賃貸探しで本当に高いのは家賃ではありません|民間・公社・分譲を実額で比べました

賃貸探しで本当に高いのは家賃ではありません|民間・公社・分譲を実額で比べました QOL

この記事は全面的に書き直しました。以前ここに置いていたのは「分譲・UR・公社の3択」を勧める記事です。方向は間違っていなかったのですが、根拠が全部借り物でした。だから、自分が実際に払った金額と、実際に起きたことで書き直します。

先に、この記事の全部を1行で書きます。

賃貸でいちばん高くつくのは家賃ではなく、間違えたときにやり直せないことです。

私は2か月で「この部屋は無理だ」と判断しました。それでも1年住みました。部屋が良くなったからではありません。出ていくのに、お金がかかったからです。

この記事で書けること、書けないこと

住み方 書けること
民間の収益物件 住んでいました。築36年・3LDK・家賃13万円。管理費6千円、駐車場は近隣で別契約1.4万円。1年で出ました
住宅供給公社 いま住んでいます。築28年・2LDK・家賃11.8万円。管理費6千円、駐車場1.1万円
UR賃貸住宅 住んだことがありません。制度の話しか書けません
分譲賃貸 これから入ります。予測として書きます
持ち家 買ったことがありません

下の3つについては、体験として書ける部分がありません。公表されている制度と条文だけを扱います。

1. 賃貸で本当に高いのは、家賃ではありません

部屋を探すとき、たいてい家賃で比べます。ですが、家賃は毎月払って毎月住むので、等価交換です。払った分だけ住めます。

問題は、そうではないお金のほうです。

性質 間違えたとき
家賃 住んだ分だけ払います 出れば止まります
敷金 預けているお金です 原状回復に充てられた分を除いて戻ります
礼金 戻りません 1日で出ても、全額が消えます
仲介手数料 戻りません
短期解約の違約金 出るときに発生します

下の3つが、やり直しの値段です。

そして、部屋を探しているときにこの3つを見ている人は少ないと思います。私も見ていませんでした。

2. 2か月で無理だと分かったのに、1年住んだ話

人生で初めて自分で借りた部屋の話です。

条件
物件 築36年の収益物件
間取り・家賃 3LDK・13万円(管理費6千円)
駅から 徒歩20分
立地 幹線道路沿い。坂の多い地形
駐車場 狭くて車が入らず、近隣で別に契約

住み始めてすぐ分かったのは、これです。

起きたこと
車やバイクの音が、24時間入ってきました
築年数のせいでサッシが弱く、締めても入ります
眠れなくなりました
坂なので、買い物のたびに消耗します
駐車場が別なので、車を出すまでが遠いです

入居して2か月で、無理だと判断しました。

2-1. それでも出られませんでした

理由は1つです。

入るときに礼金と仲介手数料を払っていて、出るときには違約金がかかるからです。

つまり、こういう構造になっていました。

かかったお金
入るとき 礼金+仲介手数料。どちらも戻りません
2か月で出るなら それに加えて違約金
1年待って出るなら 違約金は避けられます

結局、1年我慢しました。そして違約金を払って出ました。間違いを認めるのに、10か月かかったことになります。

当サイトはどの記事でも利益 ÷ 拘束日数で判断しています。住居も同じ形をしています。

住居の拘束日数とは、間違えたと分かってから、実際に出られるまでの日数です。

3. そもそも、選択肢が歪んでいました

これは後から分かったことです。

部屋を探していたとき、他にも候補がありました。そのうちの1つについて、こう言われました。

そこは駐車場がありません

住んでから、実際に現地を見に行きました。駐車場はありました。しかも、私が借りた部屋より駅に近い物件でした。

3-1. なぜこうなるのか

これは、担当者が悪い人だったという話ではないと思っています。報酬の構造の問題です。

仲介業者にとって
あなたが最善の部屋に入る 報酬は増えません
自社が扱っている部屋で決まる 報酬が入ります
早く決まる 時間あたりの効率が上がります

業者は、あなたが最善を選ぶことでは報われません。

だから、聞いた話だけで候補を消してはいけません。「そこはやめたほうがいい」「もう埋まっています」「駐車場がありません」——この3つを言われたら、自分で確かめるまで候補から外さないことです。地図と現地は、誰でも見られます。

3-2. 仲介手数料には、上限が決まっています

ここは知っておく価値があります。国土交通省の告示に、こう書いてあります。

「宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額は、当該宅地又は建物の借賃…の一月分に相当する金額以内とする。この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の一月分の二分の一に相当する金額以内とする。」

読み替えます。

上限
貸主と借主の合計 家賃1か月分まで
居住用で、借主から1人分だけ取る場合 原則は家賃0.5か月分まで
借主から1か月分を取れる場合 依頼を受けるにあたって、借主の承諾を得ているとき

1か月分が当たり前だと思っている人が多いと思います。私もそうでした。告示の書き方は逆で、原則が半月分、承諾があるときだけ1か月分です。

4. 戻らないお金が、ゼロの選択肢があります

東戸塚を出たあと、住宅供給公社の賃貸住宅に移りました。いまもそこに住んでいます。

入居費用について、公社の公式サイトにはこう書いてあります。

Q:入居の際にどんな費用がかかるの?
「敷金として家賃の3ヶ月分と契約当月分の家賃、共益費及び駐車場を使用する場合には駐車場使用料です。なお、礼金・更新料・仲介手数料はありません。」
(千葉県住宅供給公社 よくあるご質問)

UR賃貸住宅も、同じ構造です。こちらは住んだことがないので、公表されている内容だけを書きます。

「礼金・仲介手数料・更新料・保証人ナシ」
「入居時に必要な費用は、敷金(月額家賃の2か月分)と日割り家賃、共益費だけ。」
(UR賃貸住宅)

4-1. 総額ではなく、戻らない金で比べます

以下は家賃12万円としたときの、説明のための仮の計算です。民間の条件は物件によって違いますし、公社もURも地域や住戸によって条件が変わります。必ず実際の物件で確認してください。

敷金(戻る) 礼金(戻らない) 仲介手数料(戻らない)
民間(礼金1・仲介1の例) 12万円 12万円 13.2万円
住宅供給公社 36万円 なし なし
UR賃貸住宅 24万円 なし なし

総額で見ると、こうなります。

最初に出ていく総額 そのうち戻らない金
民間 37.2万円 25.2万円
公社 36.0万円 0円
UR 24.0万円 0円

総額では公社がいちばん高く見えます。ところが、戻らない金では逆転します。

公社の敷金3か月は、民間より厚いです。ここは正直に書いておきます。手元から出ていく現金は多いです。ただし、それは預けているお金です。間違えて出るときに消えるのは、礼金と仲介手数料のほうです。

4-2. そして、更新料もありません

これは住み続けたときに効いてきます。

年数 民間(更新料1か月・2年ごとの例) 公社・UR
2年目 12万円 0円
4年目 24万円(累計) 0円
6年目 36万円(累計) 0円

これも仮の数字です。更新料の有無と金額は契約によって違いますし、地域によっても慣習が違います。自分の契約書を見てください。

5. 公社に住んで、変わらなかったこと

ここは、旧版の記事がいちばん間違っていた部分です。

旧版には「分譲仕様なら防音性が違う」「隣のテレビ音をほぼ遮断する」と書いてありました。断定できる根拠がないので、消しました。そして、私の実データはむしろ逆を示しています。

種別 築年数 音
東戸塚 民間の収益物件 築36年 外から(幹線道路の車とバイク)
いまの家 住宅供給公社 築28年 上から(上の住民の生活音)

公社に移っても、音の問題は消えませんでした。

つまり、効いている変数は物件の種類ではありません。築年数です。種類を変えても、築28年なら上の音は入ります。

ここを混同すると、判断を間違えます。

変数 何が変わるか
物件の種類(民間/公社/UR/分譲) お金の性質が変わります(礼金・仲介手数料・更新料・違約金)
築年数 建物の性能が変わります(音・断熱・気密)
立地(駅距離・幹線道路・地形) 毎日の消耗が変わります

この3つは別々の軸です。「公社にすれば静かになる」は成り立ちません。公社にすれば、間違えたときに出やすくなる、が正しい読み方です。

6. では、礼金と仲介手数料は悪なのか

ここまで読むと、礼金と仲介手数料を払うのが損に見えると思います。そうではありません。

問題は、何に対して払っているかです。

私は次に、分譲マンションに賃貸で入る予定です。そこでは礼金と仲介手数料がかかります。払います。

払う相手 私の判断
築36年・幹線道路沿い・駅から徒歩20分・坂・駐車場が狭い収益物件 払う価値は、私はないと思っています
築6年の分譲マンション・駅から徒歩5分・専有70㎡ 納得して払います

同じ金額でも、返ってくるものが違います。戻らない金を払うこと自体が問題なのではなく、戻らない金を、戻ってこないものに払うのが問題です。

6-1. 3か所の月額を並べます

以下はすべて、私が実際に払った金額と、いま検討している物件の掲載条件です。

東戸塚(民間) いまの家(公社) 次の家(分譲賃貸)
家賃 130,000円 118,000円 160,000円
管理費・共益費 6,000円 6,000円 10,000円
駐車場 14,000円(近隣で別契約) 11,000円 12,000円
月額合計 150,000円 135,000円 182,000円
間取り 3LDK 2LDK 3LDK
専有面積 83㎡ 70㎡ 70.43㎡
築年数 築36年 築28年 築6年
駅から 徒歩20分 徒歩15分 徒歩5分
礼金・仲介手数料 かかりました ありません かかります
更新料 — ありません 家賃1か月(2年ごと)

1列目と2列目を見てください。

東戸塚のほうが、いまの家より月15,000円高かったのです。

年で見ると18万円の差です。そして、部屋そのものは東戸塚のほうが上でした。

部屋のスペック 東戸塚 いまの家
専有面積 83㎡ 70㎡
間取り 3LDK 2LDK
浴室 1450サイズ 1350サイズ。足が伸ばせません
キッチン 広かったです 狭くなりました

13㎡狭くなり、1部屋減り、風呂で足が伸ばせなくなりました。不満はあります。

それでも、生活は良くなりました。

いちばん広い部屋から、いちばん狭い部屋に移って、良くなっています。変わったのは部屋ではなく、街と、契約の形と、毎月出ていく金額のほうです。

ただし、不満のほうも正直に書いておきます。浴室です。

住んだ場所 浴室のサイズ
月島(親が買った分譲。かなりのグレードの部屋でした) 1600以上
東戸塚 1450
いまの家 1350。足が伸ばせません

私は、風呂が嫌いでした。だから部屋を探すとき、浴室を見ていませんでした。

一人暮らしをするようになって初めて、風呂が大事だと分かりました。

そして、月島の浴室がどれだけすごいものだったかも、出てから分かりました。値段が違うので当然といえば当然なのですが、比較する相手がいないと、それがすごいことに気づけません。

自分にとって何が効く変数なのかは、住む前には分かりません。

これが、この記事が「やり直せる契約から始める」と書いている一番の理由です。調べれば分かることは、調べればいい。ですが、自分が何を大事に思うかは、調べても出てきません。

広さと間取りで選ぶと、こういう間違いをします。

1年で出た判断は、部屋が嫌だったからではありません。部屋は良かったのです。払っているものが、得ているものに対して高すぎました。

6-2. 次の物件で、戻らない金がいくらになるか

掲載されている条件から計算します。実際の契約で変わる可能性があるので、目安として見てください。

入るときにかかるもの 金額 性質
敷金 2か月 320,000円 戻ります
礼金 1か月 160,000円 戻りません
仲介手数料(上限で計算) 176,000円 戻りません
保証会社の初回保証料(賃料等の50%) 85,000円 戻りません
損害保険(1年分) 13,000円 戻りません
戻らない金の合計 434,000円 —

そして、出るときと住んでいる間にも、かかります。

いつ 何が 金額
出るとき 退去時清掃費用(借主負担の特約) 92,967円(税込)
2年ごと 更新料 160,000円
毎月 保証料と入居サポート 1,770円

入るのに43.4万円、出るのに9.3万円。合わせて52.7万円が、住む前から決まっています。

ここで4章が効いてきます。公社には礼金も仲介手数料も更新料もありません。この52.7万円が、まるごとありません。

6-3. それでも、私は払います

理由を1文で書きます。

築36年が築6年になり、駅まで20分が5分になるからです。

そして面積は、いまとほとんど変わりません。70㎡が70.43㎡です。広さは買っていません。買っているのは築年数と駅距離です。

浴室については、掲載写真を見る範囲では1450はありそうだと思っています。だとすれば足は伸ばせます。ただしこれは確認できていないので、予測です。内見で測ります。

月額も47,000円上がります。2年住むと、月額の差と初期費用と更新料で、合計170万円ほどの追加になります。それでも払うと決めたのは、返ってくるものを数えられるからです。

東戸塚に同じ金額を払うなら、答えは「払わない」です。返ってくるものがありません。

6-4. 「礼金なし」だけでは、足りません

6-2の表で、いちばん見落としやすいのはここです。

礼金と仲介手数料の外側に、まだ3つあります。

見落としやすいもの この物件の場合
保証会社の初回保証料 賃料等の50%。8.5万円
損害保険 1年ごとに1.3万円
退去時の清掃費用の特約 9.3万円。出るときに確定しています

「礼金ゼロ」と書いてある物件でも、この3つが乗れば戻らない金は残ります。項目名を1つずつ見ても分かりません。合計で見てください。

6-5. 仲介会社にも差があります

東戸塚のときは、地域の小さな仲介専門の会社に頼みました。そこで、実在する候補を「駐車場がない」と言われて外しています。

次は大手を通します。大手だから正直だ、という保証はありません。ただ、扱っている物件の数が違うので、1件を無理に決める必要が薄いとは思っています。

これは私の判断であって、検証したわけではありません。確実に言えるのは、次の1つだけです。

候補を消すのは、業者の言葉ではなく、自分が見た事実にしてください。

7. 契約の形は、物件の種類とは別の軸です

ここまで、物件の種類でお金の性質が変わると書いてきました。ただし、もう1つ別の軸があります。

契約の形です。そしてこれは、物件の種類では決まりません。

借地借家法に、こういう条文があります。

借地借家法 第38条(定期建物賃貸借)第1項
「期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。」

これが定期借家契約です。

普通建物賃貸借 定期借家
期間が来たら 更新できます 更新がありません。終わります
住み続けたいとき 基本的に続けられます 貸主と再契約の交渉になります

7-1. 「分譲賃貸だから定期借家」ではありません

ここは、私が最初に書き間違えたところなので、はっきり書き直します。

分譲賃貸が定期借家とは限りません。そして定期借家は、分譲賃貸に限りません。

いま検討している分譲賃貸マンションの掲載条件には、こう書いてあります。

項目 掲載されている内容
契約形態 普通建物賃貸借
契約期間 2年0ヶ月

普通の賃貸借です。期間が来れば更新できます。

つまり、物件の種類から契約の形は読めません。読めるのは契約書と、募集条件だけです。これは5章と同じ話です。種類に性質を紐づけると、判断を間違えます。

軸 何が決まるか
物件の種類 お金の性質(礼金・仲介手数料・更新料)
築年数 建物の性能(音・断熱・気密)
立地 毎日の消耗
契約の形 居続けられるかどうか

この4つは全部バラバラに動きます。1つで他を推測しないことです。

7-2. 定期借家でも、出る自由は法律で守られています

もし契約書に「定期建物賃貸借」と書いてあった場合の話です。同じ第38条に、借主を守る規定が続いています。

第6項「…期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間…に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。」

第7項「…居住の用に供する建物の賃貸借(床面積…が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。」

第8項「前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」

定期借家の場合
やむを得ない事情で出たい 法律で守られています(200平方メートル未満の居住用、申入れから1か月)
そのまま住み続けたい 守られていません。期間で終わります
借主に不利な特約 無効です

定期借家で失うのは「出る自由」ではなく、「居続ける権利」のほうです。

この記事の観点では、そこまで悪い話ではありません。やり直しのコストを見ているので、出られることのほうが重要だからです。ただし、腰を据えて長く住みたい人にとっては重大な違いです。募集条件の「契約形態」の欄に書いてあるので、契約する前に見てください。

8. 出るときのお金|原状回復

敷金は戻るお金だと書きましたが、全額戻るとは限りません。原状回復に充てられた分が引かれます。

ここには国土交通省のガイドラインがあります。

名称 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)
発行 国土交通省
分量 全173ページ。第1章がガイドライン本体、第3章に判例の動向が入っています

全部読む必要はありません。ただ、「こういうものが存在する」と知っているかどうかで、退去時の話し合いが変わります。知らないまま請求書を受け取ると、そのまま払うことになります。

私はこれで争ったことがないので、交渉の実務は書けません。存在と入手先だけ置いておきます。

8-1. 「退去時清掃費用は借主負担」という特約について

6-2で書いた退去時清掃費用9.3万円のような条項を、原状回復の特約といいます。ガイドラインは、これについてこう書いています。

「賃貸借契約については、強行法規に反しないものであれば、特約を設けることは契約自由の原則から認められるものであり、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることも可能である。しかし、判例等においては…経年変化や通常損耗に対する修繕業務等を賃借人に負担させる特約は、賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課すことになるため、次の要件を満たしていなければ効力を争われることに十分留意すべきである。」

【賃借人に特別の負担を課す特約の要件】
① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

ガイドラインは、最高裁の判断も引いています。通常損耗の分は、そもそも家賃に含めて回収されているという考え方です。

8-2. 金額が書いてある特約のほうが、むしろ健全です

ここは、直感と逆かもしれません。

特約の書かれ方 要件②(認識していること)から見ると
「退去時清掃費用 92,967円(税込)借主負担」 金額まで示されています。契約前に判断できます
「退去時のハウスクリーニング費用は借主の負担とする」 いくらか分かりません。契約前に判断できません

金額が書いていない特約のほうが、後で揉めます。

特約があること自体は問題ではありません。問題は、いくらなのかを知らないまま契約して、退去のときに初めて金額を見ることです。金額が書いてあるなら、それは戻らない金として最初から計算に入れられます。6-2の表で私がやったのは、それだけです。

9. 私がやっている、3段階の組み方

ここまでの話を、順番として書きます。結果的にこうなった、というだけで、最初から設計していたわけではありません。

段階 やったこと そこで払ったもの
1 民間の収益物件に入って、失敗しました 礼金・仲介手数料・違約金。そして10か月
2 公社に移りました。戻らない金がゼロなので、街の変数を実測できます 敷金だけ(預けているお金)
3 実測が済んだので、本命に礼金を払います 礼金・仲介手数料。納得して払います

1段階目を飛ばせたら一番よかったのですが、飛ばせませんでした。

ただ、2段階目の意味は、いま振り返るとはっきりしています。戻らない金がゼロの契約に入っていると、その街を「試している」状態になります。合わなければ出られるからです。

そして実際には、出ませんでした。いまの家は不満もあります。築28年なので上の音が入りますし、駅までは徒歩15分です。それでも出ないのは、家賃がエリアで最安だからです。

判断
東戸塚 得るものが少なく、家賃も駐車場も高い。だから出ました
いまの家 不満はあるが、家賃が安い。だから出ません
次の家 得るものが増える。だから月4万円の上乗せを払います

引っ越すかどうかは、満足しているかどうかでは決まりません。得ているものと払っているものの差で決まります。

不満があるから引っ越す、は間違いです。不満があっても、払っているものが十分に小さければ、居続けるのが正解になります。私はいま、その状態にいます。

10. 判定表

判定 状態
◎ 戻らない金がいくらか言える+間違えたときに何日で出られるか言える+その街に住んだことがある
○ 戻らない金は把握しているが、出るときの条件は契約書を見ていない
△ 初期費用の総額は比べたが、戻る金と戻らない金を分けていない
× 家賃だけで比べている
× 短期解約の違約金の条項を読んでいない
× 業者に「そこはやめたほうがいい」と言われた候補を、自分で確かめずに消した
× 仲介手数料が家賃1か月分で当然だと思っている
× 種類を変えれば音が解決すると思っている(効くのは築年数です)
× 契約書に「定期建物賃貸借」と書いてあるのに気づいていない
× 不満があるという理由だけで引っ越そうとしている(払っているものを数えていない)

11. 明日からの1手

# やること かかる時間
1 いまの契約書を出して、短期解約の違約金の条項を探す 10分
2 「定期建物賃貸借」と書いてあるかを確認する 3分
3 入居時に払った金額を、戻る金と戻らない金に分けて書き出す 10分
4 いま住んでいる自治体に、住宅供給公社があるか調べる(都道府県名+住宅供給公社で出ます) 5分
5 UR賃貸住宅に、通える範囲の物件があるか見る 10分
6 次に払う礼金と仲介手数料が、何に対する対価なのかを1文で書く 5分
7 書けなかったら、その物件はやめる —
8 業者に消された候補があれば、地図と現地で自分で確かめる —

6番と7番が要点です。「駅が近いから」「新しいから」でも構いません。1文で書けるなら、払う価値があります。書けないなら、それは物件ではなく手続きに払っています。

11-1. 申込資格と物件数について

公社もURも、誰でもどこでも入れるわけではありません。私が住んでいる公社にも、収入等の申込基準があります。物件の数も、民間に比べれば限られます。

確認すること
その都道府県・市に住宅供給公社があるか(ないところもあります)
申込資格を満たすか(収入基準、単身可か、法人契約の可否)
通える範囲に物件があるか
ペットなど、自分に必要な条件が通るか

条件が合わないなら、この選択肢は使えません。その場合は、民間で戻らない金をできるだけ小さくする方向になります。仲介手数料の上限(3-2)は、そこで効きます。

11-2. 地図で分かること、現地でしか分からないこと

私が東戸塚で外した項目を、そのまま出します。失敗の一覧なので、逆から読めるはずです。

項目 どこで分かるか
幹線道路沿いかどうか 地図で分かります。私は見ていませんでした
坂かどうか 地図で分かります。地形が表示できる地図を使ってください
駅からの実際の距離と道のり 地図で分かります
周りに何があるか(スーパー・病院・役所) 地図で分かります
駐車場に自分の車が入るか 現地でしか分かりません。私は入りませんでした
音がどれだけ入るか 現地で、時間帯を変えないと分かりません
共用部が管理されているか 現地で分かります
その街で生活するのがどれだけ大変か 住まないと分かりません

上の4つを見ていれば、私は東戸塚を選んでいません。全部、契約する前に無料で確認できました。

そして最後の行が、この記事が「やり直せる契約から始める」と書いている理由です。住まないと分からないことは、どれだけ調べても残ります。だから、外れたときに出られるようにしておくほうが確実です。

そしてもう1つ、この表には載せられない項目があります。6-1に書いた浴室の話です。

自分が何を大事に思うかは、住んでみるまで自分でも分かりません。

調べる力では、ここは埋まりません。だから、外したときに出られる契約から始めます。

12. まとめ

  • 賃貸でいちばん高くつくのは家賃ではなく、間違えたときにやり直せないことです
  • 家賃と敷金は戻るか、住んだ分の対価です。礼金・仲介手数料・違約金は戻りません
  • 私は2か月で無理だと判断したのに、1年住みました。部屋のせいではなく、出口が有料だったからです
  • 住居の拘束日数とは、間違えたと分かってから実際に出られるまでの日数です
  • 業者は、あなたが最善を選ぶことでは報われません。実在する候補を「駐車場がない」と言われたことがあります
  • 候補を消すのは、業者の言葉ではなく自分が見た事実にしてください
  • 居住用の仲介手数料は、借主から取れるのは原則0.5か月分です。1か月分は、承諾があるときの上限です(国交省告示)
  • 住宅供給公社は礼金・更新料・仲介手数料がありません。UR賃貸住宅も同じ構造です
  • 公社は敷金が3か月分で、総額は民間より高く見えます。ところが戻らない金では逆転します
  • 公社に移っても、音の問題は消えませんでした。築28年だからです
  • 効いている変数は物件の種類ではなく、築年数です。種類が変えるのは、お金の性質のほうです
  • 礼金と仲介手数料が悪なのではありません。返ってこないものに払うのが問題です
  • 「礼金なし」だけでは、戻らない金はゼロになりません。保証会社の初回保証料、損害保険、退去時清掃費用の特約が乗ります。項目名ではなく合計で見てください
  • 東戸塚は83平方メートルの3LDKで、いまの家は70平方メートルの2LDKです。いちばん広い部屋からいちばん狭い部屋に移って、生活は良くなりました
  • 私は風呂が嫌いだったので、部屋を探すとき浴室を見ていませんでした。一人暮らしをして初めて大事だと分かりました。自分にとって何が効く変数かは、住む前には分かりません
  • 契約の形は、物件の種類では決まりません。分譲賃貸が定期借家とは限らず、定期借家は分譲賃貸に限りません。私が検討している分譲賃貸は「普通建物賃貸借・2年」です
  • 定期借家で失うのは「出る自由」ではなく「居続ける権利」です(借地借家法38条)
  • 原状回復の特約は、金額が書いてあるほうが健全です。ガイドラインの要件②が「賃借人が認識していること」だからです
  • 引っ越すかどうかは、満足度ではなく差引で決まります。不満があっても、払っているものが小さければ居続けるのが正解です

13. あわせて読むもの

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14. この記事で参照した情報源

内容 出典
礼金・更新料・仲介手数料がないこと/敷金は家賃3か月分 千葉県住宅供給公社 よくあるご質問
礼金・仲介手数料・更新料・保証人ナシ/敷金は月額家賃の2か月分 UR賃貸住宅
貸借の媒介に関する報酬の額(借主から受けられるのは原則0.5か月分) 国土交通省 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額
定期建物賃貸借(借地借家法第38条) e-Gov法令検索 借地借家法
原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 国土交通省 住宅局
賃借人に特別の負担を課す特約の要件(3つ) 国土交通省 同ガイドライン 第1章(PDF)

15. この記事について

本文の家賃・築年数・間取りは、私が実際に契約していた金額と、検討している物件の条件です。初期費用の比較に使った金額は、説明のための仮の数字です。条件は物件・地域・時期によって変わりますので、必ず実際の物件でご確認ください。

UR賃貸住宅と分譲賃貸には、私は住んだことがありません。公表されている制度と条文だけを扱っています。体験として書いているのは、民間の収益物件と住宅供給公社の2つだけです。

公社もURも、申込資格や物件の有無が地域によって異なります。制度の内容も改定されますので、実行の前に必ず公式の最新情報をご確認ください。

契約や退去に関する具体的な判断は、この記事の内容の適用範囲外です。個別の事情については、消費生活センターや専門家にご相談ください。

 

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