「実家暮らしの後ろめたさは『家賃を払っていないこと』ではなく『家に何もしていないこと』から来る

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実家暮らしに後ろめたさを感じている人は多い。私もそうだった。ただし後ろめたさの正体は、多くの場合「家賃を払っていないこと」ではない。家の運営を引き受けていないことだ。この二つは近いようで、まったく別の問題だ。

この記事は一般論ではなく、私自身の実行記録として書く。私は40歳になるまで、親が買ったマンションに住んでいた。生活費として現金を手渡したことは一度もない。そのかわり、まず設備を自分の金で更新し、次に家にかかる固定費の支払いを、名義ごと父親から引き取った。光熱費、管理費、修繕積立金、駐車場代。管理組合に届け出る管理代表者の氏名と連絡先も、私に書き換えた。

順番に意味がある。モノを買い替える段階と、運営を引き受ける段階は別物で、後者のほうが後ろめたさに効いた。その理由を含めて、台帳を公開する。

この記事の前提条件(先に開示する)

住まい 都内の分譲マンション(タワー型)。2000年代半ばに親が新築で購入。名義は親、私は同居人の立場
設備構成 IHクッキングヒーターと電気温水器による給湯。いわゆるオール電化マンション
第1段階 2010年〜。設備の更新費用を自己負担
第2段階 2010年代後半〜。結婚を機に、光熱費・管理費・修繕積立金・駐車場代の支払いを引き受け
私が払っていなかったもの 食費など。生活費として親に現金を渡した金額はゼロ
金額の性質 実際に支払った金額を、記事内に明記した前提のもとでレンジに丸めたもの

この前提を先に置くのは、金額だけが一人歩きすると読者の役に立たないからだ。同じ工事でも、戸建てとマンション、ガスかオール電化か、既存設備の型式で総額はまるで変わる。

なぜ実家暮らしは後ろめたいのか──「自立」の定義がずれている

日本社会には、いまも次の三点セットが根強く残っている。

  • 一人暮らしをして一人前
  • 家を持って一人前
  • 結婚をして一人前

「こどおじ」「こどおば」という言葉が定着したのも、この価値観の裏返しだ(この呼称が何を指し、実際どうなのかはこどおじの実態を扱った記事こどおばの実態を扱った記事で別途整理している)。

この三つに共通するのは、自立を「住所の分離」で測っていることだ。家計が分離しているか、資産形成ができているか、家族の生活が改善しているかは問われない。分かりやすい指標が採用されているだけで、中身は検証されていない。

私自身が、その基準の粗さを示す事例になっている。私は三つ目の「結婚」を満たしたが、実家を出なかった。むしろ結婚を機に、家の固定費の支払いを親から引き取った。世間の基準では、この時期の私は「実家暮らし」のままだ。

ついでに、世間的に「自立している」とされる人の内訳も見ておく。

  • 実家を相続して、そこに住んでいる人
  • 親の敷地内に離れを建てて住んでいる人
  • 親から住宅取得資金の援助を受けて家を買った人

三番目については、国税庁が「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度」を用意している。親から子への住宅資金の移転は、制度として想定された行為だということだ(本稿執筆時点では令和8年12月31日までの時限措置。要件は改正が続くため、利用時は国税庁の最新情報を確認してほしい)。

これらは「持ち家がある」ので一人前に数えられる。資金の流れの向きはむしろ逆なのに、住所が同じというだけで評価が反転する。

私はこの非対称を批判したいのではない。世間の評価軸は変えられないので、自分で別の台帳を持つべきだと言いたい。以下がその台帳だ。

第1段階:設備を更新する(2010年〜)

最初にやったのは、金額が軽くて、高齢の親の負担が確実に減るものだ。派手なリフォームはしていない。というより、大きな工事はほとんど必要がなかった。理由は後で書く。

照明の全面LED化(2010年・最初にやるべき工事)

住戸内の照明をすべてLEDに切り替えた。実施は2010年。当時はLEDの単価が今よりかなり高く、決して安い買い物ではなかった。

効果は、電気代よりも交換頻度に出た。

LED化前 LED化後
電球の交換頻度 体感で4か月〜半年に1回 10年間で、劣化による交換が1回だけ

この差が何を意味するかというと、高齢の親が脚立に上る回数がほぼゼロになったということだ。電球を替えるために椅子や脚立に上る行為は、家庭内で最も頻度の高い転倒リスクの一つである。LED化は電気代の節約というより、事故の芽を先に摘む工事として位置づけたほうがいい。

費用について、正直に書いておく必要がある。キッチンと洗面所の照明は器具ごとの交換で電気工事が必要だったが、この工事はマンションの管理人さんが無償で対応してくれた。本来は有償で工事費を払うべきものだ。結果として、私が負担したのはLED本体の代金だけで済んだ。

これは再現性のない条件である。同じことを他人が見積もると必ずズレるので、そのまま自分の予算に当てはめないでほしい。器具交換が必要な箇所があるなら、本体代とは別に電気工事費が乗ると考えたほうがいい。

なお、この工事は現在「やるかどうか」の段階を過ぎている。水銀に関する水俣条約の第5回締約国会議(2023年11月)で、一般照明用蛍光ランプの製造・輸出入の廃止が決定された。環境省の資料によれば、コンパクト形蛍光ランプは2026年末、直管形・環形はハロリン酸塩系が2026年末、三波長系が2027年末で製造・輸出入が終了する。

ただし誤解しないでほしいのは、すでに使っている蛍光灯や、廃止日までに製造された在庫品の使用・売買が禁止されるわけではないという点だ(環境省資料に明記されている)。禁止されるのは製造と輸出入である。とはいえ供給が細れば、いずれ器具ごと替えることになる。実家の照明がまだ蛍光灯なら、それは「いつやるか」だけの工事だ。

温水洗浄便座を2回交換した(2010年代初頭・2010年代後半)

ここは私の手柄ではないので、先に事実関係を整理する。

タンクレストイレを入れたのは母親だ。2000年代半ばの新築時に選んでいる。当時のタンクレスはまだ一般的とは言えず、戦略的な判断だったと思う。空間が広く、タンクがない分だけ掃除の手間も少ない。この選択のおかげで、私の代でトイレの本体工事は一度も必要にならなかった。

私がやったのは、その上に載る温水洗浄便座の交換を2回である。いずれもTOTOの、その時点での最上位機種を選んだ。搭載していた機能は次の三つだ。

  • 蓋の自動開閉——高齢者がかがむ動作が減る
  • 使用前に自動で便器内に水を吹きかける機能——汚れが付きにくくなり、掃除の回数が落ちる
  • 便器内のLED照明——夜間に主照明を点けずに済む。これも転倒対策になる

1回目が2010年代初頭、2回目が2010年代後半。温水洗浄便座は本体工事を伴わずに交換できるので、トイレそのものを直すより費用も工期も軽い。実家のトイレに不満があるとき、いきなり便器の入れ替えを検討する必要はない、というのが実感だ。

浴室は、直す必要がなかった

ここも正確に書く。浴室のリフォームはしていない。新築時から大きめのサイズが入っていたため、身長175cmの私でも足を伸ばして湯船に入れる。直す理由がなかったので、直していない。

交換したのは、蛇口、シャワーを取り付けるパイプ(シャワーバー)、シャワーヘッドだけだ。これらは浴室本体に手を入れずに交換できる部品で、費用も工期もシステムバスの入れ替えとは桁が違う。

この項目をあえて残しているのは、「実家に貢献する=大きなリフォームをする」ではないと示すためだ。浴室が狭くて足を伸ばせない家なら入れ替えの価値はあるが、そうでないなら部品交換で十分に効果が出る。やらなくていい工事を見送る判断も、台帳に載せるべき仕事である。

第2段階:固定費の名義を引き受ける(2010年代後半〜)

ここからが本題だ。私は結婚を機に、家にかかる固定費の支払いを父親から引き取った。対象は次のとおり。

  • 光熱費(すべて)
  • 管理費
  • 修繕積立金
  • 駐車場代

単に「代わりに払う」のではなく、請求の名義を書き換えた。駐車場代は父親宛に一括で請求が来ていたので、そこを私に変更した。さらに、管理組合に届け出る管理代表者の氏名と連絡先も、私に更新した。

この最後の一項が、実は一番大きい。管理代表者を変えるということは、管理組合からの通知、総会の案内、工事の連絡、トラブル時の一次窓口が、すべて私に来るようになるということだ。金を払うだけなら口座振替の設定を変えれば済む。名義と窓口を移すというのは、その家の運営責任を引き受けるという意思表示である。

実家暮らしの後ろめたさに一番効いたのは、リフォームではなくこちらだった。「住まわせてもらっている人間」から「この家の面倒を見ている人間」に、自分の中の役割定義が変わったからだ。そして役割定義が変わると、外野の評価が気にならなくなる。

同時期に片付けたキッチンまわり

固定費を引き受けたのとほぼ同じ時期に、寿命が来ていた設備をまとめて更新した。

設備 交換理由
IHクッキングヒーター 寿命
ビルトイン食洗機 寿命
電気温水器(貯湯タンク式) 物理的な故障。詳細は次項
天井カセット型エアコン 2台 寿命
キッチン・洗面所の蛇口 経年

エアコンについて補足しておくと、うちは天井埋込のカセット型だった。よく相場として語られる「6畳用の壁掛けエアコンなら本体と標準工事で数万円台」という話は、カセット型には当てはまらない。本体も工事も、壁掛けとは別の価格帯になる。実家の空調がカセット型やビルトイン型なら、予算は壁掛けの相場から考え始めないほうがいい。

交換時期の判断には、公的な統計が使える。内閣府の消費動向調査(令和8年3月実施調査、二人以上の世帯)によれば、ルームエアコンの平均使用年数は13.4年だ。前年の同調査では13.5年で、大きな変動はない。10年を大きく超えて使っている家庭は珍しくないが、13年前後で入れ替わっているのが実態ということになる。

誰も想定していないリスク:メーカーが先に消える

電気温水器の交換は、この記事で一番伝えたい話だ。

うちの給湯はタンクに湯を貯めて供給する電気温水器で、導入時は東芝製だった。これが物理的に故障した。ところが交換しようとした時点で、東芝が給湯機器の事業から撤退しており、同じメーカーで更新することができなくなっていた。結果として、ノーリツのシステムに丸ごと入れ替えることになった。

ここから学べることは、設備の寿命の話とは別次元にある。

設備が壊れるより先に、メーカーが消えることがある。そうなると「同じものに交換する」という最も安全な選択肢が、選択肢ごと消滅する。

同一メーカーでの更新ができないと、単純な入れ替えでは済まなくなる。配管の取り回し、設置スペースの寸法、電源容量、リモコンの配線——このあたりの互換性を一つずつ確認する作業が発生する。工事の内容も金額も、想定から動く。

そしてこれは、高齢の親に判断させるには重すぎる類の話だ。故障は突然起きる。湯が出ない状態で、メーカーの撤退状況を調べ、代替機種の互換性を確認し、複数社から見積もりを取る。これを70代、80代の人間にやらせるのは酷である。

参考までに、このリスクは現在進行形だ。東芝キヤリアのエコキュートは2024年3月で製造を終了している。実家の給湯設備がどのメーカーの何という型番なのか、壊れる前に一度確認しておく価値がある。

ついでに、給湯器の「交換義務」という誤解を訂正しておく

ここは実家がガス給湯器の読者向けの補足だ。

現在、家庭用のガス給湯器に法律上の交換義務や有料の法定点検義務はない。かつて屋内式ガス瞬間湯沸器や屋内式ガスふろがまは消費生活用製品安全法の「特定保守製品」に指定されていたが、2021年8月1日施行の政令改正で除外された(石油給湯機・石油ふろがまは引き続き対象)。

混同されやすいのが「設計標準使用期間」だ。ノーリツは家庭用について製造から10年を目安としているが、これは義務期限ではなく、標準的な使用条件下で安全上支障なく使用できると設計上想定される期間である。過ぎたら違法になる性質のものではない。

もう一つ紛らわしいものがある。ガス事業法に基づきガス事業者が4年に1回以上実施する「消費機器調査」(ふろがま・湯沸器等が対象、費用は無料)だ。これも「ガスの法定点検」と呼ばれることがあるが、義務を負っているのはガス事業者側で、所有者に交換や有料点検を求めるものではない。案内が来たら受けておいたほうがいい。

正直に書いておく──「家にお金を入れていない」問題

ここは誤魔化さずに書く。

私は生活費として現金を親に渡していない。設備を更新し、固定費の名義を引き取ったことで、その事実が帳消しになるわけではない。食費をはじめ、親が負担し続けたものは現にある。

そのうえで、私が主張できるのは次の範囲に限られる。

  • 住戸内の設備更新費用を負担し、建物の居住性能を維持した
  • 高齢の親が身体を使う場面と、故障による生活停止リスクを先回りして減らした
  • 光熱費・管理費・修繕積立金・駐車場代という毎月固定で出ていく費用を、名義ごと引き受けた
  • 管理組合に対する窓口を自分に移し、家の運営責任を引き取った

これは「一人前」の証明ではない。ただの事実の台帳だ。そして事実の台帳を持っている人間は、外野の評価に振り回される必要がない。それで十分だと私は思っている。

台帳を残す──やっておいたほうがいいこと

設備更新や固定費を負担するなら、記録は必ず残しておいたほうがいい。私が実際に残しているのは次の五つだ。

  • 領収書・請求書(誰が支払ったかがわかる形で)
  • 名義変更の記録(いつ、何の名義を、誰から誰に移したか)
  • 工事前後の写真(日付が入るもの)
  • 設置した機器のメーカー名・型番・設置年月
  • 見積書(相見積もりを取った場合は不採用分も含めて)

四番目を単なる記録と思わないでほしい。メーカー名と型番を控えておくと、そのメーカーが事業を続けているかを先に調べられる。撤退情報を故障してから知るのと、動いているうちに知るのとでは、打てる手がまったく違う。私はそれを故障後に知った側だ。

なお、家族間での費用負担の記録が税務上どう扱われるかは、贈与や相続の論点に踏み込む。この点については必ず税理士に確認してほしい。ここで私が断定的なことを書くべきではないし、書ける立場にもない。

まとめ

  • 実家暮らしの後ろめたさは「住所が親と同じ」ことから来ているが、その基準は自立の中身を測っていない
  • 私は結婚という条件を満たしたうえで実家に残り、そこで固定費の名義を引き取った。世間の基準では、この時期も「実家暮らし」である
  • 設備更新(第1段階)より、固定費と管理代表者の名義を引き受けること(第2段階)のほうが、後ろめたさには効いた
  • LED化は費用が軽く、脚立に上る回数を消せる。蛍光灯の製造終了という外部要因からも、いずれ必要になる
  • 大きなリフォームが常に正解ではない。温水洗浄便座やシャワー部品の交換で足りる場面は多い。やらなくていい工事を見送る判断も仕事のうち
  • 設備が壊れるより先にメーカーが消えることがある。実家の給湯設備のメーカーと型番は、動いているうちに確認しておく
  • 給湯器に法律上の交換義務はない。設計標準使用期間10年は義務期限ではなく設計上の想定期間
  • 現金を渡していない事実は消えない。それは認めたうえで、負担した範囲を正確に記録する

実家にいることそのものは、良くも悪くもない。その家に対して何をしたかだけが、後から検証できる事実として残る。

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参考にした公的資料・一次資料

※本記事に記載した実施内容・時期は、筆者が実際に行った範囲を記事内に明記した前提のもとで記述したものです。工事費用は物件の種別・既存設備の状態・施工業者・実施時期により大きく変動します。特に本文中で触れたとおり、LED化の電気工事費が発生しなかったのは管理人の無償対応という個別事情によるもので、一般的な条件ではありません。税務上の取り扱いについては税理士等の専門家にご確認ください。

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