SESから社内SEへ|厚労省の通達に書いてある「あなたの時給」

SESから社内SEへ|厚労省の通達に書いてある「あなたの時給」 QOL

「まともな会社は、面接すらさせてくれない」。この記事は、その状態から始まる人のために書いています。

先に、この記事が何をしたかを書きます。感想を書いていません。厚生労働省の通達、経済産業省のガイドライン、情報処理推進機構(IPA)の調査、国勢調査と米国労働統計局の比較データ、そして職業安定業務統計。これらの原文だけで、この道筋が成立するのかどうかを確認しました。

結論から3つ置きます。

ひとつ。日本のIT人材の73.6%は、ベンダー企業側にいます。米国は35.1%です。この偏りが、未経験でも入口があることも、社内SEが狙い目であることも、全部説明します。

ふたつ。厚労省の通達に、職種別・経験年数別の時給表があります。そこにこう書いてあります ── プログラマーの10年(2,015円)と、ITプロジェクトマネージャの1年(2,001円)は、ほぼ同じ値段です。差は14円です。

みっつ。その入口は、いま閉じかけています。情報処理・通信技術者の有効求人倍率は1.61から1.33に下がり、求職者は1年で13.2%増えました。だから「2年で抜ける」は目標ではなく期限です。

そして、入れなかった場合の道も用意しました。有効求人倍率は令和8年7月で1.34倍。ゼロではありませんが、誰でも入れる入口ではなくなっています。入れなかった人は、この記事の1-6から別の入口へ進んでください。

この記事は、借金・職歴・出口の3つの分岐のうち「職歴」の分岐で、「肉体の負荷を嫌う人」の道です。拘束時間を嫌う人は警備から設備管理へ、天井の低さを嫌う人は警備から電気工事会社へ、借金と住まいが先の人は期間工の記事へ。

1. なぜ未経験でも入口があるのか

1-1. 日本のIT人材は、4人に3人がベンダー側にいます

この記事のすべての土台になる数字です。IPA「DX白書2023」が、日本の国勢調査と米国労働統計局の職業雇用統計(OEWS)を突き合わせて出しています。

IT企業(ベンダー) IT企業以外(ユーザー企業側) 総数
日本 2020年 73.6% 26.4% 1,253,930人
日本 2015年 72.0% 28.0% 1,045,200人
米国 2021年 35.1% 64.9% 4,981,090人
米国 2015年 34.6% 65.4% 4,195,110人
出典:IPA「DX白書2023」第4部第2章。日本=総務省統計局「令和2年国勢調査 抽出詳細集計」の「システムコンサルタント・設計者」「ソフトウェア作成者」「その他の情報処理・通信技術者」。米国=米国労働統計局 職業別雇用・賃金統計(OEWS)

日本と米国で、比率がほぼ反転しています。そして日本は5年経ってもほとんど動いていません(72.0%→73.6%でむしろベンダー側に微増)。

この一枚の表が、これから書くことの全部を説明します。

  • なぜ未経験で入口があるのか ── ベンダー側に人が集中していて、その末端に常に穴が空くから
  • なぜ社内SEが狙い目なのか ── ユーザー企業側には26.4%しかいないから
  • なぜ運用を知っている人が独立できるのか ── ユーザー企業側の事情を知っている人が、構造的に少ないから

1-2. 「多重下請け」は、経済産業省が公文書で認めています

この業界の構造について、経産省のガイドラインの冒頭にこう書かれています。

情報サービス・ソフトウェア産業に関するガイドラインは、受託適正取引等の推進を図ることを目的として、平成19年6月に策定したものである。情報サービス・ソフトウェア産業では、多重かつ不透明な請負関係が一般化しており、中小受託取引の適正化は、情報サービス・ソフトウェアの信頼性の向上、中小受託事業者の活力の維持・成長機会の確保のみならず、業界全体の生産性の向上(略)のためにも重要な課題となっている。

同じガイドラインには、丸投げについての記載もあります。

平成29年には、(略)低生産性でかつセキュリティリスクの高い構造改善のための丸投げ(一括下請)防止に関する内容、さらに、アジャイル開発等の新たな開発手法に対する注目度の上昇を踏まえて、新しい取引形態に関する留意点等を新たに追加した。

「多重かつ不透明な請負関係が一般化」というのは、行政の認識です。ネット上の愚痴ではありません。そして2007年から2025年12月の最終改訂まで、この一文は残り続けています。

1-3. だから末端には、常に穴が空きます

階層構造の下に行くほど、必要とされるのは「工程を回す人手」になります。要件を決める人でも、設計する人でもなく、決まったものを作る人・確かめる人です。

だから未経験でも入れます。入れる理由は、その位置の仕事が誰でもできるように切り出されているからです。これは悪意でも搾取でもなく、構造です。そして第2章で見るとおり、その位置の値段も決まっています。

1-4. 「IT業界は学歴不問」の公的な裏づけは、ありません

【確認できず】「IT分野は学歴不問の求人が多い」ということを示す公的統計は、確認できませんでした。一般職業紹介状況(職業安定業務統計)、雇用動向調査、転職者実態調査、e-Statを当たりましたが、求人の学歴要件を集計した公的統計は存在しません。この点については、体感や事業者の発信しか根拠がない、というのが正確なところです。

1-5. そして今、その入口が狭くなっています

ここは正直に書かなければならない部分です。「IT人材は常に不足している」という前提が、いま反転しつつあります。

時点(各年3月/最新は6月) 情報処理・通信技術者
有効求人倍率
(参考)職業計
令和4年3月 1.48 1.13
令和5年3月 1.54 1.22
令和6年3月 1.59 1.17
令和7年3月 1.61 1.16
令和8年3月 1.39 1.10
令和8年6月 1.33 1.01
令和8年7月 1.34 1.05
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」参考統計表6(常用・パート含む、全国計・原数値)。各月の月次値であり、年度平均ではありません

そして令和8年6月の対前年同月比が、より重要です。

情報処理・通信技術者(令和8年6月・対前年同月比)
新規求人 −1.1%
有効求人 −5.7%
新規求職 +13.2%
有効求職 +6.0%
有効求人倍率 −0.16ポイント

求人が減り、新規の求職者が1年で13.2%増えています。両側から挟まれている形です。

これはこの道筋を否定するものではありません。むしろ結論を強くします。入口が開いているうちに入り、閉じる前に次に移る。それだけです。

1-6. 入れなかった場合

ここは、この記事を最初に書いたときには無かった章です。

1.3倍台の入口に入れなかった人は、この記事の道を諦めるのではなく、入口を変えます。このサイトには、同じ「過去を見られない入口」が他に2つあります。

入口 有効求人倍率(令和8年7月) 法律が求めるもの 向く人
SES(この記事) 情報処理・通信技術者 1.34倍 法律上の要件なし 肉体の負荷を嫌う。PCの前で働きたい
施設警備 → 設備管理 保安職業従事者 6.54倍 18歳以上と欠格事由なし(警備業法14条)、入社後20時間の教育 拘束時間を嫌う。宿直の待機時間で次を覚えたい
施設警備 → 電気工事会社 電気工事従事者 3.26倍 第二種電気工事士の免状(電気工事士法3条) 天井の低さを嫌う。3年で自分の名前で請け負いたい

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」参考統計表6(全国計、常用・パート含む、実数)。職業計は1.05倍

SESの入口が1.34倍で、警備の入口が6.54倍。同じ「職歴を見ない」入口でも、開き方が5倍違います。そしてどちらの道も、この記事と同じ結論に行き着きます。入るのは構わない、留まるな。

2. 厚労省の通達に、あなたの値段が書いてある

2-1. この表がなぜ存在するのか

労働者派遣法には、派遣労働者の待遇を決める方式が2つあります。第30条の3(派遣先の通常の労働者と均等・均衡を取る方式)と、第30条の4(労使協定方式)です。

第30条の4を使う場合、賃金は次の条件を満たす必要があります。

イ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。

この「一般の労働者の平均的な賃金の額」を、厚労省が毎年8月に通達で示します。つまりこれは、政府が「この職種はいくらか」を職種別・経験年数別に定めた公式の表です。そして誰でも読めます。

2-2. 令和8年度の表(情報処理・通信技術者)

職発0825第1号(令和7年8月25日発出、令和8年度適用)の別添2から、該当部分を引きます。単位は時給(円)です。

職種 0年 1年 2年 3年 5年 10年 20年
ITヘルプデスク 1,312 1,493 1,598 1,637 1,753 1,872 2,327
ITシステム運用管理者 1,384 1,575 1,686 1,727 1,849 1,975 2,455
プログラマー 1,412 1,607 1,720 1,762 1,886 2,015 2,505
通信ネットワーク技術者 1,431 1,628 1,743 1,786 1,912 2,042 2,539
ソフトウェア開発技術者(組込・制御系) 1,484 1,689 1,808 1,852 1,983 2,118 2,633
ソフトウェア開発技術者(WEB・オープン系) 1,496 1,702 1,822 1,867 1,999 2,135 2,654
ITシステム設計技術者 1,476 1,680 1,798 1,842 1,972 2,106 2,618
ITコンサルタント 1,499 1,706 1,826 1,871 2,003 2,139 2,659
ITプロジェクトマネージャ 1,758 2,001 2,141 2,194 2,349 2,509 3,119
出典:厚生労働省 職発0825第1号(令和7年8月25日)別添2「職業安定業務統計による職種別平均賃金」。単位:円/時。全国一律の値であり、実際の一般賃金額は都道府県別の地域指数を乗じて算出します

2-3. 読み方その1 ── 工程の差

まず縦に読みます。未経験(0年)の時点で、すでに差があります。

ITヘルプデスク(0年) 1,312円
プログラマー(0年) 1,412円
ITプロジェクトマネージャ(0年) 1,758円
プログラマーとPMの差 346円/時(+24.5%)

同じ未経験でも、工程が違うだけで24.5%違います。これは能力の差ではありません。その位置の値段の差です。

2-4. 読み方その2 ── 経験年数の差

次に横に読みます。プログラマーの行です。

プログラマー 0年 1,412円(月160時間換算で225,920円)
プログラマー 2年 1,720円(同 275,200円)
2年での上がり幅 +308円/時(+21.8%)=月4万9,280円

2年で約22%上がります。ここは素直に良い数字です。ご相談の「半年から2年」という感覚は、この上がり方と一致しています。最初の2年の伸びが、いちばん急です。

2-5. 読み方その3 ── ここが本題です

では、その先はどうなるか。縦と横を同時に読むと、この表がいちばん残酷なことを言い始めます。

比べるもの 時給
プログラマー 10年 2,015円 差は14円
ITプロジェクトマネージャ 1年 2,001円
ITヘルプデスク 20年 2,327円 20年が、3〜5年の間に着地する
ITプロジェクトマネージャ 3年 2,194円
ITプロジェクトマネージャ 5年 2,349円
プログラマー 20年 2,505円 20年積んでも、PM10年とほぼ同額
ITプロジェクトマネージャ 10年 2,509円

言い換えます。

プログラマーとして10年積んだ経験は、プロジェクトマネージャの1年分と同じ値段です。

ヘルプデスクとして20年積んだ経験は、プロジェクトマネージャの3〜5年分です。

2-6. この表が意味していること

これは「プログラマーは無価値」という話ではありません。その位置に居続けたときに何が起きるかを、政府が数字で示しているという話です。

そして重要なのは、この表が努力の量ではなく位置で値段を決めていることです。10年真面目に働いたプログラマーと、1年目のPM。値段はほぼ同じ。差がついているのは能力ではなく、担当している工程です。

このサイトで繰り返し書いている一文が、ここで数字になります。代替されるものは安くなります。そして、いくら安くなるかが、厚生労働省の通達に書いてあります。

だから結論はひとつです。下流の工程に居続けてはいけません。ご相談の「噛ませ犬として扱う」という言葉は、この表を見ると正確です。入るのは構いません。留まるのが問題です。

2-7. なお、別の統計を使った表もあります

同じ通達には、賃金構造基本統計調査を使った別添1もあります。職種の括りが粗い代わりに、水準が高く出ます。

職種 0年 3年 5年 10年 20年
ソフトウェア作成者 1,670 2,084 2,231 2,383 2,963
その他の情報処理・通信技術者 1,759 2,195 2,350 2,510 3,120
システムコンサルタント・設計者 2,167 2,704 2,895 3,092 3,844
出典:同通達 別添1「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金」

構図は同じです。ソフトウェア作成者の20年(2,963円)は、システムコンサルタント・設計者の5〜10年(2,895〜3,092円)の間に着地します。

労使協定でどちらの表を使うかは会社が選びます。自分の会社がどちらを使っているかは、労使協定に書いてあります。そして労使協定は、第30条の4第2項により「雇用する労働者に周知しなければならない」ものです。見せてもらう権利があります。

3. あなたは、どの契約で働いているのか

3-1. 「SES」という言葉は、法令に存在しません

【確認できず】「SES」「システムエンジニアリングサービス」を定義・言及した法令・告示・行政文書は、厚労省・経産省・IPA・公正取引委員会のいずれにも確認できませんでした。唯一該当したのはハローワークの求人票の本文で、これは行政の定義ではありません。

つまり「SESだから」という説明には、法的な中身がありません。あなたが実際にどの法律の下にいるかは、契約の形式ではなく、現場で誰が誰に指示を出しているかで決まります。

3-2. 3つの契約類型

(請負)第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

(準委任)第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

(用語の意義)第二条 (略)
一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい(略)

請負と準委任の条文には、指揮命令の定めが一切ありません。労働者派遣の定義だけが「他人の指揮命令を受けて」を必須要素にしています。

厚労省は、この違いをこう説明しています。

請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法632条)であり、労働者派遣との違いは、請負には、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係を生じないという点にあります。
この点において、委任(民法643条)、準委任(民法656条)も同様であり、(略)実態として、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係がある場合には、その契約の形式を問わず、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受けます。

3-3. 判定の基準は、告示にあります

「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)。通称37号告示です。第2条の構造がこうなっています。

第二条 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。

「すべてに該当する場合を除き、派遣とする」という書き方です。ひとつでも欠ければ派遣事業と扱われる、という建て付けになっています。

列挙されている要件のうち、常駐現場で問題になりやすいのが第1号ハ(2)です。

ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

3-4. IT向けの解説が、全問システム開発で出ています

厚労省は37号告示について「疑義応答集」を3集出しています。第3集は全8問が、すべてシステム開発の設問です。この分野で働く人が最初に読むべき資料です。

3-5. Q7 ── 面談と要員の指名について

常駐の現場に最も直接効く設問です。原文を引きます。

A7 (略)適正な請負等と判断されるためには、受注者が自己の雇用する労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っていること及び請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することが必要であり、そのためには、受注者の労働者の配置等の決定及び変更について受注者自らが行うことが求められます。
そのため、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与していると判断されることになり、適正な請負等とは認められません。
他方で、(略)受注者が雇用する技術者のシステム開発に関する技術・技能レベルと当該技術・技能に係る経験年数等を記載したいわゆる「スキルシート」の提出を求めたとしても、それが個人を特定できるものではなく、発注者がそれによって個々の労働者を指名したり特定の者の就業を拒否したりできるものでなければ、(略)直ちに偽装請負と判断されるわけではありません。

この分野で「面談」「面接」と呼ばれている手続きが、法的にはどの位置にあるか。スキルシートの提出そのものは、個人が特定できない形なら問題にならない。一方で、発注者が特定の個人を指名する、あるいは特定の個人の就業を断るところまで行くと、適正な請負ではないと厚労省が明記しています。

3-6. そしてQ8が、2026年5月に追加されました

第3集は元々アジャイル開発を題材にしていました。そのため「うちはウォーターフォールだから関係ない」という受け止め方が可能でした。それが2026年5月25日に塞がれています。

Q8 Q1~7の考え方は、アジャイル型開発以外のシステム開発を請負業務とする場合についても当てはまりますか。
A8 アジャイル型開発以外のシステム開発を請負業務とする場合についても当てはまります。

2行だけの追加ですが、意味は大きい。Q1〜Q7の考え方が、一般のシステム開発の請負・準委任すべてに及ぶことを、厚労省が明示しました。3か月前の話です。

3-7. 自分の立場を判定する4つの質問

条文と告示から、判定に効く質問を並べます。

  1. 日々の作業の指示を、誰から受けていますか。自社の管理責任者ですか、客先の担当者ですか
  2. 始業・終業・休憩・休日の管理を、誰がしていますか。単なる把握ではなく、指示・管理をしているのは誰か
  3. あなたがその現場に入るとき、客先の面談がありましたか。そこで客先が「この人でお願いします」と個人を選びましたか
  4. 契約書には何と書かれていますか。準委任か、請負か、労働者派遣か

1と2で客先が指示・管理をしていて、契約が準委任や請負になっている場合、実態としては労働者派遣にあたる可能性があります。厚労省の言い方では「その契約の形式を問わず、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受けます」。

3-8. 制度としては救済がありますが、ハードルは高い

労働者派遣法第40条の6に「労働契約申込みみなし制度」があります。一定の違反があった時点で、派遣先が労働契約を申し込んだものとみなされる制度です。

ただし、条文を読むと使いにくさが分かります。偽装請負の類型(第1項第5号)は「この法律(略)の規定の適用を免れる目的で」という要件があり、厚労省の解釈通達はこう述べています。

「免れる目的」を要件として明記した立法趣旨に鑑み、指揮命令等を行い偽装請負等の状態となったことのみをもって「偽装請負等の目的」を推定するものではない。

さらに第3項により、労働者が1年以内に承諾の意思表示をしなければ、申込みは効力を失います。

【確認できず】この制度に関する裁判例は、裁判所の判例検索では特定できませんでした。同検索システムは全裁判例を網羅していないため、存在しないという意味ではありません。

ここは「知識として持っておく」章です。これを武器に戦うことを勧めているのではありません。自分がどの法律の下にいるかを知らないまま数年過ごすのが、いちばん損だという話です。

4. 自分の取り分を調べる方法

4-1. マージン率は、法律で公開が義務づけられています

これは知られていない割に、すぐ使える話です。労働者派遣法第23条第5項。

5 派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業所ごとの(略)派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合(略)、教育訓練に関する事項その他(略)に関し情報の提供を行わなければならない。

そして施行規則第18条の2第1項が、方法を定めています。

法第二十三条第五項の規定による情報の提供は、インターネットの利用その他の適切な方法により行わなければならない。

さらに派遣元指針(平成11年労働省告示第137号)が「原則」を明示しています。

常時インターネットの利用により、広く関係者、とりわけ派遣労働者に必要な情報を提供することを原則とすること。

4-2. 厚労省のサイトで、会社ごとに検索できます

厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で、事業所ごとの数値が閲覧できます。実際の表示例です。

派遣労働者数 656人
派遣料金の平均額 20,917円
派遣労働者の賃金の平均額 15,854円
マージン率 24.2%
労使協定の締結 締結あり(令和9年3月31日まで)
人材サービス総合サイト(厚生労働省職業安定局)の事業所詳細ページの表示例。2026年8月26日確認。数値は事業者自身の掲載情報に基づき、項目ごとに基準時点が異なる場合があります

公開が義務づけられているのは、マージン率のほかに派遣労働者数、役務の提供を受けた者の数、派遣料金の平均額、賃金の平均額、教育訓練に関する事項、労使協定の締結の有無です。

なお、厚労省のページはマージンの中身について「派遣会社の利益にあたる部分のほか、派遣会社が負担する社会保険料や教育訓練費等が含まれます」と注記しています。マージン率が高い=ぼったくり、とは限りません。教育に金を使っている会社も、そうでない会社も、同じ分子に入ります。だから「マージン率」と「教育訓練に関する事項」を並べて見る必要があります。

4-3. ただし、準委任なら公開義務の対象外です

ここが第3章とつながります。この公開義務は、労働者派遣事業を行う派遣元事業主に対するものです。あなたの会社が準委任契約で常駐させているなら、この義務の対象外で、サイトにも載りません。

つまり自分の取り分を調べられるかどうかが、自分がどの制度の下にいるかを教えてくれるという構造になっています。

4-4. 載っていない場合に使える方法

それでも比較の材料はあります。第2章の通達の表です。

自分の職種と経験年数を表で探して、その時給を月160時間で掛けてください。それが「政府がこの仕事に付けている値段」です。自分の給与と比べれば、位置が分かります。

単価(会社が客先から受け取っている額)を教えてもらえる会社なら、そちらと比べるのがより直接的です。教えてもらえない会社である、という事実自体が情報です。

5. 将来性 ── 断定できることと、できないこと

5-1. 「2030年に45万人不足」の中身

この分野で最もよく引用される数字です。出典は経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年4月公表)。まず前提を確認します。

2018年 2020年 2025年 2030年
22万人 30万人 36万人 45万人
出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」表1。需要の伸び年平均2.7%(中位シナリオ)、労働生産性が年0.7%上昇することを前提とした試算

そして同じページに、こう書かれています。

ただし、年3.54%の労働生産性上昇を実現した場合には、2030年時点のIT人材の需要と供給は均衡することが見込まれる。

不足は前提次第で消えます。この一文は、45万人と同じページにあります。

5-2. 同じ資料の、もうひとつの表

ここからが本題です。同じ調査には、IT人材を「従来型」と「先端」に分けた表があります。

Reスキル率 従来型IT人材 先端IT人材 合計
2〜6% 18万人 27万人 45万人
2%/年 0万人 45万人
1%/年 △10万人 55万人
出典:同調査 表4「従来型IT人材と先端IT人材の需給ギャップ(2030年時点)」。原文の注記:「※△:供給数>需要数」。中位シナリオ・労働生産性0.7%の場合

「△10万人」は供給過剰という意味です。原文にそう書いてあります。

そして「従来型IT市場」の定義は、同調査によれば従来型ITシステムの受託開発、保守・運用サービス等の市場です。つまり、この記事が扱っている領域そのものです。

「45万人不足」だけを引くのは、不誠実です。同じ表に「学び直しが進まなければ、従来型は10万人余る」と書いてあります。そして先端側の不足は、その分だけ増えて55万人になります。

ここが、この記事のいちばん重要な数字かもしれません。「IT業界は人手不足だから安泰」という話と「将来性がない」という話が、同じ政府資料の中で両立しています。分岐点は、学び直しをするかどうかです。

5-3. AIについて、公的資料が書いていること

ここは慎重に書きます。

【確認できず】経済産業省・IPA・総務省・内閣府のいずれにも、「ソフトウェア開発のテスト工程や運用工程がAIによって代替される」と述べた公式資料は確認できませんでした。確認できたのは「支援」「浸透」「導入状況」に関する記述のみです。

むしろIPAは、逆のことを書いています。「2025年度ソフトウェアモダナイゼーション委員会報告書」(2026年3月24日)から。

生成AIやAIエージェントの進化は、ソフトウェア開発の現場にかつてない変革をもたらしている。要件定義の補助、設計ドキュメント・コードの自動生成、コードレビュー支援、テストケースの作成など、ソフトウェアライフサイクル全体にわたってAIが関与するようになってきた。これにより、開発者の生産性は飛躍的に向上し、より創造的な業務に集中できる環境が整いつつある。
しかしその一方で、AIが生成するコードの品質や安全性を担保するために、開発者の役割はますます重要になっている。

5-4. それでも、2つの数字は分かります

断定はできませんが、事実として置ける数字はあります。

ひとつめ。テスト工程が、工数のどれだけを占めるか。

工程 新規開発(平均)
基本設計 18.2%
詳細設計 17.2%
製作 31.6%
結合テスト 19.9%
総合テスト 13.0%
テスト2工程 合計 約32.9%
出典:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」表A3-3-8(新規開発、n=270)。各工程の平均は個別に算出された比率の平均のため、合算値は概算です

ふたつめ。工程別に、AI導入がどこまで進んでいるか。

工程 導入済み(全社+一部) 検討中 予定なし
要件定義 27.1% 30.9% 29.3%
システム設計 30.1% 25.7% 31.2%
実装 40.3% 20.4% 27.1%
テスト 31.7% 26.8% 29.0%
運用・保守 25.4% 30.9% 30.1%
出典:IPA「2025年度ソフトウェア動向調査」Q11-3「開発におけるAI導入状況」(n=362)。これは「AIを導入しているか」を尋ねた調査であり、人材が代替されたかを測る調査ではありません

5-5. だから、言えるのはここまでです

2つの数字を並べると、こうなります。

テスト工程は、開発の工数の約3分の1を占めます。そしてその工程で、3割強の企業がすでにAIを導入しています。実装工程では4割です。

この先どうなるかを断言した公的資料は、ありません。ですから、この記事も断言しません。ただ、工数の3分の1を占める工程で自動化が3割まで来ている、という事実だけは、判断材料として十分だと思います。

そしてこれは、5-2の「従来型は学び直しが進まなければ10万人余る」という経産省の試算と、同じ方向を向いています。

6. 社内SEに移るという選択

6-1. なぜここが狙い目なのか

第1章の表に戻ります。日本のIT人材の26.4%しか、ユーザー企業側にいません。米国は64.9%です。

そしてそのユーザー企業側が、足りないと言っています。

事業会社(ユーザー企業)のIT人材の過不足感 「量」 「質」
大幅に不足 35.2% 35.7%
やや不足 38.3% 38.7%
不足計 73.5% 74.4%
出典:IPA「DX白書2023」第4部(原データ:IPA「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)」2022年4月14日公表。事業会社1,046社が回答)。従業員1,001名以上の企業では「大幅に不足」が49.8%

より新しい調査(IPA「DX動向2026」、2026年7月30日公開、n=1,799)では、DX推進人材の「量」の不足計が85.5%、「質」が88.8%。IPAの要約はこうです。

DX推進人材の量・質ともに不足感はやや解消傾向にあるものの、依然として9割近くの企業が不足を感じており、慢性的な人材不足の状況に大きな変化は見られない。

6-2. そして、半数近くは自社の人材を把握していません

この数字が、実は最も示唆的です。

IT人材の把握状況について「把握していない」と回答した割合は、事業会社44.7%/IT企業18.6%

ユーザー企業の44.7%は、自社にどんなIT人材がいて、何ができるのかを把握していません。足りないと感じているのに、何が足りないかを言語化できていない状態です。

これは求職側から見ると、こう読めます。「うちに必要な人」の定義が固まっていない募集が多い。だから、要件がガチガチではない。だから、入りやすい。

6-3. ただし、統計に「社内SE」という職業はありません

【確認できず】賃金構造基本統計調査にも、厚労省の職業情報提供サイト job tag にも、「社内SE」という職業区分は存在しません。job tagの518職業を全件確認しましたが、該当する名称はありませんでした。最も近いのは「運用・管理(IT)」「ヘルプデスク(IT)」です。

そして、第2章の表に戻ると、この2つの数字は正直に厳しい。

ITヘルプデスク(0年) 1,312円
ITシステム運用管理者(0年) 1,384円
プログラマー(0年) 1,412円

運用・ヘルプデスクは、プログラマーより安い区分です。ここは隠さずに書きます。

6-4. では、何のために移るのか

金額のためではありません。立場のためです。

ベンダー側の運用と、ユーザー企業側の運用は、名前が同じでも中身が違います。

ベンダー側で覚えること ユーザー企業側で覚えること
知識の中身 その技術の使い方 その会社の業務が、どう回っているか
持ち運べるか 持ち運べる(誰でも学べる) 持ち運べない(その会社固有)
代替されやすさ されやすい されにくい
次に売れるか 同じ工程にしか売れない 同じ業界の他社に売れる

ここが道筋の核心です。その会社固有の知識は、その会社では代替されにくく、同じ業界の他社には価値があります。この2つが同時に成り立つものは、そう多くありません。

現行のこの記事には「現場で盗むべきは『技術』よりも『業務知識』」という見出しがありました。その判断は正しかったと思います。理由が、第1章の73.6%対26.4%です。

6-5. 移るために、SES期間中に何を持って出るか

第3章と第6章から、実務的に効くものを並べます。

  • 入った現場の業界と業務を、説明できるようにする。「金融系にいました」ではなく「与信審査のこの部分が、こう回っていました」。ユーザー企業が欲しいのはこれです
  • ドキュメントを書いた実績を残す。44.7%が自社人材を把握できていない会社にとって、書ける人は貴重です
  • 障害対応の記録を残す。何が起きて、どう切り分けて、どう直したか。運用の面接はここを聞きます
  • 労働条件通知書と契約書を保管する。自分がどの契約で働いていたかを説明できないと、経歴の説明が曖昧になります

6-6. 勤務地について

勤務地を選ばないことは、選考で効く数少ない変数のひとつです。学歴も職歴も面接の場では動かせませんが、これは自分で決められます。

【確認できず】「地方配属のほうが有利」ということを示す公的統計は確認できませんでした。有効求人倍率の都道府県別データはありますが、配属先の希望と採用の通りやすさを結びつけたデータはありません。ここは構造的にそうだろう、という推測の域を出ません。

ただし、生活費の観点では別の話ができます。詳しくは実家に住みながら貯める話をどうぞ。

勤務地を選ばないことを、もう一段はっきり書きます。この道の1段目でやっているのは、「地方配属を半年〜2年受け入れて、職歴を買う」ことです。この構造は、電気工事の道で「電気工事会社の3年を受け入れて、登録の資格を買う」のと同じ型です。違うのは買うものの性質で、SESの職歴には法律の裏づけがなく、経験者が増えると値段が下がります。だから買ったらすぐ使う。それがこの記事の「2年」の意味です。

7. 在職中に使える公的制度

7-1. 情報処理技術者試験が、令和8年度から変わります

この分野の国家試験です。根拠は情報処理の促進に関する法律第26条第1項。

令和8年度(2026年度)から、応用情報技術者試験・高度試験・情報処理安全確保支援士試験がCBT方式に移行します。これに伴い、実施時期と呼称が変わります。

従来 令和8年度から
方式 ペーパー(年2回:4月・10月) CBT方式
実施期間 特定の日曜日 前期 2026年10月28日〜12月6日
後期 2027年2月6日〜3月15日
科目の呼称 午前/午後 科目A/科目B
出典:情報処理推進機構(IPA)。前期=ST/SA/NW/SM、後期=PM/DB/ES/AU

基本情報技術者試験は2023年4月からすでに通年CBTです。科目A 90分60問/科目B 100分20問、各1,000点満点で600点以上が合格、受験料7,500円。

7-2. 合格率は下がっています

年度 基本情報技術者 合格率 受験者数
3年度前 47.1% 121,611人
2年度前 40.8% 133,732人
直近 38.3% 147,186人
出典:IPA 統計情報。応用情報技術者は25.0%→26.3%→23.4%(受験者70,103→80,973→82,668人)

受験者は増え、合格率は3年連続で下がっています。通年CBTになって受けやすくなった分、準備が薄い受験が増えた可能性がありますが、そこは推測です。事実として言えるのは「以前より通りにくくなっている」ことだけです。

7-3. 教育訓練給付が、2024年10月に拡充されました

種類 給付率 年間上限
専門実践教育訓練 50% + 20%(資格取得等)+ 10%(賃金上昇)=最大80% 64万円
特定一般教育訓練 40% + 10% = 最大50% 25万円
一般教育訓練 20% 10万円
根拠:雇用保険法第60条の2第4項(「百分の二十以上百分の八十以下」)

7-4. そして、在職中に休んで学ぶための給付が新設されました

ここは知られていない制度です。「教育訓練休暇給付金」が、令和7年10月1日に創設されました。根拠は雇用保険法第60条の3。

創設 令和7年(2025年)10月1日
給付日数 90日/120日/150日
要件 離職前2年間に被保険者期間12か月以上、かつ雇用保険の加入期間5年以上

在職のまま教育訓練休暇を取り、その間の給付を受ける制度です。SESに在籍したまま次の準備をするなら、これが最も直接効く制度になります。制度の詳細と手続きは、勤務先とハローワークで確認してください。

7-5. 離職している場合

ハロートレーニング(公的職業訓練)が使えます。受講料は無料(テキスト代は自己負担)。雇用保険を受給できない人向けには求職者支援訓練があり、職業訓練受講給付金(月10万円+通所手当上限42,500円+寄宿手当10,700円)が支給されます。

主な要件は、本人収入が月8万円以下、世帯収入が月30万円以下、金融資産300万円以下ほか。IT分野の実践コースは各労働局の募集一覧に実在します。

8. 独立するとき

8-1. 何を売るのか

この道筋の4段目です。売るのは技術ではなく、運用の設計と改善です。

理由は第6章と同じです。ユーザー企業側にIT人材は26.4%しかいない。事業会社の44.7%は自社人材を把握していない。「うちのシステム運用、これでいいんですか」と聞ける相手が、社内にいない会社が大量にあります。

そして1社の社内SEとして経験を積んだ人は、同じ業界の他社に対して、同じ質問に答えられます。これが「複数社に提案できる」の中身です。

8-1b. 4社モデルの数理

「複数社に提案する」を、数字で置きます。前提は筆者が置いたもので、公的統計ではありません。

段 前提 年額
社内SE(会社員) 年収500〜600万円の中間 550万円
フリーランス 社内SEでやっていた仕事を、1社あたりその半額(300万円)でフルリモートで提供。4社と契約 1,200万円

この形が成立する理由は3つあります。

ひとつ。買い手の側から見ると、社内SEを1人雇う年収の約半分で、同じ業務知識を持つ人が使えます。第6章で書いたとおり、ユーザー企業の44.7%は自社のIT人材を把握しておらず、必要な人の定義が固まっていません。「うちの運用、これでいいんですか」に答えられる人が、正社員の半額で来る。買い手にとって断る理由が薄い。

ふたつ。売り手の側から見ると、買い手が4社あれば、1社を失っても75%が残ります。会社員は買い手が1社なので、失えばゼロです。この記事の冒頭に書いた「買い手が一社しかない市場では、価格は買い手の内部規則で決まる」の裏返しが、ここで数字になります。

みっつ。時給に直すと位置が変わります。4社にそれぞれ週1日相当を割くとして、年48週×4日×8時間=1,536時間で1,200万円を割ると、1時間あたり約7,800円。第2章の厚労省の表で、ITシステム運用管理者の20年(2,455円)の約3.2倍です。20年積んでも届かない値段に、位置を変えることで届く。この表の読み方その3で書いた「位置で値段が決まる」の、外側の位置です。

そして重要なのは、この形が「常駐しない」ことです。8-4の落とし穴③で書いたとおり、フリーランスとして1社に常駐すれば、第3章の偽装請負の論点が自分に返ってきます。4社にフルリモートで提供する形は、収入の分散だけでなく、37号告示の指揮命令の論点を構造的に避ける形でもあります。効率のためだけではなく、法的にもこの形のほうが安定します。

もうひとつ、この形の副産物があります。場所を選ばなくなることです。会社に通う必要がなく、4社が全国どこにあっても構わないなら、住む場所は仕事で決まりません。生活費と効率だけで決められます。関東に住む理由が「そこにしか仕事がないから」でなくなる。大半の人が物理に縛られていてこれができないのは、地方に移ると収入が下がるからで、この形なら収入は場所に依存しません。

正直に書いておくことがあります。この形に到達する確率を示す公的統計はありません。社内SEに採用される確率も、4社と契約できる確率も、公表されていない。電気工事の道の記事で、この道と電気工事の道を10年の期待値で並べて計算しました。天井はこの道のほうが高く、到達確率と床は電気工事の道のほうが上です。どちらを取るかは、読者が何を嫌うかで決まります。

8-2. フリーランス法ができました

2024年11月1日に施行された新しい法律です。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)。

対象になる「特定受託事業者」の定義(第2条第1項)は、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人。法人化していても、従業員を雇っていなければ対象です。

そして「業務委託」の定義(第2条第3項・第4項)に、この仕事が明示的に入っています。

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(略)又は情報成果物の作成を委託すること。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
4 前項第一号の「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
一 プログラム(略)

「プログラム」が明文で情報成果物に入っています。そして第2号の括弧書き「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む」により、発注者自身に対して役務を提供する形(=客先常駐そのもの)も対象です。

8-3. 発注者に課される義務

条文 内容
第3条 業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日等を書面または電磁的方法で明示
第4条 報酬の支払期日は、給付の受領日(役務なら提供を受けた日)から60日以内で、かつできる限り短い期間内
第4条第3項 発注者が元請から受けた仕事を再委託する場合は、元委託支払期日から30日以内(※再委託である旨等を明示した場合に限る)
第5条 禁止行為(受領拒否・報酬減額・返品・買いたたき・購入利用強制/不当な経済上の利益の提供要請・やり直し)
第12条 募集情報について虚偽・誤解を生じさせる表示の禁止、正確かつ最新に保つ義務
第16条 継続的業務委託の解除・不更新は、少なくとも30日前までに予告。理由の開示請求も可

8-4. 落とし穴が3つあります

ここは条文を読まないと分からない部分です。

落とし穴①:禁止行為の一部が、常駐には適用されません。

第5条第1項の柱書に、こうあります。

次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあつては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。

第2条第3項第2号は「役務の提供の委託」です。つまり常駐して役務を提供する形の場合、第1号(受領拒否)と第3号(返品)は適用されません。

落とし穴②:期間の要件があります。

同じ柱書に「政令で定める期間以上の期間行うもの」という限定があります。政令では1か月と定められています。1か月未満の単発の仕事には、第5条第1項の禁止行為は及びません。

落とし穴③:常駐すると、第3章の論点が自分に返ってきます。

フリーランスとして客先に常駐し、客先の指揮命令の下で働けば、それは業務委託ではなく労働なのではないかという論点が発生します。37号告示と疑義応答集の考え方は、相手が法人か個人かで変わりません。

だから「常駐する独立」は、独立の完成形ではありません。ご相談の道筋にある「複数の会社に運用を提案する」形 ── 特定の1社に常駐せず、複数社と契約する形 ── のほうが、法的にも収入構造としても安定します。

8-5. 開業の実務(期限が変わっています)

ここは最近改正された部分なので、古い記事の情報に注意してください。

手続き 期限
開業届(所得税法第229条) 2026年1月1日施行の改正により、「1か月以内」から「その事実があった日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」に変更
青色申告の承認申請(所得税法第144条) その年の3月15日まで(業務開始が1月16日以降なら開始から2か月以内)
青色申告特別控除 65万円(e-Tax等)/55万円/10万円
健康保険の任意継続 退職翌日から20日以内。最長2年
根拠:所得税法第229条(令和7年法律第13号による改正、2026年1月1日施行)、同第144条、健康保険法第37条・第38条

8-6. インボイスの2割特例には、期限が来ています

免税事業者が適格請求書発行事業者に登録した場合の負担軽減措置(小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置、いわゆる2割特例)は、令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が適用対象です。

この記事の執筆時点(2026年8月26日)から、約1か月後です。独立の時期を検討しているなら、ここは早めに国税庁の資料で確認してください。

8-7. 下請法が2026年1月に改正・改称されました

もうひとつ新しい話です。従来の「下請代金支払遅延等防止法」が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改正され、令和8年1月に施行されました。経産省のガイドラインによれば、主な変更は次のとおりです。

令和7年には、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(令和8年1月施行)への改正を踏まえ、資本金基準に加え従業員数基準の導入、手形支払の禁止、電磁的方法による明示の容認等を反映した改訂を行った

従業員数基準の導入と手形支払の禁止は、多重下請けの中で仕事を受ける側にとって直接効きます。

9. この道筋が成立する理由と、しない理由

9-1. 代替されるものは安くなります

このサイトで繰り返し書いている一文です。そしてこの記事では、それが政府の通達に時給で書いてありました。

時給 意味
プログラマー 10年 2,015円 10年の経験が、1年分と同じ値段
ITプロジェクトマネージャ 1年 2,001円
ITヘルプデスク 20年 2,327円 20年の経験が、3〜5年分
ITプロジェクトマネージャ 3〜5年 2,194〜2,349円

これが「代替されるものは安くなる」の実測値です。努力の量ではなく、位置で決まっています。

9-2. だから、この道筋の各段には意味があります

段 そこにあるもの 代替されやすさ
1. SES 入口。工程を回す経験と、業界の中を見る機会 高い(誰でもできるように切り出されている)
2. 社内SE その会社の業務がどう回っているかという知識 低い(その会社固有)
3. 独立 同じ業界の複数社に、同じ問いに答えられる立場 さらに低い(経験の組み合わせが固有)

1段目は代替されるから入れます。2段目は代替されないものを手に入れる場所です。3段目は、それを複数に売る形です。

1段目に留まると、9-1の表のとおりになります。入るのは正しい。留まるのが問題です。

9-3. そして、1段目は今、閉じかけています

この記事で確認した3つの数字を、もう一度並べます。

  • 情報処理・通信技術者の有効求人倍率:1.61(令和7年3月)→ 1.33(令和8年6月)→ 1.34(令和8年7月)
  • 令和8年6月の対前年同月比:有効求人 −5.7% / 新規求職 +13.2%
  • 経産省の試算:学び直しが年1%に留まれば、従来型IT人材は2030年に10万人の供給過剰

「半年から2年で次に移る」は、目標ではなく期限です。ご相談にあった期間の感覚は、結果として正確でした。ただし理由は「経験が溜まるから」ではありません。入口が開いているうちに入り、下流の値段が固定される前に位置を変える必要があるからです。

9-4. 最後に

この記事は、いまの状態を「底辺」とは呼びませんでした。面接を受けさせてもらえないというのは、能力の話ではなく、選考の入口の話です。そしてこの業界には、その入口が構造的に開いている場所があります。理由は第1章で確認したとおり、日本のIT人材の73.6%がベンダー側に偏っていて、その末端に人手が要るからです。

そこに入ることは、恥ずかしいことでも、負けでもありません。使える入口を使っているだけです。

ただ、そこは通過点として設計されている場所でもあります。厚労省の通達がそう言っています。だから、入った日から出る準備を始めてください。それがこの記事の全部です。

10. よくある質問

未経験でも本当に入れますか

入口が構造的に存在することは、第1章のデータから言えます。ただし「学歴不問の求人が多い」ことを示す公的統計は確認できませんでした。そして有効求人倍率は1.61から1.33に下がり、新規求職者は1年で13.2%増えています。入口が狭くなりつつあるのは事実です。

SESと派遣は何が違うのですか

「SES」は法令に存在しない言葉です。法的には、あなたがどの契約の下にいるかで決まります。準委任・請負なら発注者に指揮命令権はなく、労働者派遣なら派遣先の指揮命令を受けます。ただし厚労省は「実態として指揮命令関係がある場合には、その契約の形式を問わず、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受けます」としています(第3章)。

客先の面談で選ばれるのは、問題ではないのですか

厚労省の疑義応答集第3集Q7が、この点を扱っています。「発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は(略)適正な請負等とは認められません」。一方、個人を特定できない形のスキルシート提出は、それだけで偽装請負とは判断されないとされています。なお2026年5月25日に追加されたQ8で、この考え方がアジャイル以外の一般のシステム開発にも当てはまることが明示されました(3-5・3-6)。

自分の単価はどうやったら分かりますか

会社が労働者派遣事業を行っているなら、マージン率・派遣料金の平均額・賃金の平均額が法律で公開義務の対象です(派遣法23条5項)。厚労省の人材サービス総合サイトで事業所ごとに検索できます。準委任契約の場合は公開義務の対象外なので、第2章の通達の表と自分の給与を比べる方法になります(第4章)。

2年でどれくらい上がりますか

厚労省の通達(令和8年度)のプログラマーの行では、0年1,412円→2年1,720円。+308円/時で、月160時間換算なら+4万9,280円です。ただしその先の伸びは鈍り、10年(2,015円)はITプロジェクトマネージャの1年(2,001円)とほぼ同額になります(第2章)。

テストの仕事はAIに置き換わりますか

それを述べた公的資料は確認できませんでした。IPAはむしろ「AIが生成するコードの品質や安全性を担保するために、開発者の役割はますます重要になっている」としています。事実として言えるのは、テスト工程が新規開発の工数の約33%を占めること(IPA分析データ集2022)と、テスト工程へのAI導入が31.7%、実装工程では40.3%の企業で始まっていること(IPA 2025年度ソフトウェア動向調査)の2つです(第5章)。

IT業界は人手不足なのではないのですか

経産省の推計では2030年に45万人不足(中位シナリオ)。ただし同じ資料に「年3.54%の労働生産性上昇を実現した場合には需給は均衡する」と書かれており、さらに同じ調査の表4には「学び直しが年1%に留まれば、従来型IT人材は2030年に10万人の供給過剰」という試算があります。受託開発・保守運用がこの「従来型」にあたります(5-2)。

社内SEに移ると給料は上がりますか

職種の区分としては、必ずしも上がりません。厚労省の通達では、ITヘルプデスク(1,312円)とITシステム運用管理者(1,384円)はプログラマー(1,412円)より低い区分です。移る理由は金額ではなく、その会社固有の業務知識という「持ち運べないが、同じ業界の他社には価値があるもの」を手に入れるためです(第6章)。

独立はいつすればいいですか

この記事はその時期を決められません。ただし制度面では、インボイスの2割特例が令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終わること、開業届の期限が2026年1月1日から変わったこと、フリーランス法が2024年11月1日に施行されていることを踏まえてください。また、特定の1社に常駐する形の独立は、第3章の偽装請負の論点が自分に返ってくるので、複数社と契約する形のほうが安定します(第8章)。

この記事で確認できなかったこと

  • 「SES」「システムエンジニアリングサービス」を定義・言及した法令・告示・行政文書(3-1)
  • 「IT分野は学歴不問の求人が多い」ことを示す公的統計(1-4)
  • 「ソフトウェア開発のテスト工程や運用工程がAIによって代替される」と述べた公的資料(5-3)
  • 統計上の「社内SE」という職業区分。賃金構造基本統計調査にも job tag にも存在しない(6-3)
  • 「地方配属のほうが採用されやすい」ことを示すデータ(6-6)
  • 労働者派遣法40条の6(労働契約申込みみなし制度)に関する裁判例(3-8)
  • 「直接雇用の有期契約には派遣の期間制限が適用されない」と明言した厚労省文書。条文(派遣法2条1号・40条の2)からの帰結としてのみ説明可能
  • 「情報処理・通信技術者」の有効求人倍率の年度平均。月次の参考統計表には職業別があるが、年度平均の職業別集計は公表されていない(1-5の表は各年3月/6月の月次値)

▼ 次にやること

この記事は初心者の館のSTEP1(元手をつくる)の入口のひとつです。自分がどの分岐にいるかは借金・職歴・出口の地図で確認してください。

生活費を落とす話は実家に住みながら貯める記事もどうぞ。

この記事で参照した一次情報

請負・準委任・労働者派遣の区別民法 第632条・第643条・第644条・第656条/労働者派遣法 第2条第1号

論点 出典
IT人材の日米の偏在(73.6%/26.4%、35.1%/64.9%) IPA「DX白書2023」第4部第2章(原データ:総務省統計局「令和2年国勢調査 抽出詳細集計」、米国労働統計局 OEWS)
「多重かつ不透明な請負関係が一般化」/丸投げ/下請法改正 経済産業省「情報サービス・ソフトウェア産業における中小受託適正取引等の推進のためのガイドライン」(平成19年6月策定/令和7年12月最終改訂)
職種別・経験年数別の一般賃金水準 厚生労働省 職発0825第1号(令和7年8月25日)別添1・別添2。令和8年度適用
労使協定方式/均等・均衡待遇 労働者派遣法 第30条の3・第30条の4
有効求人倍率(情報処理・通信技術者) 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」令和8年6月分 参考統計表6ほか
職業別の有効求人倍率(令和8年7月・保安・電気工事・情報処理) 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」参考統計表6
偽装請負の判定基準 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)第1条〜第3条
システム開発における具体的な判断(Q7の要員指名、Q8の適用範囲) 厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集(第3集)」(令和8年5月25日更新、Q8追加)
労働契約申込みみなし制度 労働者派遣法 第40条の6/厚生労働省「労働契約申込みみなし制度について」
二重派遣の禁止 職業安定法 第4条・第44条・第64条第10号/厚生労働省「労働者供給事業業務取扱要領」第1
マージン率の情報提供義務 労働者派遣法 第23条第5項/同法施行規則 第18条の2/派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第137号)第2の16/厚生労働省「人材サービス総合サイト」
IT人材の需給ギャップ(45万人/従来型△10万人/年3.54%で均衡) 経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年4月公表)表1・表4
DX推進人材の不足感 IPA「DX動向2026」(2026年7月30日公開、n=1,799)
事業会社のIT人材不足・把握状況 IPA「DX白書2023」第4部(原データ:IPA「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2021年度)」2022年4月14日公表)
AIの位置づけ IPA「2025年度ソフトウェアモダナイゼーション委員会報告書」(2026年3月24日)
工程別のAI導入状況 IPA「2025年度ソフトウェア動向調査」Q11-3(n=362)
工程別の工数比率 IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」表A3-3-8ほか
情報処理技術者試験(CBT移行・合格率) 情報処理推進機構(IPA)/情報処理の促進に関する法律 第26条第1項
教育訓練給付・教育訓練休暇給付金 雇用保険法 第60条の2第4項・第60条の3(令和7年10月1日創設)/厚生労働省
ハロートレーニング・職業訓練受講給付金 厚生労働省
フリーランス法 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号、2024年11月1日施行)第2条・第3条・第4条・第5条・第12条・第16条/同施行令/公正取引委員会・中小企業庁
開業届・青色申告・インボイス2割特例 所得税法 第229条(令和7年法律第13号による改正、2026年1月1日施行)・第144条/国税庁
健康保険の任意継続 健康保険法 第3条第4項・第37条・第38条/全国健康保険協会
すべて2026年8月26日に原文で確認しました。法令・通達・統計はいずれも改定されます。判断の前に、ご自身で最新のものをご確認ください。

 

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