「あの数字の意味は何だったのか？」「ペイントレスとは一体誰なのか？」
『Expedition 33』をクリアしても、心に残るのは謎と余韻。――このゲームが提示するのは、単なるRPGの達成感ではなく、「創造」と「記憶」、「芸術」と「死」をめぐる深淵な問いです。
本記事では、ゲーム内に巧妙に隠された伏線をすべて繋ぎ合わせ、キャンバス＝世界という衝撃の真実から、ペイントレス＝アリーンの悲劇的な正体、「ゴマージュ」の本当の意味、そしてあなたが選んだエンディングが持つ哲学的意義まで――そのすべてを解き明かします。
もう一度、あの世界を深く旅し直す準備はできていますか？
物語の裏に潜む真実を知ったとき、『Expedition 33』は「遊んだゲーム」ではなく、あなたの人生観を揺さぶる一枚の絵画へと変わるでしょう。
1. 『Clair Obscur: Expedition 33』とは？美しくも残酷な世界の謎
『Clair Obscur: Expedition 33』は、その独創的で美しいアートスタイルと、心に深く突き刺さる重厚なストーリーで注目を集めるターン制RPGです。物語の舞台となるのは、一見すると芸術と文化の香りが漂う優雅な世界。しかしその裏側には、人々が常に死の恐怖と隣り合わせで生きる、残酷で不可解な呪いが存在します。
一体この世界で何が起きているのか？まずは物語の根幹をなす、美しくも絶望的な世界の謎から見ていきましょう。
1.1. 舞台はフランスがモデルの幻想世界「ルミエール」
本作の物語は、文明が崩壊した後の世界に存在する、幻想的な街「ルミエール」で繰り広げられます。フランスをモデルとしたこの街は、その名がフランス語で「光」を意味するように、かつては芸術と知識が花開いた文化の中心地でした。しかし、今はその面影を残しつつも、どこか退廃的で物悲しい雰囲気が漂っています。人々はこの美しい街で、年に一度訪れる恐ろしい運命に怯えながら暮らしています。
1.2. 33歳になると消される死の呪い「抹消（ゴマージュ）」
ルミエールには、「ゴマージュ」と呼ばれる恐ろしい現象が存在します。年に一度、「ペイントレス」と呼ばれる謎の巨大な存在が姿を現し、「モノリス」という石碑に刻まれた数字を1つずつ減らしていくのです。そして、その数字以上の年齢の人間は、理由もわからぬまま、文字通り「抹消」されてしまいます。
この悲劇は60年以上も前から続いており、ゲームが始まる時点では、モノリスの数字は「33」。つまり、33歳になった者は次の年には消え去るという、抗いようのない死の宣告が下されているのです。人々は若くして死ぬ運命を背負い、絶望の中で生きています。
1.3. 運命に抗う唯一の希望「遠征隊」
この死の螺旋から人類を解放するため、人々は一つの希望にすがりついていました。それは、諸悪の根源とされる「ペイントレス」を討伐すること。その目的のために、これまで何十年にもわたって「遠征隊」が組織され、ペイントレスのもとへと送り込まれてきました。
しかし、その旅路は過酷を極め、これまで数多くの遠征隊が挑んでは散っていきました。未だ成功した者は誰一人いません。そして今、主人公ギュスターブが所属する「第33遠征隊」が、人類の未来を賭けて、この絶望的な任務に挑むところから物語は始まります。
2. 物語を彩る主要登場人物たち
『Clair Obscur: Expedition 33』の重厚な物語は、それぞれが過酷な運命や癒えない過去を背負った、魅力的な登場人物たちによって紡がれていきます。彼らの思惑や葛藤が、この世界の謎をより一層深めていくのです。ここでは、物語の中心となる人物たちを紹介します。
2.1. 主人公とヒロイン：ギュスターブとマエル（アリシア）
- ギュスターブ第33遠征隊に所属する主人公の一人。長年エンジニアとして人々のために尽くしてきましたが、皮肉にも自身が「抹消」の対象となる32歳を迎えます。残された1年という限りある時間の中で、未来を切り拓くためペイントレス討伐にその身を捧げることを決意した、強い意志を持つ人物です。特徴的な義手は、彼の過去を物語っています。
- マエル（本名：アリシア）ギュスターブの義理の妹であり、第33遠征隊の最年少メンバー。幼い頃に「抹消」で両親を亡くし、ギュスターブの家族に引き取られました。過去の火災事故で心と体に深い傷を負い、声を失っています。その悲劇的な過去の記憶は曖昧になっており、彼女自身もそのすべてを思い出せないまま、運命の遠征に参加します。
2.2. 第33遠征隊の仲間たち：指揮官ルネと元教師シエル
- ルネ壊滅した第33遠征隊の生き残りであり、冷静沈着な指揮官。研究者の娘として育った彼女は、武力だけでなく知性で「抹消」の謎そのものを解明しようと試みます。その探究心が、一行を真実へと導く鍵となります。
- シエル遠征隊のもう一人の生き残り。元教師という経歴を持つ穏やかで社交的な性格の持ち主ですが、その物腰の柔らかさの裏には、暗い過去を秘めています。
2.3. 物語の鍵を握る謎の人物：ルノワール、ベルソ、そして「キュレーター」
- ルノワール遠征隊の前に突如現れ、圧倒的な力で一行を襲撃する謎の老人。その正体はヴェルソとマエルの父親です。
- ベルソ絶望的な状況に陥ったマエルたちの前に颯爽と現れる、謎に満ちた青年。彼は自身を最初の遠征隊「第0遠征隊」の出身だと語り、「抹消」の影響を受けない特異な存在です。火事で命を失いましたが、アリーン（ヴェルソの母親、ルノワールの妻）が作った絵画世界で創造されました。
- キュレーター主人公たちを陰ながら助け、武器を強化してくれる顔のない協力者。その正体は、ルノワールです。
3. 【ネタバレ考察】物語の核心！二つの世界とペイントレスの正体
ここからは、物語の根幹を揺るがす重大なネタバレを含みます。『Clair Obscur: Expedition 33』の世界観やストーリーの初見の驚きを楽しみたい方はご注意ください。これまでに提示された「常識」がすべて覆され、物語は一気に核心へと迫っていきます。
3.1. 衝撃のどんでん返し：この世界は「絵画の中」だった
物語最大のどんでん返し、それは主人公たちが生きる世界「ルミエール」が、現実世界などではなく、ある画家の一族が描いた**「絵画世界」**であるという衝撃の事実です。
現実世界には「クロマ」と呼ばれる魔法のような力を操る「画家」の一族が存在します。彼らは絵を描くことで、描いたものを具現化したり、創造物を生み出したりする超常的な能力を持っていました。そして、私たちがこれまで見てきたルミエールは、この一族の誰かによって創造された、キャンバスの中に存在する作り物の世界だったのです。
3.2. 悲劇の画家一族と、全てを変えた「火災事故」
なぜ、このような絵画世界が生まれたのか。その背景には、ある画家一族を襲った壮絶な悲劇がありました。
物語の鍵を握るのは、画家一族の中でも特に強大な力を持つ女性**「アリーン」と、その家族です。彼女には夫（ルノワール）、長男（ベルソ）、長女（クレア）、そして次女（アリシア）がおり、幸せに暮らしていました。しかし、一族内の派閥争いが原因で起きた悲劇的な「火災事故」**が、彼らの運命を狂わせます。
この火災によって、一家の希望であった長男ベルソが命を落とし、彼を庇った次女アリシア（後のマエル）は、顔にひどい火傷を負い、喉を焼かれて声を失ってしまったのです。
3.3. ペイントレスの正体は、息子を失い仮想世界に籠った母「アリーン」
最愛の息子を失った母アリーンは、その計り知れない悲しみに耐えきれず、精神の均衡を崩してしまいます。そして彼女は、現実から逃避するため、亡き息子ベルソがかつて描いた絵の世界――すなわち「ルミエール」――に、自らの意識を投映し、閉じこもってしまいました。
そう、人々が長年恐れ続けてきた**「ペイントレス」の正体**とは、人類を滅ぼそうとする怪物などではなく、深い絶望の果てに、仮想世界へ逃避した母アリーンその人だったのです。
彼女は絵画世界の中で、自身の記憶から亡き息子ベルソのコピーを創り出し、偽りの家族と共に、決して戻ることのない幸せな日々を繰り返していました。遠征隊が討伐しようとしていた巨大な存在は、悲しみに囚われた一人の母親の姿だったのです。
4. 「抹消（ゴマージュ）」の真実｜それは呪いではなく“警告”だった
ペイントレスの正体が悲しみに暮れる一人の母親だったという事実は、物語のもう一つの大きな謎、「抹消（ゴマージュ）」現象そのものの意味をも覆します。人々が長年、死の呪いとして恐れてきたこの現象は、実は悪意によるものではなく、ある切実な**“警告”**だったのです。
4.1. モノリスの数字が減る本当の意味
ルミエールの民が死のカウントダウンとして見ていたモノリスの数字。その本当の意味は、**「ペイントレス（アリーン）がこの絵画世界を維持できる力の限界」**を示す境界線でした。
彼女は意図的に人々を消していたわけではありません。むしろ、その逆です。彼女は必死にこの仮想世界を支えていましたが、その力は年々弱まっていました。モノリスの数字が1つずつ減っていくのは、アリーンの力が衰え、彼女が守れる人々の年齢範囲が狭まっていることを意味していたのです。つまり「抹消」とは、アリーンの力が及ばなくなり、世界の綻びから人々が消えてしまう現象だったのです。
4.2. 父ルノワールの思惑：妻を救うための非情な計画
では、なぜアリーンの力は弱まり続けていたのでしょうか。その裏には、ある人物の計画的な介入がありました。その黒幕こそ、現実世界にいるアリーンの夫**ルノワール（＝顔のない協力者キュレーター）**です。
彼の目的はただ一つ、仮想世界に閉じこもった妻アリーンを現実世界に連れ戻し、家族がもう一度、現実と向き合って生きていくことでした。彼は、絵画世界に長く留まることがアリーンの心身を蝕むことを知っていたのです。
そのために彼は、娘クレアの協力を得て、あえて絵画世界の人々を「抹消」させることで、創造主であるアリーンの力を弱らせようと画策していました。愛する妻を救うためとはいえ、結果的に多くの犠牲を生むこの非情な計画が、物語の裏で静かに進行していたのです。
4.3. なぜ第33遠征隊の「成功」が悲劇を招いたのか
この物語で最も皮肉なのは、第33遠征隊が成し遂げた「ペイントレス討伐」という結末です。人類を救うための英雄的な行為は、実は最悪の引き金となってしまいました。
世界を維持していた唯一の存在であるペイントレス（アリーン）を倒してしまったことで、絵画世界を支えていた最後の力が失われます。その結果、世界の崩壊を食い止めるものがなくなり、これまでとは比較にならないほど大規模な「抹消」が発生。ルミエールは、かつてない破滅の危機に瀕してしまうのです。
良かれと思って信じた正義が、結果的に世界を破滅に導いてしまう。このどうしようもない皮肉こそが、『Clair Obscur: Expedition 33』の物語に深い奥行きを与えています。
5. 交錯する家族の思惑｜誰の“正義”を選ぶのか
世界の真実がすべて明らかになった時、物語は単純な善悪の戦いではなくなります。そこにあるのは、登場人物それぞれが抱く、切実な願いと譲れない“正義”の衝突です。どの立場にも理があり、どの選択も誰かの幸福を奪うことになる──プレイヤーは、この家族の壮絶な葛藤の渦中で、究極の選択を迫られることになります。
5.1. マエル（アリシア）の選択：辛い現実より、偽りでも幸せな世界を
物語の終盤、全ての記憶を取り戻したマエル（アリシア）。彼女にとって「現実世界」とは、兄を死なせてしまった罪悪感、顔に残る火傷、そして失われた声という、耐え難い苦痛に満ちた場所です。
一方で、たとえ作り物の世界であったとしても、「ルミエール」は彼女がギュスターブや仲間たちと出会い、かけがえのない絆を育んだ大切な場所。彼女にとっては、こちらもまた紛れもない「現実」なのです。そのため彼女は、辛い現実に回帰するのではなく、たとえ偽りだとしても、仲間たちと共にこの世界で幸せに生き続けることを強く望みます。
5.2. 偽りのベルソの願い：作られた存在からの解放と、母の救済
絵画世界に存在するベルソは、自分が母アリーンによって創られた、亡き兄の「コピー」であることを自覚しています。彼は、母が悲しみから逃れるためだけに自分という存在を創り出し、この偽りの世界に囚われている現状に深く苦悩していました。
彼の願いは、この偽りの人生からの解放。そして何よりも、母アリーンを悲しみの連鎖から解き放ち、正気を取り戻させることでした。そのためには、母をこの世界に縛り付けている元凶、つまり絵画世界そのものを破壊するしかない。それが、彼にとっての母への愛であり、作られた存在としての最後の役目だと考えています。
5.3. 父ルノワールの信念：現実と向き合うことこそが家族の愛
一連の計画を裏で操っていた父ルノワール（キュレーター）の行動原理は、一貫して「家族を救う」という強い信念に基づいています。
彼は、偽りの幸福に浸り続けることは真の解決にはならないと固く信じていました。たとえどれほど苦痛を伴おうとも、家族全員が悲劇の事実を受け入れ、現実の世界で共に乗り越えていくべきだと考えていたのです。絵画世界を破壊するという彼の非情な計画は、歪んではいますが、家族が再び前を向いて歩き出すことを願う、彼なりの「家族愛」の形だったのです。
6. 運命の分岐点｜あなたが選ぶエンディングとその意味
物語の最終局面、プレイヤーは「絵画世界を守りたい」と願うマエルと、「絵画世界を破壊してでも現実に戻るべきだ」と願うベルソ、そのどちらかの立場を選んで戦うという究極の選択を迫られます。この選択は、単なるストーリーの分岐に留まらず、「偽りの幸福か、苦しみを伴う現実か」という、本作の根幹をなす哲学的なテーマをプレイヤー自身に問いかけます。
6.1. マエルルート「絵を描く人生」：理想郷の再構築が意味するもの
マエルの願いに味方し勝利すると、彼女はその力で絵画世界を再構築します。消滅したはずのギュスターブや遠征隊の仲間たちも復活し、誰もが笑顔で暮らす、まさに理想郷と呼べる幸せな世界が訪れます。マエルが望んだ、大切な人々と共に生きる人生が実現するのです。
しかし、この結末は単純なハッピーエンドではありません。復活したベルソの表情はどこか複雑であり、エンディングのマエルの顔がまるで絵具で塗り固められたように描写されることから、これは「彼女の都合の良いように塗り替えられた、作られた幸福」であるとも解釈できます。辛い現実から完全に目を背けたこの選択は、見方によっては「永遠に続く夢の中」というバッドエンドとも言える、非常に示唆に富んだ結末です。
6.2. ベルソルート「愛のある人生」：現実を生きるための尊い犠牲
ベルソの覚悟に味方し勝利すると、彼の願い通り絵画世界は完全に崩壊します。その代償として、コピーであるベルソ自身はもちろん、ギュスターブやルネ、シエルといった絵画世界で出会った全ての仲間たちは、存在そのものが消滅してしまいます。
場面は現実世界へと移り、そこには父ルノワール、正気に戻った母アリーン、そして現実の姿に戻ったアリシア（マエル）と姉のクレアが、亡きベルソの墓参りをする姿が描かれます。家族は計り知れない悲しみを抱えながらも、それを受け入れ、現実の世界で共に前を向いて生きていくことを選びます。多くの尊い犠牲の上に成り立つこの結末は、一般的に「グッドエンド」とされ、苦しみと向き合うことの尊さを示す「愛のある人生」の始まりを告げるのです。
7. ゲームタイトル『Clair Obscur: Expedition 33』に込められたテーマ
本作のタイトルは、単なる名前ではありません。物語全体のテーマと、その芸術的な世界観、そして主人公たちが置かれた状況そのものを、見事に表現しています。
7.1. 「Clair Obscur（明暗法）」：光と影が織りなす物語の対比
「Clair Obscur（クレール・オブスキュール）」とは、フランス語で「明暗法（キアロスクーロ）」を意味する美術用語です。これは、絵画において光と影のコントラストを強く意識させ、劇的な効果を生む技法を指します。
この言葉は、本作のテーマそのものを象徴しています。光溢れる美しい街「ルミエール」と、その裏に隠された残酷で暗い真実。偽りであっても幸せな仮想世界の光と、苦痛を伴う現実世界の影。そして、白と黒で分けられた敵のデザインなど、物語のあらゆる要素がこの「光と影の対比」で描かれているのです。
7.2. 「Expedition 33」：運命に挑む33番目の遠征
タイトルの後半部分「Expedition 33」は、物語の具体的な設定を示しています。
「Expedition」は、ペイントレス討伐を目指す「遠征」の旅路そのものを指します。これは物理的な旅であると同時に、世界の謎と自身の過去に向き合う、精神的な旅でもあります。
そして「33」という数字。これは主人公たちが所属する第33遠征隊の番号であり、同時にゲーム開始時にモノリスに刻まれた**「人々が抹消される年齢」**でもあります。つまり「Expedition 33」とは、「33」という死の運命に、33番目の挑戦者として挑む者たちの物語であることを示しているのです。
8. まとめ：難解だからこそ面白い！考察が深まる重厚なストーリー
『Clair Obscur: Expedition 33』の物語は、一度プレイしただけでは全てを理解するのが難しいほど、複雑で多層的に作られています。しかし、その難解さこそが、本作を単なるRPGで終わらせない、深い魅力の源泉となっています。
当初は「人々を消す怪物を倒す」という王道ファンタジーのように見えた物語は、次々と真実が明かされることで、その様相をガラリと変えていきます。世界そのものが「絵画」であり、倒すべき敵は「悲しみに暮れる母」だった。そして、希望だと信じた行いが「破滅」を招くという皮肉。単純な善悪二元論では決して割り切れない、登場人物たちの切実な願いがぶつかり合う、壮大な家族の悲劇が描かれます。
「偽りでも幸せな仮想世界で生きるか」「多くの犠牲を払ってでも辛い現実と向き合うか」という最後の選択は、プレイヤーに重くのしかかり、エンディングを迎えた後も、どちらが本当の“救い”だったのかを考えさせられるでしょう。
散りばめられた謎を解き明かし、登場人物たちの心情に思いを馳せるほどに、その物語の深さに引き込まれていく。難解だからこそ考察が捗り、長く心に残り続ける。本作は、そんな手応えのある重厚なストーリーを求めるプレイヤーにこそ体験してほしい、珠玉の一作です。
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