この記事で分かること
プラモデルの製作代行には、二種類の読者がいます。
- 依頼したい人:いくら払えば作ってもらえるのか知りたい
- 受注したい人:副業として成立するのか知りたい
この記事は両方に答えます。というより、両方を同時に見ないと正しい判断ができないからです。
依頼する側にとっては「なぜこの価格なのか」が分かり、受注する側にとっては「この価格で受けたらどうなるか」が分かります。先に結論を書いておきます。
依頼する側にとって、製作代行はかなり割安なサービスです。
受注する側にとって、製作代行は時給が成立しにくいビジネスです。
同じ金額を、立場を変えて見るとこうなります。以下、根拠となる数字を並べます。
1. 料金相場:仕上げレベル別
まず、依頼する側が知りたい数字からです。ここに挙げるのはすべてキット代を含まない製作料金です。キットを自分で用意するか、代行側に購入してもらうかで総額は変わります。
1-1. 仕上げレベル別の価格帯
| 仕上げ | 個人出品(スキルマーケット等) | 専業工房 |
|---|---|---|
| 素組み(組み立てのみ) | 500〜1,000円 | キット定価×2.0程度 |
| 部分塗装・簡単仕上げ | 3,000円前後 | キット定価×2.4程度 |
| 全塗装(HGクラス) | 7,000〜9,060円 | キット定価×2.8〜4.0 |
| 全塗装(MGクラス) | 10,000〜20,736円 | — |
| 全塗装(PGクラス) | 20,000〜40,000円 | — |
| 本格改修・スクラッチ | 30,000円〜 | 50,000円〜の設定例あり |
専業店では代行料金が30,000円前後からという例が多く、製作時間に応じて1時間あたり4,400円という料金設定を明示している業者もあります。一方、スキルマーケットの個人出品では3,000円前後に設定している人も少なくありません。
この差は品質差もありますが、それ以上に作業時間を数えて見積もっているかどうかの差です。この点は3章で詳しく扱います。
1-2. 「定価×何倍」という料金体系
工房系で広く使われているのが、キット定価に倍率を掛ける方式です。ある工房の例では、素組みが定価×2.0、簡単仕上げが定価×2.4、全塗装が定価×2.8という設定になっています。
依頼する側にとっては分かりやすい方式です。ただし後述する通り、この方式は受注側の時給を構造的に低く固定します。キットの定価とパーツ数・作業量は必ずしも比例しないためです。
1-3. 納期の目安
料金と同じくらい重要なのが納期です。ある工房の公開値では、HGで約1ヶ月、RGで約2ヶ月、MGで約3ヶ月という目安が示されています。
これは工房の受注状況によってさらに延びる場合があるとも明記されています。プレゼント用途で依頼を考えている場合、逆算して3ヶ月前には相談を始めるべきということになります。
1-4. 塗装だけを依頼するという選択
組み立ては自分で楽しみ、塗装だけを依頼するという方法もあります。作業範囲が限定されるため総額を抑えやすく、「組む楽しみは手放したくないが、仕上がりは妥協したくない」という場合に合理的です。
ただし、塗装工程は表面処理(ゲート処理、合わせ目消し、パーティングライン処理)とセットで初めて効果が出ます。表面処理を依頼範囲に含めるかどうかで、料金も仕上がりも大きく変わります。見積もり時に必ず確認してください。
2. 依頼する側の判断基準
ここまでの数字を踏まえて、依頼を検討する際のポイントを整理します。
2-1. 仕上がりのレベルを言語化してから相談する
「きれいに作ってほしい」では見積もりが出ません。最低限、この3点を決めてから相談すると話が早く進みます。
- 塗装するか(素組み+墨入れ+トップコートで十分か、全塗装が必要か)
- 色は説明書通りか、オリジナルか(オリジナルは打ち合わせ工数が増えるため加算されます)
- 誰が見るものか(自分用か、贈答用か、展示用か)
2-2. 総額で比較する
製作料金だけを比べても意味がありません。実際に支払う総額は次の合計になります。
キット代 + 製作料金 + オプション + 材料費 + 往復送料 + プラットフォーム手数料
キットを自分で送る場合は発払いの送料が、完成品の返送を着払いとしている出品者の場合はその送料が、それぞれ依頼者負担になります。表示価格が安く見えても総額では逆転することがあります。
2-3. 転売目的での依頼は成立しにくい
完成品を後で売る前提で製作代行を使う、という発想があります。これは基本的に成立しません。理由は次章の数字を見れば明らかです。
3. 受注する側の時給を計算する
ここからは、副業として製作代行を始めたい人向けの内容です。
3-1. 当事者が公開している数字
製作代行を実際に行っている個人が、100時間以上かかる案件について、一般的なアマチュアの時給換算は400円前後であると書いています。材料費・機材・塗料代を含めると採算に疑問を感じる、という趣旨の記述です。
一方、スキルマーケットの出品者のなかには「時給1,500円×作業時間+諸費用」を料金算定の基準として明記している人もいます。
同じ市場で、供給者の自己申告が時給400円と1,500円に割れている。この差は技能ではなく、作業時間を数えているかどうかです。
3-2. 試算:全塗装HGを1体受注した場合
前提を明示した上で計算します。以下はすべて仮定値であり、筆者の実測ではありません。
- 受注単価:8,000円(1章のHG全塗装レンジの中央付近)
- プラットフォーム手数料:22%(スキルマーケットの一般的な料率)
- 材料費:1,000円(塗料・消耗品・梱包材)
- 作業時間:15時間(表面処理・塗装・乾燥待ちの管理・デカール・撮影・やり取りを含む)
(8,000円 − 1,760円 − 1,000円)÷ 15時間 = 時給 約350円
作業を10時間に短縮しても時給は約520円です。仮に手数料のかからない自社サイトで受注し、材料費も抑えたとして、時給1,000円に届くかどうかという水準になります。
3-3. なぜ技能を上げても時給が上がらないのか
ここが製作代行という業態の構造的な問題です。
料金がキット定価に連動する慣行がある以上、単価には天井があります。HGのキット定価は数千円なので、その2〜4倍が上限になる。一方、品質を上げようとすれば作業時間は際限なく伸びます。
つまり、
- 技能が上がる → 仕上がりが良くなる → 1体あたりの時間が伸びる → 時給が下がる
- 時給を上げる → 手を抜く → 評価が下がる → 受注が減る
この二択から抜けるには、キット定価と切り離した独自の料金体系を作り、かつそれで受注できるだけの知名度を持つ必要があります。専業工房が時給4,400円という設定を公開できているのは、そこに到達しているからです。
始めたばかりの個人が同じ土俵に立つことはできません。これは技能の問題ではなく、価格決定力の問題です。
4. 「完成品を作って売る」はどうなのか
受注せずに、自分で作った完成品を販売する方法もあります。こちらも数字を見ておきます。
4-1. 市場の回転率
オークション相場データによれば、「ガンプラ完成品」は12,082件が出品されている一方、直近90日の落札件数は300件、平均落札価格は2,310円でした。
出品在庫12,000件に対して四半期で300件。回転率はおよそ2.5%です。
平均落札価格2,310円という数字も重い。ここから手数料と送料を引くと、キット代すら回収できないケースが出てきます。
4-2. 高額落札は存在する。ただし例外である
一方で、高額落札の記録も確かにあります。ある期間の例では、MGクラスの改修塗装品が21.5万円、PGクラスの改造完成品が18.7万円、HGクラスの改修完成品が13.8万円で落札されています。
ただし、これは12,000件の出品に対する上位ひと握りです。ビジネスモデルとして参照すべき数字ではありません。宝くじの当選額を見て収入計画を立てる人はいないはずです。
4-3. 売れ残りにはコストがかかる
回転率2.5%という数字には、もうひとつ意味があります。
Amazonの物流サービスを使う場合、在庫日数が271日を超えると長期在庫追加手数料が段階的に発生します。さらに2026年4月15日からは、保管期間が12か月を超える商品に1点あたり月額20円の最低長期在庫追加手数料が適用されるようになりました。
つまり完成品販売は、売れないだけでなく、売れない間コストが積み上がる構造です。制作にかけた時間は既に沈んでおり、そこに保管費が乗る。
5. まとめ:立場によって答えが正反対になる
ここまでの内容を整理します。
依頼する側へ
- 全塗装HGで7,000〜9,000円前後、MGで1〜2万円台が目安
- 納期はHGで1ヶ月、MGで3ヶ月程度を見込む
- 総額はキット代・材料費・往復送料・手数料の合計で比較する
- この価格は、作業時間から見れば安い。相場より極端に安い出品には、必ず理由があります
受注する側へ
- 試算上の時給は350〜520円程度。当事者の自己申告も400円前後という例がある
- キット定価連動の料金体系である限り、単価に天井がある
- 完成品販売は回転率2.5%で、売れ残りには保管コストがかかる
- 専用の時間を投じるビジネスとしては、成立しにくい
好きなことを収入にしたい、という動機自体は正しいと考えています。実際、模型の技能を持っている人はホビー領域で稼ぐ上で有利です。
ただしそれは「作って売る」形ではありません。専用の時間を要求するモデルは、時給が労働相場に収束します。副業として成立するのは、すでに支払っている固定費の上に乗る活動だけです。
この原則と、実際に成立している手法については3Dプリンター副業は成立するのか|物販の実測データで検証するで扱っています。
また、ホビー領域の「価格差で稼ぐ」手法が2026年時点でどうなっているかは、ガンプラ転売はオワコンかとおもちゃ投資の資本効率で実データを公開しています。

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