎の商圏は一切使わない。田舎が提供するのは安い作業場所だけで、それで十分だ。

実測③:佐久市の飲食店居抜きを、買取受付・倉庫・発送拠点にした(2009〜2011年)

ここは前の版に書いていなかった実測だ。私は田舎に住んだことはないが、田舎に拠点を置いて会社を回したことはある。

大学を卒業したあと、古本せどりでやっていくと決め、弟子入りした師匠と会社を作った。拠点に選んだのは長野県佐久市で、飲食店の居抜き物件を借り、そこを買取の受付窓口と、在庫の倉庫と、発送の拠点にした。家賃は覚えていないが、佐久市がいまのように発展する前の時期で、東京の感覚からするとかなり安かったと記憶している。

私自身は月島に住んでいて、師匠から10万円で売ってもらった初代プリウスで、月島と佐久市を週1回往復していた。車の運転ができるようになったのは、この往復のおかげだ。

この拠点を上の判定基準に当てると、売上の出口は全国(古本をネットで売る)で、田舎に置いたのは在庫と作業と受付だけだった。つまり商圏外型で、田舎が提供したのは安い家賃と、飲食店の居抜きという広さだ。買取の受付は地元の人が持ち込む商圏内の要素だが、それは仕入れの補助であって、売上の出口ではない。

田舎のエッジは、物件の安さと人件費の安さの2つに尽きる。だから田舎に向いているのは、東京でやると家賃と人件費で赤字になるが、地方の固定費なら赤字にならないモデルだ。実測②で逆ザヤになったブランド品のリペア転売は、まさにこの型だった。

同じモデルを名古屋の固定費で組み直す:東京だと赤字、地方だと黒字

実測②のブランド転売は、東京では人件費と家賃で逆ザヤになった。仕入先は東京の古物市場で、作業場所は自宅、人を雇うと月45〜50万円の人件費、倉庫や事務所を借りると月30〜50万円以上。この固定費を売上が吸収できなかった。

同じモデルを、名古屋に住んで組み直すとこうなる。週1〜2回、新幹線で東京の古物市場に通う。落札した商品は市場から名古屋へ発送してもらう(大抵のオフラインの古物市場は発送に対応している)。作業場所は、名古屋で月10万円前後の、立地の悪い戸建てか、古いが広い倉庫かオフィスを借りる。これで東京では逆ザヤだった同じ作業量が、プラスに転じてスケールに進める、というのが私の見立てだ。これは実測ではなく、東京の実測値を地方の固定費に置き換えた計算なので、そう書いておく。

この見立てには裏付けがある。2017年頃、名古屋でせどりから始めて法人化し、規模を拡大していた人に仕入れを習ったことがある。私より若く、規模拡大がうまくいっていて、強い劣等感を感じた。ただ、その人が名古屋だったことは偶然ではないと思っている。名古屋は人件費が安く、人材の奪い合いが起きていなかった。当時なら時給1,500円は高待遇で、派遣社員の単価より良く、優秀な人を引き抜けた可能性がある。東京で同じ時給を出しても、感謝されないどころか「貰って当然」の態度を取られたのが私の実測だ(ブランド仕入れルート)。

数字を入れて確かめられるようにしておく。初期値は私の実測(東京の人件費は時給2,000円、倉庫を借りると月30万円以上)と、名古屋の見立て(月10万円前後、時給1,500円)だ。粗利と雇用時間と往復の運賃は自分の数字に置き換えてほしい。

東京と地方で同じモデルを回したときの手残り計算機

月の粗利(人件費・家賃を引く前、円)

東京の作業場所の家賃(円/月)

地方の作業場所の家賃(円/月)

東京の時給(円)

地方の時給(円)

月の雇用時間(時間・全員の合計)

地方から仕入先への往復回数(回/月)

往復1回の交通費(円・自分で調べた運賃)

差が出るのは家賃と人件費の2項目だけで、そこから往復の交通費を引いたものが地方の優位だ。交通費を入れずに計算すると地方が必ず勝つので、必ず入れてほしい。粗利が小さいうちは、交通費が固定費の差を食いつぶすことがある。

つまり実測②の「人を雇った瞬間に逆ザヤになった」は、東京の固定費での話だった。同じモデルでも、拠点を地方に置くと結論が変わり得る。田舎で儲かるビジネスの正体は、業種ではなく「東京だと赤字になるモデルを、地方の固定費で回すこと」だと、佐久市と名古屋の2つを重ねて言い直しておく。

実測④:20年場所に縛られず働いて、田舎ではなく名古屋を選んだ理由

ここからは、田舎で起業しようとしている人にとって一番耳の痛い話になる。

私は20年近く自宅で一人で働いてきた。正社員としてサラリーマンをしたことがなく、最初から自宅で、自宅以外で仕事をした経験はほとんどない。家の外に出るのは、買い物、ジム、市役所や銀行の用事、東京での通院くらいで、人と会うことはほとんどない。つまり私の仕事は、日本のどこに住んでも成立する。商圏外型の極端な例だ。

それに気づくのに20年近くかかった。気づいたあと、私は「日本全土の中で自分の生産性が最も上がる場所」を選び直すことにした。候補に田舎は入らなかった。選んだのは名古屋市港区で、2020年代に開発された計画都市の分譲賃貸だ。

3つの住居の差引

私は「住む場所の判断は満足度ではなく差引で決める」という基準を持っている。実際に住んだ、あるいは決めた3つの住居を並べる。

東戸塚(横浜市) 海浜幕張(千葉市) 名古屋市港区(候補)
物件 民間の収益物件、築36年、3LDK・83㎡ 住宅供給公社、築28年、2LDK・70㎡ 分譲賃貸、2020年2月築、3LDK・70.43㎡、駅徒歩5分
月額(家賃+管理費+駐車場) 13万+0.6万+1.4万=約15万円 11.8万+0.6万+1.1万=約13.5万円 16万+1万+1.2万=約18.2万円
結果 得るものがなく1年で退去(違約金を払った) エリア最安で不満があっても出ない 生産性と幸福が最大化されると判断

海浜幕張は月13.5万円でエリア最安、名古屋は月18.2万円で4.7万円高い。それでも名古屋を選ぶのは、差引で見て築6年の分譲賃貸が持つ「文明のレベル」が上回るからだ。建物は劣化するだけでなく、周りが進化することで相対的に後退する。私はこれを「文明の後退」と呼んでいて、一度、文明レベルの高い部屋に住むともう戻れない。田舎の安い家賃の多くは、築年数の古さと引き換えに出てくる数字で、安さの正体は「後退した文明を受け入れる対価」であることが多い。

複数回引っ越して分かったことがある。「田舎は観光で行けばいい」とよく言われるが、逆も同じで、東京もまた観光で行けばいい。仕事が場所に縛られていないなら、選ぶ基準はコストの最小化ではなく生産性の最大化になる。三大都市の名古屋レベルなら不便を感じるシーンは少ない、というのが私の分析の現時点の到達点で、田舎は月額では勝つが、私の生活で家の外に出る用事は上の4つ(買い物・ジム・役所・通院)に集約されていて、そのどれもが遠くなる場所を、差引で選ぶことはできなかった。

読者への転用:商圏外型なら、住む場所は別の基準で選べる

この話が田舎起業と何の関係があるか。事業が商圏外型なら、住む場所は事業の制約から外れるということだ。田舎に住まなければならない理由がなくなるので、「田舎で起業する」ではなく「どこに住むかは別問題として、商圏外型の事業を作る」という順序になる。

その上で田舎を選ぶなら、理由はコストになる。それは正しい判断でもあり得るが、家賃の安さは築年数と文明の後退を伴うことが多く、自分の生産性がどれだけ落ちるかを差引で見る必要がある。私の場合は差引が合わなかったので名古屋を選んだ(都市ごとの住居指数と出社頻度の表は別記事にある)。あなたの場合は合うかもしれない。ただ、どちらにしても「田舎だから儲かる」わけではなく、「商圏外型だからどこでも儲かり、そのうえで田舎を選ぶ」というのが正しい順序になる。

補助金は「商圏内型」を誘導するように設計されている

田舎起業を調べると、必ず移住支援金・起業支援金・地域おこし協力隊に行き当たる。制度の中身を公的資料で確認すると、これらが商圏内型の事業を誘導する設計になっていることが分かる。

移住支援金(内閣官房・内閣府 地方創生)

世帯で最大100万円、単身で最大60万円、18歳未満の帯同者1人につき最大100万円が加算される(金額は都道府県ごとに決まる)。要件は、直近10年のうち通算5年以上、直近1年は連続して東京23区に在住または通勤していたこと。移住先は東京圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)の外、または東京圏内の条件不利地域で、就業・テレワーク継続・関係人口要件・起業支援金の受給のいずれかを満たす必要がある。移住後1年以内に申請し、5年以上住む意思が要り、5年以内に転出すると返還義務が生じる。

出典:移住支援金(地方創生・内閣官房)

起業支援金

最大200万円で、起業等に必要な経費の2分の1が交付される。対象は「地域の課題解決に資する社会的事業」で、例示されているのは子育て支援、地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援、まちづくり推進など。対象地域は東京圏を除く地域(または東京圏内の条件不利地域)で、東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府では実施されていない。

出典:起業支援金(地方創生・内閣官房)

この例示を上の表に当てると、子育て支援も、地域産品の飲食店も、買い物弱者支援も、まちづくりも、すべて商圏内型だ。制度の目的が「地域の課題解決」である以上、当然そうなる。ネットで全国に売る修理転売や、遠隔のコンサルは「地域の課題解決」ではないので、この枠には基本的に入らない。

ここが分岐点になる。補助金を軸に業種を決めると、縮む市場に固定される。最大200万円は大きいが、それは商圏内型に入るための入場料で、入った先の市場は上の人口推計どおりに縮む。補助金で開業費を圧縮できても、毎月の損益は商圏の人口が決める。

地域おこし協力隊(総務省)

都市部から過疎地域等に住民票を移し、1〜3年の任期で地域活動に従事する制度で、報償費や活動経費、任期終了後の起業・事業承継の支援がある。総務省の定住状況調査(2025年公表、直近5年間に任期を終えた8,762人が対象)では、任期終了後に活動地と同じ市町村または近隣市町村に定住した人が70.3%、そのうち同一市町村内に定住した5,038人の内訳は、起業が2,296人(45.6%)、就業が1,753人(34.8%)、就農・就林が583人(11.6%)だった。

出典:地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果(総務省 地域力創造グループ)地域おこし協力隊 制度概要(総務省)

この数字の読み方は2通りある。「7割が定住し、その半分近くが起業している」と読めば成功の制度に見える。私はこう読む。協力隊は、給料をもらいながら1〜3年その土地の商圏を実地で見られる、報酬付きの下見として使える。商圏内型で起業するつもりなら、人口推計の表だけで決めるより、3年住んでから決めたほうが精度が高い。起業した2,296人の事業がその後どうなったかは、この調査からは分からないので、そこは書かない。

自分のアイデアを判定する5つの問い

ここまでの内容を、自分のアイデアに当てはめるための問いにする。5問とも、私が実店舗と店舗せどりと20年の在宅で実際に引っかかった箇所から作っている。

問1:売上の何割が、半径○km以内の住民から来るか

これが商圏内型か外型かの判定そのものだ。過半が商圏内から来るなら商圏内型で、人口推計の市区町村別の表を必ず引く。過半が商圏外なら、田舎に住む理由は事業にはなく、コストか好みの問題になる。

問2:仕入れ・供給は地元に依存するか

中古品の供給は人口に比例する。田舎在住で店舗仕入れだけに頼ると、ライバルは減るが商品も減る。仕入れをネットから取れる設計になっているか。修理前提なら、ライバルの母数はさらに減るが、技術習得が先に要る。

問3:人を雇わないと成立しないか

私は人を雇った瞬間に逆ザヤになった。田舎の人件費が安く見えても、作業時間がボトルネックの事業は、人を雇う方向に必ず行く。一人で回る設計になっているかを先に確認する。

問4:固定費の中で家賃が最大か

田舎の安い家賃で救われるのは、家賃が最大の固定費である事業だけだ。私の固定費の主は家賃ではなく人件費と作業時間だった。Amazonでの販売なら、価格改定ツールなどで何もしなくても月1万円近い固定費が出ていくので、家賃以外の固定費を先に書き出す。

問5:移住先の市町村の2050年人口を、自分で引いたか

社人研の市区町村別推計で、候補地の2020年と2050年の数字を見る。商圏内型なら、その減少率を売上上限にそのまま掛ける。商圏をもっと細かく見たいなら、総務省統計局のjSTAT MAPや、内閣府のRESAS(地域経済分析システム)で半径を指定した人口が出せる。ここまでやって初めて、業種の話に進める。

「田舎 ビジネス 成功例」を、この基準で読み直す

成功例を探している人が多いので、この基準で成功例の読み方を書いておく。上位記事に出てくる成功例、たとえば地場産品の加工品をECで全国に売っている例、農産物を都市部のレストランに直送している例、宿泊業でインバウンドを取っている例。これらは業種がバラバラに見えるが、売上の出口が商圏の外にあるという一点で一致している。田舎で作り、田舎の外に売る。

逆に、商圏内型で「成功例」として出てくるものは、その市町村の人口推計と一緒に見ないと評価できない。今年うまくいっている飲食店が、2050年に商圏の人口が3割減っても同じ売上を保てるかは、業種ではなく商圏が決める。

私自身の成功例と呼べるものを1つ挙げるなら、このサイトだ。WordPressで書いた記事が資産になり、年1回程度の更新で事業が成立している。読者は全国にいて、私がどこに住んでいるかは売上に一切関係ない。これが商圏外型の、私にとっての実測値だ。田舎に住んでいてもこの数字は変わらないし、名古屋に移っても変わらない。

まとめ:田舎で儲かるビジネスは、田舎を市場にしないビジネス

田舎で儲かるビジネスの境界線は、業種ではなく「売上が商圏の中から来るか、外から来るか」にある。

商圏内型は、田舎の安い家賃で開業費が下がる代わりに、売上の上限も商圏の人口で決まり、その人口は公的推計のとおり2050年まで減り続ける。補助金はこの型を誘導するように設計されていて、最大200万円の起業支援金は縮む市場への入場料になる。

商圏外型は、田舎の商圏を一切使わない。仕入れをネットから取り、作業を自宅でやり、全国に売る。この型なら人口減少の影響をほぼ受けず、田舎に住む理由は事業ではなくコストか好みになる。そして住む場所をコストで選ぶなら、安さの正体が築年数と文明の後退であることを差引で見る必要がある。私は差引が合わずに名古屋を選んだが、あなたの差引は違うかもしれない。

「田舎で儲かるビジネス」を探すより先に、「自分の事業の売上はどこから来るか」を1行で書けるようにする。それが書けた時点で、田舎に行くべきかどうかの答えは、ほぼ出ている。

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